BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第47話
相変わらず、山荘の中には重苦しいムードが漂っている。
そんな状況下で話をしようという者もなく、雰囲気はますます悪くなる一方だった。その空気に耐え切れなくなった吉井萌は、立ち上がると言った。
「あ、あの…萌、ちょっとトイレ行ってくるね」
そう言うと、萌はリビングを出た。
―もう、あんな雰囲気嫌! 耐えられないよ、あんなの…。
萌は心の中でそう思いながら、廊下を歩いていた。トイレに行くと言って出てきたが、そんな気は全くなかった。一刻も早くあの場所から出たかっただけだ。おそらく、上斎原雪辺りはそんなことは分かっているだろう。
さっき、至道由が粟倉貴子を犯人と示したことについて意見が二つに割れて以来、誰も口を開かない状況が続いている。萌としては、貴子が由を殺したと主張する幸島早苗や玉島祥子の言い分も分からないではなかった。
確かに、貴子にはアリバイがない。
おそらく由が襲われたと思われる頃、まだ貴子はここにやって来てはいなかった。そしてそれまでの貴子自身の行動を証明する方法がないのだ。
貴子が会ったという、政田龍彦(男子17番)に会うことが出来れば、貴子への疑惑も解消されるかもしれないとも思える。しかし、今のこの状況で龍彦のところへ行こうとは言い出せそうにない。
状況は、極めて貴子に不利としか言いようがない。
だがしかし、萌は信じていた。貴子の潔白を。それはきっと、貴子の大親友の雪や、萌と同じく貴子を擁護した益野孝世も同じだろう。
―貴子ちゃんは人を殺したりする人じゃない。いつも一緒にいれば、そのくらいは萌にも分かる。
確かに、貴子は多少独占欲が強い。しかしそんなものは周りの許容範囲のこと、人殺しにまで発展するようなものではない。
―何とか、貴子ちゃんの無実を証明できれば…。
萌がそう思っていた時だった。萌はあることに気がついた。
「―?」
廊下の先の、山荘の勝手口のドア。それが、開いていたような気がしたのだ。
―あれ? 勝手口は鍵をかけてたと思うんだけどな…。
萌はそっと、勝手口へと近づく。そしてそのドアを見て、驚愕した。ドアの窓ガラスにガムテープが貼られ、その箇所が割られて鍵が開けてあったのだ。
―えっ? こ、これってまさか…!
どこかで聞いたことがあった。ガラスにガムテープを貼って、そこを割るとガラスを割る音がしない、ということを…。
「ま、ま、まさか…」
すぐに萌は、最悪の事態を想定した。
―侵入者!
大変なことになった、と萌は思った。外には見張りに出ている貴子がいる。その貴子に話しかけずに直接裏からガラスを割ってまで入ってくるということは、その人物は到底仲間に出来る相手ではない。
「やる気の人…!」
冷や汗が流れ出す。緊急事態だった。もはや貴子の無実を証明するとかそういう話をしている場合ではなかった。一刻も早く、この事実を雪たちに知らせてここを脱出する必要があった。
そう思って、萌が戻ろうと振り返ったときだった。目の前に、人が立っていた。その人は、長い黒髪をしていた。
―? 長い黒髪…貴子? でも、貴子は外に…。
瞬間、相手が振り返った。そして萌は戦慄した。
そこにいたのは仮面を着けたあの、このプログラムへの参加志願者だという人物―シバタチワカ(転校生)だった。
―いや、でも!
萌は思った。シバタチは既に最初の放送で、死亡したと放送だれていたはずだった。
―じゃあ、ここにいるのは誰? この『仮面』は―!
そしてその『仮面』が、後ろ手に持っていたもの―日本刀を萌に向けて構えた。その時、萌は思った。
―まさか、至道さんを殺したのは―!
「―!」
萌は声を出そうとした。しかし、何故か声は出なかった。その理由は、萌には分からなかった。しばらくして、萌の眼球から脳へと伝達されていた映像情報が全て遮断された。
「まずは、一人」
『彼女』は、目の前で倒れている吉井萌の死体を見下ろして、小さな声で呟いた。
この先の展開を『彼女』の筋書き通りに演じるならば、ここで彼女に声を出されるのはまずかった。だからこそ、フェンシングのように日本刀を突き出して彼女の喉を突いたのだ。もちろん、至道由のときのように仕損じないように止めは刺しておいた。
残った標的は四人。この四人を仕留める必要がある。そのうち一人ぐらいは逃がしても構わない。粟倉貴子―彼女に『底』に落ちてもらうためには。
そのためにうまくやる必要がある。自分の持てる力の全てが必要だ。
―とりあえず、今やるべきことは―。
『彼女』は、萌の死体を引きずり始めた。床に彼女の血がつき、引きずった痕が出来ているがそれはそれで構いはしない。
―それに―。
『彼女』は思った。
―死神の憑いた私に、失敗は有り得ない。全ては私の思うように進んでいるのだから。
<PM1:02>女子17番 吉井萌 ゲーム退場
<残り21人?>