BATTLE ROYALE
仮面演舞


第46話

―何故、こんなことになってしまったのだろうか。
 粟倉貴子は山荘の外で見張りをしながら、膝を抱えて考えていた。
 山荘に現われた至道由が最後に、自分を殺したのは貴子だと示した。それがきっかけで、この山荘の中の関係は崩れ始めていた。
 幸島早苗と玉島祥子が貴子を疑う。そして上斎原雪と益野孝世、吉井萌がそれを必死で否定する。そうして気まずさと険悪さが生まれる。
 だが、貴子は決して何も言わなかった。この場合の沈黙は良くないことは分かっていた。しかし、何も言わなかった。
 確かに貴子自身は潔白だ。由とはこのゲームが始まってから一度も会っていない。しかし、由は貴子が犯人だと示した。
 それによっての疑念は、貴子には耐えられなかった。だから雪が、見張りに出してくれたことは嬉しかった。素直に大親友の雪に感謝した。
 ぎゅっと、その手にある柳刃包丁を握り締める。
 早苗と祥子は、貴子にこの貴子自身の支給武器以外、持つことを許可してはくれなかったが、それは当たり前だろう。二人は貴子を疑っているのだから。

―何故彼女は、私を犯人だと示したのか…分からない。

 あれから、貴子はずっと由が自分を犯人だと示した理由を考えていた。それが分かれば、少しはこの状況を打破できるかもしれないと、一縷の望みに賭けていた。


 まず考えられるのは、由が貴子に何らかの悪意を持ち、犯人だと示した可能性。
 しかし、貴子には由がそんなことをする動機、メリットが思いつかなかった。そもそも由とはあまり話をしたことがなかったし、由のことは文芸部所属で、さっきの放送で名前を呼ばれた
伊部聡美(女子2番)木之子麗美(女子4番)と仲が良かったことぐらいしか知らない。
 だから、この可能性はすぐに捨てた。

 次に、あれは別に貴子が犯人だと示したのではなく、手を動かしただけ、という可能性。
 しかしこれも可能性は薄い。
 あの時、由には辛うじて意識があったようだった。そうなると、あの時の祥子の呼びかけに反応せずにただ手を動かすはずがない。きちんと応じるはずだ。

 そして最後に考えたのが、貴子と真犯人を間違えた可能性。
 これが一番有り得そうな気がした。
 あの時、由に誰が誰だか認識できていなかったとしたら、真犯人のつもりで彼女は指差したということになる。


 そうなると、真犯人は貴子に外見上の特徴が近い人物ということになる。
―なら、今この会場にいる人の中から、私に近い外見の人に絞られることに…。
 そこまで考えた時、貴子は背後に何者かの気配を感じた。そして振り返った瞬間、貴子は首筋に痛みを感じた。直後、不思議なことに貴子の意識はあっという間に現実から遮断された。


『私』は、目の前で倒れこんで気を失っている粟倉貴子を見下ろしていた。
―ここまでは上手くいっている。至道由がまだ生きていたのは予想外だったが、この山荘の前で死んだのは逆に好都合だった。幾分かやりやすくなった…。
 この山荘にいる人間たちは死ななくてはいけない。悪意なき悪という業の報いを、受けなくてはいけない。今から『私』によって。
 そのためにも。粟倉貴子には『底』に落ちてもらう。彼女は悪人ではない。むしろ、ここにいる者たちのなかではまだ、マシな方だろう。だが、彼女も報いを受けるべき者であることに変わりはない。

「自分のこれからを恨むなら、今この瞬間にこの場所にいたという自分の運命を恨むといい」

『私』は貴子にそう囁きかけると、山荘へと近づく。そして、自分を手助けしている死神に感謝の辞を述べた。そして、思った。

―あとは、此処の時間(とき)を止めるだけ…。それだけだ。

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