BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第44話
足元がふらつき何度も転びそうになりながらも、至道由(女子6番)は山道を登って、山荘へと近づいていた。
『仮面』に斬りつけられて出た血液は、まだ完全には止まらずに雪の上に滴り落ちていたが、そんなことに構っているだけの余裕は由にはなかった。
もう一度、前を見た。目の前の視界は霞み、はっきりと見えない。
意識を取り戻したときはまだ何とかなっていたが、今ではもう限界だった。
―…もう、駄目なのかな…。ごめんね…麗美、聡美…。
前がもう殆ど見えない。うすぼんやりとした影だけが見える。そんな状況でも由は歩を進めた。最後の最後まで足掻こうと思った。生きたかった。
しかし、終わりの時がやって来た。
山荘の影が大きくなったとき、由の身体が地面へと崩れ落ちた。
「―――!」
誰かの声がする。しかしもう意識のはっきりしない由には、それが誰なのか理解できなかった。
「…どうさん、至道さん!」
―ああ、誰かが私を呼んでる…。誰だろう、私の名前を呼ぶのは…。
「どう…の! だれ…れたの?」
声が断片的にしか聞こえなくなった。人らしき影がいくつか見えるが、はっきりとは分からない。ただ、誰にやられたのかを聞いているように、由には聞こえた。
やがて、声すら聞こえなくなった。
―もう、終わっちゃう…。全部、終わる―。
そう思った瞬間、由はあることに気付いた。
自分を見ている人影の中に、あの『仮面』そっくりの人影があることに。
そこから先は、考えて行動したわけではない。ただ、瞬間的に由は、その『仮面』そっくりの人影を指差した。直後、由の意識は別世界へと飛んでいた。
そこは、何もない空虚な世界だった。
由は何が起きたのかも分からずに、一歩一歩歩いていく。真っ白で、清浄で。上下左右も分からない―まるで宇宙空間のような場所。
するとそこに、二人の人影が現われた。
由にはすぐに二つの人影の正体が分かった。麗美と聡美。由より先にその命を散らした親友二人に間違いなかった。
―麗美、聡美!
由は思わず二人に向かって駆け出していた。二人がそんな由を抱き締めた。二人よりも小さい由は、二人の身体にしがみついた。
―一人にして、ごめんね。ごめんね…。
麗美が呟いた、眼には涙が浮かんでいる。
―でも、もう一人にはしないよ。これからはまた三人一緒だから。三人で、色んな話をしよう?
聡美がそう言ったのを聞いて、由は思った。
また会えた。もう会うことは叶わないと思っていた親友たちが、今目の前にいた。何よりも大切な親友。これからは絶対に離れない。離さない。
―ずっと、一緒だよ―。
三人は真っ白な空間の奥へと消えていった。
「至道さん、至道さん!?」
上斎原雪は、もう物言わぬ至道由の骸を揺すっては声をかけていた。しかし、由は決して答えたりはしなかった。
由の魂は、先立った親友達と同じ場所へと上っていってしまっていたのだから―。
その事実に気付いた雪は、叫んだ。
「何で…なんでこんな事になるのよ!」
涙が浮かんだ。何故、こんなことになってしまうのか、雪には理解できなかった。
そして雪が、由の死体を放置しておくのは忍びないと思って山荘へと運ぼうとした時、雪は気付いた。共に由の最期を看取った仲間のうち、幸島早苗と玉島祥子が、粟倉貴子の方を疑惑に満ちた目で見ていることに。
由が、誰にやられたのかを祥子に聞かれて指差した相手―貴子の方を見て。
<AM11:21>女子6番 至道由 ゲーム退場
<残り22人?>