BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第50話
「……」
庄周平(男子10番)は、山中を歩く中ずっと無言だった。そしてそれは、隣の多津美重宏(男子13番)も同じだった。
最初の放送の後に周平たちを襲った桑田健介(男子6番)と柵原泰幸(男子9番)は二度目の放送で名前を呼ばれていた。自分たちを襲った、やる気だった奴とはいえ、一度会った人間の死は周平たちにとっては芳泉千佳(女子13番)のときと同じく重いものだった。
そして結局あの後、東へ向かっても何ら収穫はなかった二人は途方に暮れていた。
信用の置ける奴を集めての脱出を目指そうにも、その信用の置ける奴は一向に集まりそうになかった。親友の西大寺陣(男子8番)も見つけられない状況。この先どうするかを周平が悩んでいたとき、重宏が言った。
「玉島が言ってた、山荘に行ってみたらどうだ?」
そう言われて周平は、最初の放送の前に玉島祥子(女子8番)と会っていたことを思い出した。
あの時祥子は、粟倉貴子(女子1番)や上斎原雪(女子3番)らと山荘で落ち合うことになっている、と言っていたはずだった。
―玉島はやる気になるようなことはないだろう。なら、その玉島がいるはずの山荘に行って、玉島やその仲間に合流を持ちかければ…。
「どうする? 周平」
重宏が問いかける。しかし、周平の腹は決まっていた。
「よし、行こう。玉島のいる山荘へ」
そう決めて周平と重宏は、C−1エリアにある山荘を目指すことにした。確固たる目標が見えたことで、落ち込み気味だった気分も少しばかり良くなってき始めた。
だが、そんな時にH−1エリアを通りかかって見つけたのは―妹尾純太(男子11番)の死体だった。
純太の死体は、頭部が砕け散っていて正直な話誰なのかの判別が難しかった。しかし、持っていた私物から何とか純太だと判断することが出来た。
大元茂(男子3番)以来に見た、死体。それが周平や重宏に与えたショックは相当なものだった。それは間違いない。
だが、周平はショックに打ちのめされている余裕はなかった。
―脱出してやるんだ、絶対に、絶対に!
その思いだけで十分だった。その思いだけで周平は踏み止まれた。直に見る死体の凄惨さに気が狂いそうになることはなかった。きっとそれは重宏も同じだろう。
信念、それがあれば道を踏み外したりはしない。それが周平にはよく分かった。
ショックで口数こそ減ったが、それでも精神は耐えた。耐え続けた。そして目的地の山荘は、あともう少し、もうその建物が見えるというところまで来た。
「…周平」
重宏が呟いた。
「ん? どうしたんだよ、重宏」
「いや、あそこには玉島の仲間がいるんだろ? ってことは粟倉と上斎原と幸島と、益野と吉井がいるって、ことだよな」
「ああ、まあ、きちんと集まってるならな。どうした、何か心配事でもあるのか?」
周平がちょっとおどけてそう言うと、重宏は言った。
「いや別に、大したことじゃないんだ。少し、気になることがあっただけだ」
重宏がそう言ったのを聞いて、周平は何となく、重宏の言葉の真意が分かった気がした。
要するに重宏は、今山荘にいるであろう女子たちの中に気になる奴―はっきり言えば好きな奴がいるのだろう。本人は隠しているつもりだろうが、重宏に好きな女子がいるのは以前から周平も、そしてここにいない陣も気付いていた。
―あいつ、隠し事ってのがホントに下手だからなぁ。
そんなことを考えていた。
しかし、今ここで重宏に誰が好きなのかなど聞く気はなかった。今そんなことを聞いてもはぐらかされるだけだろうし、そもそもそんなことを聞くべき状況でもない。
だが、出来れば応援してやりたい。そしてその子と一緒に脱出させてやりたい。そのためにも、仲間を集めなければいけない。
周平がそんなことを考えているなか、隣の重宏は自分がさっき言ったことを脳内の主題から取っ払っているような表情をしていた。
―ま、それが重宏らしいってことなんだろうけどな。
そんなことを考える。そして脳内はそんな思考を働かせていながらも、周平たちは着々と山荘に近づいていた。だいたい、D−1エリア辺りまで来たことを周平は確認した。
―もうすぐだ、もうすぐで、仲間が…。
周平が希望を見出した瞬間だった。
パン。一発の銃声が、山荘から聞こえた。少し間を置いて、二度の同じ銃声。それから、全く違う種類の銃声が一発響く。それから聞こえたのは誰かの叫び声。そして直後に響き渡った連続した銃声。
「な、何だ?」
重宏が驚きを隠せないといった表情をして、言う。周平は、山荘で一体何があったのかを必死で思考していた。
―誰かの襲撃? それとも、仲間割れ? …分からない。一体何があったっていうんだ!
周平は様々な可能性を考えたが、結局どの可能性が高いのかまでは分からなかった。そして最後の連続した銃声以降は、山荘は静まりかえっていた。
その静寂が、かえって周平には不気味に感じられた。
「どうする、周平」
「…とにかく、少し様子を見よう」
「…ああ」
重宏は、少し周平の判断に不満そうなニュアンスではあったが、そう言って納得した。
それからしばらく後のことだった。また、山荘に連続した銃声が響き渡った。そして聞こえる叫び声と悲鳴。それを聞いた瞬間、重宏が山荘へと駆け出した。
「お、おい、待てよ重宏!」
周平も慌てて、山荘へと走った。
<残り20人?>