BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第57話
―何故、こんなことになってしまったのだろう?
平井誠(男子15番)は内心で考えていた。正午の放送で、以前誠たちに襲いかかってきた友人の妹尾純太(男子11番)の死が放送された。
あの時、誠と福居邦正(男子16番)が純太に出会った時、純太は誠たちを問答無用で襲ってきた。そして誠は、そんな純太を気絶させたはずだ。あれから純太の身に、何が起こったというのだろうか。気絶したまま、誰かに殺されたのだろうか。それとも、目覚めた後で何者かに殺されたのだろうか。今となっては何も分からない。
しかし、もし前者だったとしたら…純太の死の原因は誠にあるのだろう。
―俺が、純太を死なせたんだ…。
そう思うと誠は、悔やまずにはいられない。何故自分は、あの時純太を放置してしまったのか。説得することは、本当に不可能だったのだろうか? ひょっとしたら、もっと落ち着いた状況で説得すれば純太は正気に戻ったのではないか? そう考えて、どんどん自己嫌悪に陥っていく。
「ああっ、純太…」
もう、純太と一緒に話をすることはできない。邦正ほど親しかったわけじゃない。しかしだからといってすぐに純太のことを忘れるほど、誠は冷血漢ではなかった。
「誠…」
隣に座っていた邦正が、話しかけてきた。
「お前が悔やむべきじゃない。あの時、お前に順太を置いていくように言ったのは俺だ。俺が悪かったんだ。お前が全部悪いわけじゃあない」
「邦正」
誠は邦正に向かって何かを言おうとした。しかし言葉にできなかった。自分の傍に邦正がいてくれて良かった。心からそう思った。
「ここはもうじき、禁止エリアになる。もう移動しよう」
邦正が言う。確かに正午の放送で、今誠たちがいるB−6エリアは三時から禁止エリアに指定されている。今の時間は二時二十五分。 もうそろそろ移動をする必要が生じていた。
「…ああ」
誠は邦正の言葉に答えて、移動の準備を始めた。
「…なあ、邦正」
移動を始めて少し時間が経ち、B−7エリアにそろそろ入ったかというところで、誠は邦正に話しかけた。
「ん?」
「邦正は、今会いたい奴っているか?」
「会いたい奴?」
何気ない問いかけだった。誠としては、邦正との間に間を作りたくないだけだった。すると、逆に邦正が聞き返してくる。
「じゃあ、お前は?」
「え―」
誠は言葉に詰まった。確かに今、会いたいなと思っているクラスメイトはいる。しかし今はそれよりも重要なことが―、
「どうせお前は、早島さんに会いたいんだろう? 分かってるぞそんなの。なんなら探すか? 俺は別にいいぞ」
―図星。
そう、誠が今会いたいクラスメイト。それは早島光恵(女子11番)。
誠は正直な話、光恵にほんの少し好意を抱いていた。それが初恋なのだろうと、最近は感じていた。普段から物事にあまり動じない性格で、だからといって冷たい人間ではない。彼女が御津早紀(女子15番)と話しているところを見るたびにそう思ったものだった。何よりも、高跳びをする時の彼女はあまりにも美しく―運動というものにおおよそ関心を寄せなかった誠も、その場で見入ってしまうほどだった。
―彼女に、会いたい。
そんな気持ちは確かにある。しかし―今は、邦正の事を考えなければならないとも思った。
誠にとっては純太が死んだ今、唯一残された友人。しかも、共に同じ夢を追いかける仲間同士。そんな邦正を光恵よりも優先するのは当たり前のことだった。
「確かに、早島さんには会いたいな。でも今は邦正を優先するよ。会えれば早島さんとも合流したいさ、でも…それはその時に考えるよ」
「そっ…か」
邦正がそう呟いた時だった。誠の視界に一人の男子生徒の姿が飛び込んできた。
―あれは、可知…?
木々の間に見えるその後ろ姿は、まぎれもなく可知秀仁(男子4番)の姿だった。とりあえず誠は、秀仁についての情報を脳内から引き出してみる。
―…可知秀仁。央谷東中サッカー部のエースストライカー。けれど誠は、あまり秀仁には良いイメージを持ってはいなかった。いつも自己中心的な言動が目立ち、友人の赤磐利明(男子1番)や太伯高之(男子12番)を困らせていた印象しかない。
「やっぱり、声をかけるのはやめた方がいいよな…?」
誠は邦正に言う。
「どう、だろ…? 危ないのかもしれないけど、だからって…」
「けど…」
そんなことを話していたその時、突然秀仁がこちらを向いた。突然のことに、誠も邦正も動けなかった。そして秀仁の手には―ショットガン。銃口の先には、誠がいた。
―銃―!
秀仁の手にあるショットガンが火を噴く。誠はその瞬間死を覚悟した。しかしその眼に映ったのは、腹を押さえて崩れ落ちていく邦正の姿だった。
「く、邦正!」
誠は、すぐに地に伏した邦正の手を掴む。邦正にはまだ意識があるらしい。しかしその息遣いは荒く、その腹部からは少し内臓らしきものがはみ出しているのが見えた。そんな二人に、秀仁がなおもショットガンの銃口を向ける。
「邦正、動けるか? 走ろう!」
「あ、ああ…」
苦しそうに喘ぎながらも、邦正が呟く。
「よし、走れ!」
二人は同時に北の方角に駆け出す。背後から秀仁のショットガンの銃声が数回したが、やがて諦めたのか音は聞こえなくなった。
「ふう…逃げ切れたみたいだな」
「ああ…」
二人は立ち止った。そして誠は、現在地を確認しようと地図を出してさっきまでの居場所と合わせて場所を測る。どうやら、A−7エリアに入ったらしい。
そこで誠は、再び地に伏した邦正に訊ねた。
「なあ、邦正。さっき何で、俺を庇ったんだ? 何でそんな真似を?」
すると、邦正が苦しそうにしながらも答えた。
「お前はさあ、俺の希望なんだ。俺はお前と一緒に映画を作るのが…夢だ。でもこの状況じゃ、その夢は駄目になるかもしれない。そんな時どうするか。俺は…お前に夢を託したいんだ。俺のぶんも生き残ってさ、映画作って、ほしいんだよ」
「邦正…」
「だから俺はお前を死なせたくない。俺たちの夢を叶えるのは俺たちだけ。お前は一人でも映画を作ってくれる…だから、だな」
邦正は、だんだんと力の無くなりつつある声で言う。秀仁によって撃たれた傷は、確実に少しずつ邦正の生命を削っていた。
「誠、お前は生きろよ? 生きて…映画…」
「おい? おい邦正!」
誠は叫んだ。邦正を、大事な親友を死なせたくなかった。純太も死に、そのうえ邦正まで奪われたくはない。
しかしその時だった。突然出現したレイピアが、邦正の喉笛を貫いた。まだこの世に繋ぎ止められていた邦正の生命は、その瞬間に終わりを告げた。
―何が―。
誠は顔を上げる。そこには、邦正をたった今あっさりと殺してみせた人物―美星優(女子12番)が立っていた。その手に、邦正の血がべったりとついたレイピアを握って。
―美星…、こいつが邦正を―!
「うあああああっ!」
即座に誠は手に持っていたフライパンを振り回した。そのフライパンは、優の首筋を見事に捉える。優はその場に昏倒した。すぐに誠はもう一撃見舞おうとしたが、何故か手が出せなかった。
―何で、何でだよ! こいつは、邦正を殺したのに! こいつが、こいつが殺したのに!
「何でだよ―!」
誠はその場に転がっていた、邦正のサバイバルナイフを掴むと駆け出していた。何故さっき、美星優を殺せなかったのか。それが分からなかった。親友を目の前で殺されたのに、何故か手が動かなかった。悔しくて仕方がなかった。
美星優は、誠が立ち去ってからすぐにその身を起こした。邦正の亡骸が握っていたサバイバルナイフももうないことを知ると、優は落胆した。
―また、銃は手に入らずか…。ナイフも平井君が持って行っちゃったみたいだし。結局収穫はなし、か…。
そう思いながら優は、誠が走って行った方向を見て思った。
―平井君も甘いわね。この場所では、人殺しになる覚悟がいるのよ?そうじゃなきゃ、私は殺せないわ。
<PM2:34>男子16番 福居邦正 ゲーム退場
<残り19人?>