BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第22話
B−7エリアにある、林の中。
そこから、シバタチワカ(転校生)はそっと顔を出し、辺りに誰もいないことを確認してから目の前の林道に出た。
今彼女の顔に、あの仮面はついていない。少しはこの仮面も外さないと、息が篭って苦しいのだ。シバタチはゆっくりと息を吐いた。
―三人、だ。
もうシバタチは三人もその手に掛けた。その感触が蘇る。
―腹と喉元、そして顔面に、刃を突き立てた大元茂(男子3番)。
―背後から一突きにしてやった、成羽秀美(女子10番)と、二箇所を切り裂き、鮮血を噴出させながら倒れた水島貴(男子18番)。
―…殺されて当然だったのだ、奴らは。
改めてシバタチはその事実を確認する。奴らのような、悪意なき悪は滅してしまうべきだった。シバタチはそう思っていた。そして、これからも。
まだまだ、流されるべき血は足りない。このクラスを―壊滅させなければならなかった。
シバタチは、『チカ』のことを思った。
『チカ』は、優しい娘だった。悲しすぎるほどに。
誰も憎もうとせず、学校で飼われていた動物が死ねば、涙を流して悲しむ優しさ。全てを慈しむ心を、彼女は持っていた。そして彼女は、クラスメイトを愛した。信じていた。
だが、その愛するクラスメイトから『チカ』は裏切られた。悪意なき悪によって。
裏切られた彼女は、それでもクラスメイトを愛した。全てを許した。しかし、そんな彼女の慈悲深さも、クラスメイトは分かっていなかった。
彼女はそれでもクラスメイトを責めなかった。そして2ヶ月前のあの日…。
―彼女は、自殺した。
死体は、自宅の近所の林から見つかった。死体の近くの木には、切れたロープ。そして傍に落ちていたポリタンク。それは、その山の山小屋にあったものだった。
そして『チカ』の身体は…黒焦げだった。
おそらく、首を吊ろうとしたがロープが切れてしまって死ねず、発作的に山小屋のポリタンクの中にあった灯油で焼身自殺したのだろう―それが警察の見解だった。
部屋に、遺書が残っていた。しかし…自殺の理由は書かれていなかった。
ただただ親に…家族に…先立つことを謝ってばかりだった。そしてクラスメイトに「迷惑を掛けるけれど、ごめんなさい」と、書いてあった。
自殺の原因が知りたくて、必死で調べた。そして自殺の原因はクラスメイトたちの悪意なき悪だったと、知った。そしてそれに耐え切れなくなった彼女が、死を選んだことに。
遺書の真意も分かった。彼女は、最期の最期まで彼らを許そうとしたのだ。最期まで彼女は、優しかったのだと、気付いて哀しくなった。
そして葬式の日、初めてそのクラスメイトたちに会った。しかし、彼らは自分たちが『チカ』を追い込んだことに気付いてすらいなかった。そして全てを、忘れようとしていた。
―決して許されることではない。
―恨み、晴らさで、おくべきか…。
このクラスの奴らの抹殺。それが自分の使命だと、シバタチは信じていた。そうでなければ、こんなことはしない。
―全員に、究極の絶望と恐怖を味あわせ、葬り去る。それが私の役目…。
仮面を着けなおす。こうすると、ますます負の感情が高まり、自分を強くしてくれるような気がする。今の自分には、神が味方しているのだろう。
死神という名の―。
「転校生、これで三人とは…順調ですね」
ロッジの二階にあるモニタールーム。そのモニターに表示されているシバタチワカの表示。それを見ながら作東京平ニ尉は、背後に立っている犬島繁晃三佐に向かって、言った。
犬島は、このプログラムにおいて兵士の総指揮を執っていて、下士官の作東にとっては直属の上司に当たる。
その犬島が言う。
「うむ。あとは浅口君が到着すれば、W計画は成功だ。そうですな、先生?」
犬島の問いに、ソファに座っている福浜幸成(岡山県岡山市立央谷東中学校3年C組プログラム担当教官)が言う。
「ええ。浅口君はもうじき、来るでしょうし…」
その時、モニタールームの扉が開いた。そこには、モデルと見紛うくらいの長身の、女兵士だった。彼女が、敬礼して言う。
「浅口薫三曹、ただいま到着しました」
「ご苦労、これにてW計画、全ての準備が整った。ありがとう」
福浜がそう言うと、浅口はもう一度敬礼して、部屋を出て行った。それを見送ってから、福浜は呟いた。
「本番は、これからだよ」
序盤戦終了―――――――――
<残り29+1人>