BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第28話
「男子6番、男子9番が死亡。男子5番による射殺の模様」
モニターについている兵士がそう言っているのを、作東京平二尉は横からミルクティー片手に聞いていた。
「…順調、ですね」
モニターを眺めていた犬島繁晃三佐に話しかけられて、福浜幸成(岡山県岡山市立央谷東中学校3年C組プログラム担当教官)は言った。
「そのようですね。あの子は?」
「A−3エリアに反応が見られます」
モニター番の一人だった、浅口薫三曹が言った。
「そうか…いや、楽しみだ。敵の正体に気がついたときのこのクラスの生徒たちの驚愕と恐怖に慄く様が眼に浮かぶようだよ」
福浜はそう言って、ニヤリと笑った。そして一言呟く。
「W計画は、順調に進行している。これからが真の制裁だ」
モニター番の交代の時間となり、浅口薫は席を立って、モニタールームから廊下に出た。
「…薫」
その声に反応して薫が振り向くと、そこには作東京平がミルクティー片手に立っていた。京平は何時でも何処でもミルクティーを飲んでいるような気がする。
「京平さん。どうしたの?」
薫は呟いた。
作東京平は、浅口薫の婚約者だった。
婚約したのは何時だったか…確か、薫が24に、京平が28になったときだったから、ちょうど1年前のはずだった。
専守防衛軍兵士同士の婚約は難しいと、犬島三佐にも言われたが、大丈夫だと薫は確信していた。そしてキチンと、ここまで婚約関係は続いている。
「大変だったろ、今回の任務は」
「まあ、ね」
作東はカップに入ったミルクティーを一息に飲み干すと、言った。
「けどな…、良いのか? こんなこと。俺は正直、辛いよ」
「……」
薫は、しばらく沈黙した。
分かっていた。京平はこういう性格だということは。彼は優しい。優しすぎる。エリートで、専守防衛軍の士官としては優秀な部類に入る京平だが、その性格のせいか、一尉昇進には時間がかかっている。
「でも、私は今回のことはすべきだったとは思う。だって、彼らのしたことを許すわけにはいかない。あなただってそう思うでしょ?」
「確かにそうだ。俺もそう思ってるから」
「…智花は、京平さんと仲が良かったしね」
「…ああ」
しばらくの、沈黙。やがて、京平が話し始めた。
「俺は、さ。子供の頃から、妹がほしかったんだ。もちろん変な意味じゃないぞ? 近所にいた幼馴染の妹ってのが、それはそれは良い子だったんだ。だから、薫と婚約して彼女に始めて会った時、良い子だなって思ったんだ」
薫は何も言わない。
「だから、彼女が死んだとき、俺も辛かった。だから、この任務に参加してるんだ。けど…まだ迷ってるよ、俺は。でも、薫は強いな。わざわざ偽名まで使って軍に入ったんだから。驚いたよ、最初は」
そう、浅口は偽名だった。本名は渡場薫。彼女は正真正銘の、渡場智花の姉だった。
偽名を使ったのは、いずれこの時が来るときのためだった。このクラスへの制裁を加えるとき、智花の身内だと発覚するのを防ぐため。
いや、薫だけではない。この場にいる人間のうち何人かは、智花だけでなく、渡場家に関係のある者だった。
智花の姉である薫や、その婚約者である京平だけではない。
犬島三佐は薫や智花の母方の叔父だった。そして何より、担当教官の福浜幸成は…薫と智花の父だった。
薫は、京平に言った。
「分かってる。京平さんの気持ちは、凄く。でも…もう止まることは出来ないの。どんな結末を迎えようとも、先へと向かうしか、ないのよ…」
「薫…」
「じゃあ、私は休んでるから」
そう言って、薫は自分の部屋のドアを開けて、中に入った。廊下では、京平が一人佇んでいた。
<残り27人?>