BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第34話
雪がまた、少しずつ強くなってくる。そんな中、I−2エリアに位置する道路の上を歩く二つの人影があった。
「いないな、誰も…」
人影の一人、平井誠(男子15番)は、隣の福居邦正(男子16番)の方を見て、呟いた。
「うん、この辺には誰も隠れてないみたいだ…」
邦正も呟いた。そして、落胆の溜息を吐いた。
プログラムが始まり、クラスメイトが出発し始める中、誠は必死で先のことを考えた。親友の邦正とは、間の御津早紀(女子15番)をやり過ごせば合流可能だ。
しかし、早紀の人当たりの良さは誠もよく知っていた。だから、誠は早紀を仲間にすることも視野に入れて、出発の時を迎えた。
だが、出発した誠を待っていたのは、うつ伏せに倒れた芳泉千佳(女子13番)の死体だった。
―ゲームはもう、始まっているのか…。
誠がその現実に打ちひしがれていたその間に、早紀は出発してしまっていた。それに気付いたとき、誠は少しばかり落ち込んだが、すぐに気持ちを切り替えた。早紀を仲間にするのは、あくまでも出来たら、の話だった。何よりも重要だったのは邦正との合流だった。
誠は千佳の死体に合掌すると、その直後に姿を現した邦正と合流すると、すぐにその場を離れた。
銃声が響き、その音にますます殺し合いの状況を間近に感じながら誠と邦正は移動し続け、J−4エリアにあった立体駐車場で休憩することにした。
おそらくスキー客のものらしい、四輪駆動車の陰に隠れて吹雪をやり過ごしながら、二人はお互いの支給武器を確認した。
誠に支給された武器はフライパン、邦正にはサバイバルナイフが支給されていた。サバイバルナイフは使えないことは無かったが、フライパンは明らかにハズレのような気が、誠はした。しかし、サバイバルナイフがハズレではないとは言っても、銃を持っている人物がいるのは既に明らかな今、どれだけ役に立つかは疑わしい。
だが、今はこの先どうするかについて決めておくのが重要だった。誠は、邦正に言った。
「邦正。邦正は、この先どうしたい?」
「…俺は決めてない。けど…誠は俺と合流した。つまり、殺しあう気は無いんだろ?」
邦正ははっきりと言った。
―さすがによく分かってる。
誠はそう思った。そして、少し意地の悪い質問をした。
「でも、俺が邦正を利用しようとしている、なんて可能性は考えないのか?」
すると、邦正は言った。
「変なこと聞くなよ。俺は、誠がどれだけ生きたがってるか、よく分かる。けど、人を殺すなんて真似はしたがってない。だから、誠はこのゲームには乗らない。これは間違いない」
「…よく、分かってるよ。邦正」
「当たり前だろ? 俺たちは、夢を共有してるんだ。夢が叶うまでは、死ねないし、そのために罪を犯す気はお互いに無い」
「ああ。じゃあ、決まりだな。方針は…このゲームからの脱出方法を探す、ってことで」
「そうしよう。それがいい」
それからずっと、二人は周辺の集落を中心にクラスメイトを探して回った。やる気でないクラスメイトを探し出し、合流して脱出の方法を考え出す。それが二人の考えた方針だった。
しかし、成果は上がらなかった。一度だけ、赤磐利明(男子1番)を見かけたが、雰囲気が良くなかったように誠は思って、声はかけなかった。
そうこうしている間に太伯高之(男子12番)と千佳以外の死者が定時放送で伝えられ、二人は少しばかり焦り始めた。
そしてより力を入れてクラスメイトを探したが、結局誰も見つからなかった。そして、今に至っている。
「…邦正」誠は言った。
「ん?」
「絶対、生きて帰ろうな。生きて帰って…二人で、夢叶えよう。二人で、映画を作ろう」
「ああ。絶対だ」
邦正が言う。
二人の夢、それは、二人で映画を作ること。大好きな映画を作って、見た人全てを感動させたい。ずっとそんな夢を抱いていた。誠と邦正が、所属していた映画研究会に入部したその日からずっと抱き続けていた夢。
知り合って、友達になってからずっと、そんな将来を語り合っていた。
―こんなところで、諦めてたまるか。
それが二人揃っての意見だった。
―絶対に、生きて帰る。そのために、ここから脱出する方法を見つけ出す。
そんなことを考えながら、二人が道路の角を曲がろうとしたときだった。
「うわあああっ!」
突然の叫び声。そして何者かが誠の額目掛けて棒状のものを振り下ろしてきた。
「―!」
誠は咄嗟に、手に持ったフライパンでそれを受け止めた。大きな金属音が響き、誠の手が衝撃に痺れた。
「誠!」
邦正が誠に駆け寄ってきた。
「大丈夫…、それより…」
誠は邦正にそう言って、襲撃者の方を見た。そして、言った。
「何で、俺たちを襲うんだ? 純太…」
そこに立っていたのは特殊警棒を手に持った、邦正と同じく誠の友人(といっても、邦正ほどの親友ではなかったが)の妹尾純太(男子11番)だった。
「純太、何やってんだよ…?」
邦正が、驚いた顔で呟いた。
純太は答えようとしない。純太はその眼を血走らせ、狂気を秘めた表情で二人を睨みつけてくる。
「殺してやる…皆人殺しなんだ…なら、やられる前にやってやる! やってやるぞぉぉぉ!」
そう叫ぶと、純太は二人に向かって特殊警棒を振り回してきた。
「くっ…!」
誠は再び、フライパンでその攻撃を防いだ。
「やめろ、純太! 俺たちはやる気じゃない!」
「うるさい! そんなこと、分かるものか! そう言って、僕を騙して殺す気だな!? 信じるものか!」
するとその時、邦正が叫んだ。
「やめろ、やめてくれ純太! 話を聞いてくれ! 俺たちは脱出する方法を探してる。だから…純太も、一緒に来いよ、な?」
「脱出…?」
純太の動きが、一瞬止まった。誠も、邦正に続けて言った。
「そうだ、純太。俺たちと一緒に、脱出の方法を探そう! 皆で生き残る可能性を、探そう!」
「……」
純太は、しばらく黙っていた。そして、言った。
「…嘘だ。そんなの、信じられるかーっ!」
そしてまた、純太は特殊警棒を振り回してきた。
「くそっ…!」
誠は、思いっきりフライパンを振るった。フライパンは純太の側頭部にきれいにヒットし、純太はその場に昏倒した。
「邦正、走れ!」
「で、でも、純太は…」
「…もう、純太の説得は諦めよう。邦正」
誠がそう言うと、邦正は少し俯いた。そして、言った。
「でも俺、何だか悔しいよ…」
「…俺もだ」
二人はそのまま、走り去っていった。
<残り25人?>