BATTLE ROYALE
仮面演舞


第54話

 再び新雪が積もり始めた林道の中。その中を歩く集団があった。
「今、どこら辺まで来てる?」
 
政田龍彦(男子17番)の問いに、灘崎陽一(男子14番)が答える。
「えっと…、D−7エリアあたりのはず」
 その会話を、
児島真一郎(男子7番)は集団の最後尾で聞いていた。先頭の龍彦と陽一、そして最後尾の真一郎の間には早島光恵(女子11番)御津早紀(女子15番)がいる。
―脱出、か…。

 最初は、ロッジの中に誰かがいるのかもしれない、と思っただけだった。そしてそれが早紀であれば、と。単純にそう思っただけにすぎなかった。
 そしてその望みは叶った。ロッジには探し続けていた早紀がいた。早紀の無事を確認して、真一郎は心の底から安堵した。その瞬間、張り詰めていた緊張が少しほぐれた。
 真一郎はさらにそこで龍彦から聞かされた。龍彦が計画しているという、このゲームからの脱出計画を。
 最初は、半信半疑だった。そもそも
赤磐利明(男子1番)らとの付き合いのほうが深かった真一郎は、龍彦とはあまり話をしたことがなかった。ただ、『万能の天才』を夢見ているらしい、ということだけ知っていた。
 しかしその話をする龍彦の眼は―決意に満ちた、決して揺らぐことのない信念を持った眼だった。そして何よりも、早紀を助けたい思いがずっとあった。

―俺も、その計画に乗るよ。

 真一郎は、龍彦にそう言った。そして早紀も、少し遅れて光恵も、龍彦の計画に乗ることを宣言した。
 真一郎は思った。
―絶対に、脱出してやる。そして俺は、御津を守り抜いてみせる。俺の大事な人を。

―まず目指すのは、南の集落だ。
 龍彦は計画を説明した時に、そう言った。
―そこになら、俺の探してるものがあってもおかしくないはずなんだ。計画に必要なのは二つ。その一つの硝酸アンモニウム、これはこのロッジの倉庫にいくつかあったからそれを使う。もう一つ、ガソリンが必要なんだ。それさえあれば、爆弾が作れる。
 真一郎は、龍彦の話に心底驚いた。龍彦の雑学知識が人並み外れているのは知っていたが、一介の中学生が爆弾の製造方法など、何処で仕入れたというのか。
 そのあたりが真一郎は気になって、龍彦に尋ねてみた。

―政田、何故お前はそんなことを知ってるんだ?

 龍彦はあっさりと答えた。

―趣味でな、色々とサブカル本を買い漁って読んでたらその中にあったんだよ。そういう本が。ちゃんと調べて、その本に間違いはないのは分かってる、安心してくれ。

―全く、政田にはつくづく驚かされるよ。
 真一郎はあの時の龍彦との会話を、思い出した。
「そろそろ、スタート地点近く―E−7エリアあたりに出るから」
 陽一が振り返って言った。
 周りを見ると、確かに真一郎たちが出発した、福浜たちがいるであろうロッジが眼に入ってきた。その時、真一郎はあることに気がついた。
―誰か、いる。
 林道脇の林の中…木の陰に誰かが…。
 その瞬間だった。その木の陰から、その誰かが飛び出してきた。
 真一郎は、その人物の正体をすぐに認識した。右手にフリッサ―洋刀だ―を握りしめ、それを振りかぶって向かってくるその人物は―
大安寺真紀(女子7番)だった。
 真紀は無言で、フリッサを振り下ろそうとする。龍彦と陽一、そして光恵、早紀も真紀の出現に気付いたが、真紀の動きは素早かった。フリッサは、早紀目掛けて振り下ろされた。
「やめろ…!」
 咄嗟に体が動いていた。真一郎は、真紀のフリッサの刃が早紀を捉える寸前で、真紀に体当たりを喰らわせていた。
 真一郎の動きに反応できなかった真紀が雪の上に転ぶ。勢いのつきすぎた真一郎も、それに続いて倒れた。
「児島君!?」
 早紀が声を上げる。真一郎がその声に反応して立ち上がろうとすると、同じく立ち上がろうとしていた真紀と目が合った。
「児島君…邪魔を、しないでよっ!」
 真紀は素早く立ち上がり、真一郎に向かってフリッサを振り下ろしてきた。真一郎の体制はまだ崩れたままだった。

―まずい…!

 真一郎は本気で死を覚悟した。その時だった。一発の銃声が辺りに鳴り響き、直後、真紀が左肩を押さえ、顔をしかめていた。
「う…っ」
 真一郎が銃声のした方を振り返ると、龍彦がニューナンブを構えて立っていた。その銃口は真紀に向かっている。真一郎は理解した。 龍彦が真紀を撃ったのだと。
「大安寺、こっちは銃を持ってる。それに、4対1だ。お前に勝ち目はない、どこかへ行け」
 龍彦が語気を強めてそう言うと、さすがに分が悪いことに気付いたのか、真紀は左肩を押さえたまま、どこかへと走り去っていった。 それを見送ると、龍彦が真一郎の方にやってきた。
「大丈夫か、児島」
「ああ…」
 真一郎は答えた。しかし、同時に思った。
 大安寺真紀のことは、真一郎もよく知っていた。同じ体育館を利用するバスケ部とバレー部同士、よく会ったからだ。少なくとも、真紀は平気で人を殺そうとする人間には真一郎には見えなかった。
「これだから、怖いんだ。こういうのは」
 すると龍彦が、真一郎の考えが分かっているかのように言った。
「どんどん時間が経ち、人数が減ってくればくるほど、精神状態は追い込まれていく。一人でいたら、尚更な」
 確かにそうだった。この状況下では、きっと真紀のような行動に出る人間は多いはずだった。真一郎の友人で今も生きているはずの利明や
可知秀仁(男子4番)なども、ひょっとしたら…。
 しかし、真一郎は思った。

―いや、そんなことは関係ない! 俺は御津を守り抜く、そして脱出を成功させる! それでいいじゃないか。

「児島君、行こう?」
 早紀が声をかけてくる。口調は、いつも通りのものだった。
「…ああ」
 真一郎はそう言って、歩きだす。前を歩く早紀を見ながら、思った。

―絶対に、俺は守り抜いてみせる。俺の大事な人を―。

                           <残り20人?>


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