BATTLE ROYALE
仮面演舞


第45話

『皆さん、正午になりました。そろそろ疲れてきたんじゃないでしょうか? そんな時は仲間の誰かに見張りでも頼んで仮眠をとりましょう。もっとも、その仲間に寝首をかかれるかもしれませんがね』
 そんな調子で話す福浜の声が響いたのを聞いて、ロッジの中で
政田龍彦(男子17番)は胸糞悪い気分になった。隣に座っている灘崎陽一(男子14番)も表情を歪めているあたり、龍彦と同じ気分だったのだろう。
 だが当然、龍彦がそんな気分になっていることなど知る由もない福浜は、放送を続ける。
『まずはこれまでに死んだクラスメイトのな名前を発表します。
男子6番桑田健介くん男子9番柵原泰幸くん女子4番木之子麗美さん女子2番伊部聡美さん男子5番旭東亮二くん男子11番妹尾純太くん女子6番至道由さん。以上7名です』
 すぐに龍彦はメモを取る。そこで一つ思った。

―あの旭東が、死んだ―?

 龍彦には、あの『帝王』旭東亮二がこの段階で死ぬことなど考えてもみなかった。龍彦の計画実行の障害の一つになる存在だと思っていたほどだ。
 だが、亮二は死んだ。亮二ですら死ぬのだから、やはりやる気の―それも相当強い者がいるということになるだろう。
―こりゃ、警戒する必要があるな。
 そこまでの思考を高速で進めた龍彦は、福浜の放送の続きを聞いた。
『良いペースを保っているようです。この調子で頑張ってほしいですね。次に、禁止エリアの発表です』
 龍彦はメモの準備をした。
『13時から、J−3。15時から、B−6。17時から、G−9。以上です。それでは、次の放送まで、さよなら』
 そう言って、福浜の放送は終わった。
「…気分悪いな、龍彦」
 陽一が言う。
「ああ、同意見だよ、俺も。だからこそ、計画を俺たちは実行しなくちゃいけない」
「遂に、動くんだな」
 さっきまで黙っていた
児島真一郎(男子7番)が言った。真一郎は、テーブルに突っ伏して眠っている早島光恵(女子11番)御津早紀(女子15番)を一度見やると、また言った。
「しかし、政田。お前が言っていた作戦―、御津たちを危険に晒したりはしないか? 俺はそれが心配なんだが…」
「それは何とも言えない。けど、いざとなったら俺たちが彼女たちを守ってやればいい、そうじゃないか?」
「そうだよ、児島」
 陽一も言う。すると、真一郎が答えた。
「…分かった。それじゃ、これから行動開始か?」
「ああ、二人とも、早島と御津を起こしてくれ。これから出発だ」


 同じ頃、C−1の山荘の中では重苦しい沈黙が流れていた。

―何で、何でこんな事になっちゃったの!?

 上斎原雪は、一人頭を抱えていた。問題は、雪たちの前で息を引き取った至道由が、玉島祥子に誰にやられたのかを聞かれて示した相手―雪の大親友、粟倉貴子のことだった。

 由はあの時確かに、貴子を指差した。つまり、由を襲ったのは貴子、ということになる。
 最初幸島早苗と祥子がそれを主張したとき、雪はそんなことがあるはずがないと必死で貴子を庇った。益野孝世と吉井萌も、それに同調してくれた。
 だが、早苗と祥子の主張も、おかしいものではなかった。
―貴子が山荘に到着するのが遅れた理由。何者かに追われ、それを撒くのに時間がかかったというが、その真偽は分からない。
―政田龍彦が言った脱出の方法についても、貴子自身は方法の詳細を聞かされていない。すなわち、嘘の可能性がある。
 それらの考え方から、二人は貴子=由殺害の犯人説を主張していた。
 これに雪も孝世も萌も、反論することが出来なかった。二人の主張におかしな点は探せば見つかるだろう。しかし、あまり頑強に反論し続ければこのグループは崩壊してしまうかもしれない。それだけは避けたかった。
 そう思うと、雪には何も出来なかった。
 肝心の貴子は、由が自分にやられたと示したこと、そして友人たちに疑われたことがショックだったのか、俯いたまま何も言わなかった。
 雪には、二人を何とか説得して、貴子を落ち着かせるために予定通り、萌の次の見張りに出させるのが精一杯だった。しかし、二人は条件として貴子に、彼女の支給武器である柳刃包丁だけでの見張りを言い出した。
 雪もさすがにそれには反対したが、貴子がそれに従って出て行ったため、何も言えなくなってしまった。
 分かっていた。雪には分かっていた。早苗も祥子も、怖いだけなのだ。次々とクラスメイトが殺される状況で、疑り深くなっている、ただそれだけのことだと。

―大丈夫、大丈夫。貴子は人殺しなんかじゃない。貴子は…貴子は…。

 雪は信じていた。大親友の貴子の潔白を。由のあの行動は、ただの間違いだったと。そしてやがて全て収まり、元の関係に戻れることを。

…しかし、雪は気付いていなかった。そもそも由がここにやってきた時、そして貴子を見張りに出した時、全て終わっていたのだということに。

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