BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第55話
少し前から降り始めた雪が木に積もり、肩に落ちる。
その光景を、西大寺陣(男子8番)は黙って見ていた。
吉井萌(女子17番)と山荘の前で別れて下山していた時、陣はある光景を見た。至道由(女子6番)が、ふらふらになりながらも山荘の方向へと歩いていく光景。それは別に、どうといったものではなかった。陣は別に由と親しかったりするわけでもなく、思うところは特にないはずだった。
しかしその直後、陣の頭部に衝撃が走ったのだ。
突然のことに、陣は何が起きたのか分からなかった。そしてそのまま意識を失った。
気がつけば、陣は倒れたその場所にいた。山道に一人、プログラムの真っ最中に倒れている…。我ながらよく無事だったものだとも思った(その頃には山荘での出来事は終わっていた)。
確かに陣は、自らの罪に苦しみ全てが終わることを望んだ。しかし、目的を果たさずに終わることはできなかった。
―早く、終わりたい―。
そのために選んだ、荊の道だった。あまりに身勝手で、他人が聞けば激しく非難されることは間違いのないことだろう。しかし、もうこの方法しか思いつかなかったのだ。
―だから、まだ終われないんだ。
そして陣は再び山を下り、やがて今いるA−2エリアに辿りついていた。
じっと木の下で佇む。落ちてきた雪が肩や頭にかかるが気にしない。そんなことは陣にとって、まったくもってどうでもよいことでしかない。
だがしかし、そろそろ移動をした方がいいかもしれないとも思う。この場所は、目的を果たすには不適格でしかない。少しの休憩に使いはしたが、それ以外に利用価値はなさそうでもあった。
「…貴子。壊れる前に、会えたらいいな」
出発する前に、貴子がいるであろう山荘がある方向を見据えて、陣は呟く。きっと粟倉貴子(女子1番)は自分の思いを理解してくれるかもしれない、とも思いつつ。
そして山荘の方向から目を離した時、陣の視界に何者かの姿が入ってきた。
雪の勢いは決して強すぎるわけではなかったが、その中を歩く美星優(女子12番)にはこの雪はきつかった。顔に雪がかかり、それが鬱陶しくて仕方がない。
―しかし…あの『仮面』は一体何者なの? 転校生は死んだはずなのに…。
旭東亮二(男子5番)を相手に傷を負わせた時、優は正直な話驚いていた。伊部聡美(女子2番)と至道由を追っていた時に続いて、またしてもあの死んだはずのシバタチワカ(転校生)に遭遇したのだ。普通は驚くだろう。
優は慌ててその場から立ち去った。亮二はまだ、やり方次第では何とかすることができたかもしれない、と思う。しかしあの時シバタチが放っていた殺気の凄まじさは、優にも伝わった。
―逃げなければいけない。逃げなければ、殺される。
優はそう思った。
そしてその場から逃げだした後、何度か銃声がしたが、最後にそれまでの銃声とは違う種類の銃声が響き、終わった。
すぐに優は、彼女が旭東亮二を殺したのだと直感した。
その後の放送で案の定、亮二は死んでいた。思ったとおりだった。シバタチはおそらくはこのクラスでは優勝候補であるはずの亮二を殺してのけた。
―勝てない。
すぐにそう感じた。
銃が必要だった。芳泉千佳(女子13番)も、木之子麗美(女子4番)も、銃は持っていなかった。旭東亮二は銃を持っていたが、殺すことはできなかった。
今の武器といえる武器は、千佳の持っていたレイピアしかない。これでは、最終的にシバタチと戦うことになっても、勝てない。
何せシバタチは、亮二との戦いで放たれたもう一つの銃声がシバタチのものだとしたら、銃を持っていることになるのだ。そして亮二の銃も所持しているはず。武器の火力で負けている。
何とか誰かを殺して、銃を奪う必要があった。地図上では山荘がある方向、さらに南東の方角からも銃声がしていた。ということはつまり、銃による戦闘があちこちで行われていることになる。
―しかし…。
優はここで、一つ気になることを思い出した。シバタチのことだ。あの時、優はシバタチを見た瞬間ある違和感に気がついた。シバタチが持っていないはずのものを、彼女は持っていた。
―あれは、どういうこと…? まさか、転校生の中身が入れ替わって…?
優はそんな考えを頭に浮かべていた。しかし、すぐにその考えを脳の片隅に追いやった。
―そんなことはもう、どうでもいい。私は優勝する。今考えるのはそれだけでいい。シバタチだって―、銃を手に入れることができれば分からない。
そこまでで優は、思考を打ち切った。そして前を見る。
「…あれは…」
優の眼に飛び込んできたもの、それは…木の下に立っている西大寺陣の姿だった。陣は、まだこちらに気付いた素振りは見せていない。
やれる、と思った。
優は、陣の後ろに回ろうと近づいていった。
<残り20人?>