BATTLE ROYALE
仮面演舞


第24話

 福浜の声は、周平の耳によく届いた。
『午前6時になりました。寝てる人はもう起きないと、殺されてしまうかもしれないので気をつけましょう』
―そういう事を言われると、余計皆びびっちまうんだろうな。
 そうやって恐怖を強くさせ、混乱と疑心暗鬼を生み出させてプログラムを円滑に進めるための術。福浜の言葉に、そんなものを周平は感じていた。
『まず、これまでに死んだクラスメイトの名前を発表します。死んだ順番です。まずは、
女子13番芳泉千佳さん』
―芳泉!?
 周平は驚きのあまり、鉛筆を取り落としそうになった。横を見ると、重宏も同じような状態にあるようだった。
 あの時、周平と重宏は千佳を気絶させたあと、その場を去った。あの時、あの場にいたのは他には美星優だけだった。常識的に考えれば、千佳を殺したのは優で間違いない。
 だが、彼女が進んで千佳を殺したのかどうか、それは疑問だ。あの時、周平は優に進んで人殺しをしそうな、そんな邪気を感じなかった。
―じゃあ、誰が…?
 結局、答えは出そうになかった。そしてなおも福浜の放送は続く。
男子2番浦安広志くん。女子16番湯原利子さん。男子3番大元茂くん。女子10番成羽秀美さん。男子18番水島貴くん。そして…』
 福浜が一旦、言葉をおいた。そして、一言言った。
転校生シバタチワカさん。以上7名です。まさか転校生が死ぬとは思いませんでした。なかなかこのクラスは優秀ですね。これからも期待していいんでしょうね』
「今、何て言った…?」
 周平は、重宏の方を見た。重宏も、状況が飲み込めないでいる様子だった。

―あの転校生が…シバタチが、死んだ!? 馬鹿な!

 あの時周平がシバタチに感じたもの、それは底知れない恐怖と、人間離れした何か。何か、人間という存在すらも超越したところを持っているような…。
 そして、深い深い虚無と憎しみ、そして…悪意。
―何かを企んでいるかもしれない。
 そう思ったからこそ、シバタチの直前に出発する陣とは合流しておきたかったのだ。陣を危険に晒すことになりかねないから。
 しかし、周平が考えている間も放送は続く。
『続いては、禁止エリアです。まず、7時から、H−2』
「おい周平、ここが禁止エリアになったぞ! あと一時間以内にここを出ないと…」
 重宏が言う。しかし、今は次の禁止エリアも聞く必要がある。それが分かっているのだろう、重宏は再び放送に耳を傾け始めた。
『9時から、G−10。11時から、E−4。以上です』
 残りの2エリアは、当座周平たちには関係のないエリアだった。
『これで最初の放送は終わりです。次は正午です。皆さん、生きていたら正午にまたお会いしましょう、それでは』
 そう言うと、福浜の声はもうしなくなった。

「…1時間後にここが禁止エリアになるか…」
 周平は、ぼそっと呟いた。これで、一刻も早くここから離れた方が良いのかもしれない、と思い始めていた。
 そんな時だった。隣に座っている重宏が、ゆっくりと大きな欠伸をした。それを見て、周平は気付いた。重宏は周平と違い、まだ一睡もしていないはずだった。
 ならば、このH−2エリアが禁止エリアとなる少し前まではここに留まり、重宏を少しでも休ませた方が良いのではないか?
 そんなことを考える。そして周平は、重宏に言った。
「重宏、まだここが禁止エリアになるまで時間はある。それまで少し休め」
「けど、そんなことしたら危ないだろ? ギリギリにここを出るんだから。それに、休んでる間に陣が死んだりしたら…」
 重宏は反対する。そのあたり、自己犠牲の精神が強い重宏らしいと、周平は思った。だが、周平は言った。
「芳泉や美星から逃げるとき、お前が言ったんだろ? 陣はそう簡単には死なない、って。あいつはしぶとい。1時間ぐらいで死ぬような奴じゃない」
「…そうかも、しれないな。じゃあ、お言葉に甘えて、休ませてもらうよ」
 そう言うと、重宏は身体を壁にもたれかからせた。

 重宏が休んでいる間、周平は考えていた。
 ついさっき、放送で名前を呼ばれていた転校生―シバタチワカのことだ。
―何故シバタチが死んだ、というのか。
 それが疑問となって、頭を離れないのだ。
 そこで周平は、あることを思い出した。シバタチは周平たちの前に初めて現れたとき、こう言っていた。

―…お久しぶりですね、皆さん。

 つまり、シバタチは周平たちと面識があった。つまり彼女の正体を周平が知っている可能性がある、ということだ。そしてもうひとつ、周平は引っ掛かることがあった。
―シバタチワカ。
 この名前を、何処かで聞いたことがあるような気がするのだ。
「シバタチ…ワカ、か」
 周平は何となく、鉛筆で地図の裏にシバタチの名前を書き出す。その瞬間、周平はあることに気がついた。
「まさか…アナグラム!」
 シバタチの名前を入れ替えて、書く。そして浮かび上がったのは…。

―ワタシバ、チカ。

「ワタシバ…チカ…。チカ…渡場智花!」
 浮かび上がった名前は、
渡場智花(わたしば ともか)―皆からは「チカ」と呼ばれていた(彼女の名前を誰かがチカ、と読み間違えたのが原因の呼び名だったはずだ。おかげで芳泉千佳は苗字でいつも呼ばれていた)少女の名。
 そう、2ヶ月前に焼身自殺した、元3年C組の―周平たちが守ってやれなかった、死なせてしまったクラスメイトの名だった。

 <AM??:??>転校生 シバタチワカ ゲーム退場?

                           <残り29人?>


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