BATTLE ROYALE
仮面演舞


第27話

「大丈夫か、ケン…」
「ああ、まあな、ヤス。しかし…ちっくしょう、多津美の奴…」
 柵原泰幸は隣を走る桑田健介を気遣いながら、G−6エリアを走り続けていた。
「次は、キチンと決めようぜ、ヤス。俺たちは生き残る。だろう?」
「…ああ」
 健介の言葉に、泰幸は頷いた。

 先頭の
玉島祥子(女子8番)に続いて出発した泰幸がまず最初にやったのは、自分の支給武器の確認だった。デイパックの中身を漁り、出てきたのが、今泰幸が持っているスリングショットだった。
 それを確認すると泰幸は、すぐにその場を立ち去った。怖かった。何時誰に襲われるのか分からないこの極限状況に泰幸は恐怖していた。
 おかげで、健介や、主君でもある『帝王』旭東亮二との合流も、失念していた。
 そして辿り着いたのが、G−10エリア。そこに隠れて、しばらくやり過ごすことを考えていた。しばらくは思うようにいった。誰も泰幸の近くには現われなかった。しかし、6時の定時放送。
 その放送が、泰幸から平穏を奪ってしまった。G−10エリアが、9時から禁止エリアになると発表されてしまったのだ。
 泰幸は慌てて身支度を整え、すぐにそのエリアから離れようと駆け出した。そうしてすぐに、誰かにぶつかった。
―終わりだ! 殺される…!
 そう思って泰幸はスリングショットを構えた。死にたくない。その一心で。
 だが、その時ぶつかった相手が声をかけてきた。
「ヤス…? 何やってんだ」
 そう、その時泰幸がぶつかった相手、それは泰幸と「ヤス」「ケン」と呼び合う仲の、亮二の部下仲間の健介だった。

 泰幸は健介と色々と話をした。
 まずは、亮二が健介と一緒にいない理由を泰幸は聞いた。
「それが、俺が出発したとき、亮二さんはいなかったんだ。間には幸島がいるだけだったのに…」
「そう、か…」
 泰幸は呟いた。


 旭東亮二。央谷東中だけでなく、その近辺の広い地域を牛耳る『帝王』と呼ばれる存在。
 誰も敵う者がいないと言われる、その圧倒的な力は始めて亮二の存在を知ったときからの、泰幸の憧れだった。特に取り柄も無く生きてきた泰幸にとっては、亮二の力、そして権力やカリスマ、全てが憧れだった。
 そんな時、亮二の取り巻きをしていた健介と知り合った。健介も亮二を慕っていて、泰幸もそうだと知ると、すぐに泰幸を亮二に紹介してくれた。
 亮二は、泰幸をすぐに仲間にしてくれた。泰幸はそれが嬉しくて仕方が無かった。
 それからというものの、泰幸は健介と共に、亮二のやる全ての行いに参加した。犯罪としか思えない行為を亮二はしばしばやっていたが、亮二は知恵を働かせて、いつもなんのお咎めも無いようにしてしまった。
 そんな亮二の圧倒的な力に、ますます泰幸は惹かれ、亮二を尊敬していった。


 そうやって泰幸が、亮二のことを思い出していたとき、健介が言った。
「なあ、ヤス。俺たちで優勝を狙わないか?」
 泰幸は驚いて言った。
「な、何言ってんだよ。亮二さんはどうするんだよ。それに、生き残れるのは一人だけで…」
「だから、俺たち二人が生き残って、最後に決着をつけようぜ、って言ってるんだよ。途中で亮二さんに会えたらそれで良い。亮二さんなら脱出の方法だって思いつくかもしれないんだからな」
 正直、杜撰な考えだと思った。泰幸は元々、慎重なところがあった。
 だが、健介の考え以上に良い案が泰幸の方からは出せないのも事実だった。仕方なく、泰幸は言った。
「…分かったよ」

 そうして泰幸は、健介と共にゲームに乗ることにした。健介の武器は大型の自動拳銃(コルト・ガバメントとかいうらしい)だったので、泰幸のスリングショットも加えて、強力な装備になった。
 そう思い、自信を持って庄周平と多津美重宏を襲ったが…結果は散々だった。
 健介は重宏に見事な背負い投げを決められてしまい、泰幸はそれで戦意を失ってしまった。
―俺、やっぱり駄目だなぁ…。
 そんな風に、ついつい考えてしまう。
 そして、走り続けてしばらくして、二人は目の前に中級ゲレンデのリフト降り場が見えるところ、F−8エリアまでやってきた。
―次に、どうするかを考えないと…。
 泰幸がそんなことを思っていたとき、健介が言った。
「おい、ヤス。あのリフト降り場のところにいるの、亮二さんじゃないか?」
 そう言われて、リフト降り場のほうを見る。確かにそこには、そこそこ体格のいい、茶髪の男子―旭東亮二がいた。
―亮二さん!
「亮二さん!」
 泰幸は亮二に向かって、声を上げた。すると、亮二はそれに気付いたらしく、こちらへとやって来る。
 やって来た亮二は、泰幸と健介に話しかけてきた。
「おう、健介に泰幸。何だか久しぶりだな」
「そんなに時間は経ってないのに、何だかそんな感じですね」
 健介が言った。すると、亮二が言った。
「悪かったな、健介。外で待ってやれなくて。けどその代わりに、俺は凄いものを仕入れたんだ。このゲームから抜ける方法を見つけたんだ」
「ほ、本当ですか!?」
 泰幸は少し興奮して、言った。
「本当だよ。これで死なずにすむぜ!」
「よ、良かった…、俺、脱出なんて思いつかないから、殺して回るしかないって思ってて…でも、そんな真似しなくてすむんですね?」
 そう言って、健介が膝をついた。手からコルト・ガバメントが落ちる。それを亮二が拾い上げた。
「ああ、良かったな…」
 亮二がそう呟いた直後、コルト・ガバメントの銃口を健介の額にポイントし、撃った。
 一発の銃声。同時に、額に穴の穿たれた健介の身体が雪の上に崩れ落ちた。もう二度と、動くことは無かった。
―え!?
 最初、泰幸には何が起きたのかがよく理解できなかった。そしてやがて、健介が亮二に撃たれて、死んだことが理解できた。
「な、何で…亮二さん…」
 泰幸は、必死で声を絞り出す。
「これが、抜ける方法だよ。今この場で俺に殺される。手っ取り早くて良いだろ?」
「な、何言ってるんですか、そんなの…」
「泰幸…。お前馬鹿だろ? 脱出なんて出来るはず無いんだ。だったら手っ取り早く、サクッと殺しちまう方が良いに決まってんだろ」
「ば、馬鹿げてる…、そんなこと…」
 この瞬間、泰幸の亮二に対する尊敬の気持ちはなくなっていた。全ては幻想だった。尊敬すべき誇るべき『帝王』の姿は、幻だった。
 泰幸はスリングショットを構える。無駄な行為のようにも、泰幸は思った。だが、せめて抵抗しようと思った。
 直後、亮二の手の中のコルト・ガバメントが火を噴いた。

「馬鹿だろ、お前ら」
 亮二は、泰幸のもう物言わぬ骸に向かって呟いた。
 亮二は最初から、このゲームに乗る気でいた。しかし、亮二自身の支給武器はただの万年筆だったし、どうしようかと思っていたところだった。健介と泰幸が現われたのは。
「お前らの武器は、ありがたく使わせてもらうぜ」
 そう言うと亮二は、泰幸のスリングショットと二人のデイパックを持つと、その場を立ち去った。
 残されたのは、信じていた者に裏切られた、哀れな二人の亡骸だけだった。

 <AM7:17>男子6番 桑田健介
 <AM7:19>男子9番 柵原泰幸 ゲーム退場

                           <残り27人?>


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