BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第48話
リビングから萌が出ていってから30分ほど経った頃、雪は萌がまだ戻って来ないことを気にかけ始めていた。
―もう随分経ったけど、まだ戻って来ない…どうしたんだろう…。
まさか外に出たはずもない。このリビングを出て行ったとき、萌は丸腰だった。味方しかいない山荘の中だったからこそ丸腰だったのだから当たり前といえば当たり前だった。
しかし、遅すぎる。萌はトイレと言って出て行ったが、トイレではないだろうと思っていた。萌は見張り中に一旦戻ってトイレに行っていので、いくら何でも早すぎる。
―何か、あった?
雪は急に不安になってきた。
―萌を探したほうがいいかもしれない。
そう思って雪は、リビング内にいた早苗、祥子、孝世に話しかけた。
「ねえ、萌まだ戻って来ないけど…遅すぎない?」
「うん…確かにちょっと、ね」
早苗が呟く。
「だから、ちょっと萌を探そうと思うの。さすがに心配になってきたし…」
「そうね、20分も戻って来ないっていうのは遅すぎるものね」
「探したほうがいい、よね。やっぱり」
雪の言葉に、祥子と孝世が答える。
「じゃあ決まり。今から萌を探そう!」
雪はそう言うと立ち上がった。雪は祥子にブローニングハイパワーを、孝世にプロジェクトP90を渡した。
「念のために持ってて。ひょっとしたら萌の身に何かあったかもしれないし…」
「…うん」
そして雪たちはリビングから廊下に出た。廊下は、何故か以前よりも冷え切っている。
―おかしいな…、こんな寒かったっけ、この廊下…。
そこで雪は、あることに気付いた。廊下の先の勝手口のドアの異変、何者かの侵入の痕跡に。
「ちょっと、これ…、まさか…」
「きゃあぁぁぁ!」
その時、孝世が突然悲鳴を上げた。雪が驚いて孝世の方を向くと、尻餅をついた孝世が、床を指差していた。そこにあったのは、若干乾いた大量の血痕だった。その血痕には引きずられたような痕があり、それはすぐ横の台所へのドアのところで途切れていた。
「ねえ、雪…まさかこれって」
「…萌?」
もう、それ以外考えられなかった。萌が侵入者を殺してしまったという可能性もあるにはあるが、だとしたら、萌が姿を見せないことや死体がないことの説明がつかない。
となると、これはやはり萌の血、ということになる。
「嫌ぁ! もう嫌ぁ!」
孝世が叫んだ。眼には涙を浮かべている。
「とにかく、台所に入ろう」
「…そうね」
そして、雪は早苗、祥子、孝世と共に台所のドアをそっと開けた。そして雪は先頭で中に入り、部屋をゆっくりと見回した。
床にずっと続く、引きずった痕。そしてその先で、何かがぶら下がっていた。
それを見た雪は驚愕し、そして恐怖した。後ろでは孝世が嘔吐する音がしていた。
ぶら下がっていたのは、萌の小柄な身体だった。クラス一小さな萌の身体は、喉や額が刃物か何かで無残にもグシャグシャにされて、キッチン横の換気扇から吊るされていた。
「も、萌…!」
雪の口からは、それ以上声が出なかった。直後、隣にいた祥子が叫んだ。
「だ、誰 ?そこにいるのは! あんたが、あんたが萌を!?」
雪は祥子の見ている、台所の隅に視線をやった。そこには、さっきまで気付けなかったのが不思議なくらいに異様な人影があった。
この異常な部屋の中で、台所の隅で壁に向かって立っている人影。その人影がこちらへと振り返った。
その顔を見て、雪はまた驚愕した。
そこにいたのは長い黒髪に、血に濡れた仮面を着けた―死んだはずのシバタチワカだったのだから。
「な、何で…あなたは、死んだんじゃ…、何者…」
雪の喉から声が漏れる。それに反応したのかその『仮面』が雪たちのほうを向く。その眼を見て、雪たちはあまりの恐怖に引き攣った。
その『仮面』は、怨念渦巻くあまりにも恐ろしい眼で、雪たちを凍りつかせていた。
刹那、『仮面』が動いた。あまりに素早い動きに、誰一人反応することが出来なかった。そして…。
「二人目…」
仮面の奥から篭った声で、『仮面』が言った。そして『仮面』が突き出していた日本刀の先には―胸を白刃に貫かれた早苗の姿があった。
「あ…っ」
「早苗!」
雪たちの目の前で、早苗が崩れ落ちた。
<残り21人?>