BATTLE ROYALE
仮面演舞


第30話

 林の中を走る一人の女子生徒。その先を走る伊部聡美と至道由を、彼女は追いかけていた。
―ちょっと予定が狂ったわね。でも、私が誰か知られていないだけ好都合かしら?
 そう思いながら、右手に芳泉千佳のものだったレイピアを持った
美星優(女子12番)は走っていた。運動神経にはそこそこ自信があったが、雪の上は走りにくい。
 だが、その条件は聡美と由も同じはずだったし、向こうは傷を負った聡美が逃げる上で重荷になるはずだ。
 そう思いながら、優は走っていた。
 何より、ついさっき殺した木之子麗美は何も持ってはいなかったが、ひょっとしたらあとの二人が銃の類を持っているかもしれないとも思った。そんな期待を抱いて、優は二人を追いかけていた。
 今彼女が欲しているもの、それは銃だ。この状況において、優勝するためにはレイピア一本では心許ない。仮に最後のほうまで残ったとしても、だ。
 確実に銃が支給されている生徒はいるのだ。千佳を殺すために
庄周平(男子10番)多津美重宏(男子13番)を追い払ったとき、周平は銃を持っていた。これは間違いない。
 しばらくはもう一つ持っているエアガンで、周平たちに使った芝居をするという選択肢もあるにはあるが、出来れば優は使いたくなかった。
 確かにあの時の周平と重宏の反応で、この芝居に効果があることは分かったが、ばれたりしたらおしまいの芝居でもある。
 だからこそ、優は銃を欲していた。いざとなったら、真っ向勝負に出ることも可能な武器を。
 優は、生き残るのに必死だった。

 優は、幼い頃から芝居の世界に憧れていた。優の母が、その昔劇団に所属していたことがあったからだ。
 母のいた劇団は小さな劇団で、苦しいときもあったが、芝居をするのは楽しかったと、いつも言っていた。そしてある日、母に連れられてある劇団の舞台を見に行って、それに魅了させられた。あの日からずっと、優は女優になる夢を持ち続けてきたのだ。
 そして中学生になったとき、演劇部に入部した。もともとそこそこの美少女だった優は、役者だった母譲りの演技力で、すぐに主役女優となった。
 優が中学2年になったとき、更なる転機が訪れたのだった。
 街中で受けたスカウト。最初こそ本当のことかどうか不安になったものの、スカウトしてきた事務所がちゃんとしたものだと分かると、優は決意した。スカウトを受けることを。
 それからは大変だった。演劇部のとき以上のレッスンを積み、少しずつドラマや舞台などに出た。
 それでも演劇部の劇に、休みがちにはなったが参加した。自分は女優になった。そのプライドにかけて、女優業が忙しいから演劇部を辞める、なんてことは出来なかった。
 そして遂に今年、優に連ドラのレギュラー出演の話、さらに映画出演の話まで入ってきた。
 優は喜んだ。母もまるで自分のことのように喜んでくれていた。
―もっと上に行ってみせる。将来は大女優になるんだ。
 その矢先の―プログラムだった。最初、優は絶望した。これで大女優の道は閉ざされた、デビューしたときに転校しておけばよかったなどと思った。
 しかし、優は諦めたくは無かった。大女優の夢を。それに、だ。
 優はもっと前向きに考えようと思った。もし優勝できたら、元プログラムの優勝者の女優となる。そうすれば、芸能界で箔がつくとも思えた。
 そう考えたとき、優は心に決めた。
―優勝する。大女優の夢を叶えるために。そしてこのプログラムを夢へのステップとするために。

 やがて優は、林道に出た。走ってきた方角からすると、E−7エリア辺りになりそうだが、優にははっきりとは分からなかった。
 まだ聡美と由は目視できる距離にあった。
―よし。
 しかしその時、ふと横を向いた優の眼に一つの人影が映った。その人影は若干遠くにいるようで、はっきりとは見えない。しかし優は、その人影の正体にすぐに気付いた。そして驚愕した。
 血のこびりついた仮面。そう、そこにいたのは、6時の放送で名前を呼ばれたはずの仮面の女―
シバタチワカ(転校生)に他ならなかった。
 優は、目の前の光景を疑った。
―そんな、あの転校生は死んだはずじゃ…!
 その時、優はシバタチの視線がこっちに向いているような気がした。
「―!」
 優は慌てて林道の木の陰に隠れた。そしてもう一度シバタチのいた方向を見ると、もうシバタチの姿は無かった。
―何だったの? 幻? それとも本当に…? …そうだ、二人は!
 すぐに優は聡美と由のいた方角を振り返った。しかし、二人の姿はもう何処にも無かった。今の一瞬のうちに見失ってしまったようだった。
「しまった…!」
 優は少しばかり落胆したが、すぐにその場を離れた。

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