BATTLE ROYALE
仮面演舞


第59話

「もうすぐ、目的地に着くぞ」
 先頭を歩く
政田龍彦(男子17番)の声を聞きながら、児島真一郎(男子7番)は雪の積もった舗装路(おそらくJ−6辺りだろう)を歩いていた。
 グループの列は以前と変わらず、真一郎が最後尾。前を歩く龍彦、
灘崎陽一(男子14番)早島光恵(女子11番)、そして御津早紀(女子15番)の姿を見ながら、真一郎はあの時―大安寺真紀(女子7番)に襲われた時のことを思い出していた。

―絶対に守り抜くんだ。御津を。そして脱出作戦を成功させて、皆で生きて帰ってやる。

 それからしばらく歩いただろうか。龍彦が立ち止まり、真一郎たちの方を向いて言った。
「着いたぞ、ここだ」
 そう言われて真一郎が目の前を見ると、そこには若干寂れた雰囲気の漂っているガソリンスタンドがあった。
「そう、か…ガソリンスタンド」
 陽一が呟く。それに龍彦が答える。
「そういうこと。ここなら、ガソリンなんかいくらでも手に入るだろう?」
「確かにね…」
 光恵が頷く。
「スノーモビルのを使うのもありだったんだけどな…、ちょっと量が足りなさそうだったからここまで来る必要があったんだ。ガソリンが手に入りそうなのはこの会場じゃこの辺だけだと思ったんだ」
 そう言いながら龍彦は、給油用タンクへと近づく。給油用タンクは二つあった。
「じゃあ、二手に分かれて給油する。俺と陽一と早島はこっちを、児島と御津は奥のやつを頼む。大体、一人ポリタンク一つ分は頼む。そのくらいあった方がいいはずだ」
「分かった、じゃあ急いでやろう。御津、行こう」
「う、うん」
 真一郎の言葉に、早紀はそう答えて頷いた。


 真一郎と早紀は、手際よくスタンドにあったポリタンクにガソリンを入れていく。
「ねえ、児島君」
 急に、早紀が話しかけてきた。
「な、何? 御津」
 あまりにも突然に早紀が話しかけてきたものだから、真一郎はすっかり慌ててしまった。
―おいおい、落ち着け俺。こんなところで慌ててどうするんだ!
「これが成功したら私たち、生きて帰れるんだよね?」
「ああ。だから…頑張ろう? 俺は、殺し合いになんか乗りたくないしね。生きていれば、色んなことを体験できるはずなんだ。それが友情だろうと、恋愛だろうとさ」
「そう、だよね。でも…乗ってしまった人はいて…もうクラスメイトは半分近くになっちゃって…。何でこんなことになっちゃったんだろうね?」
 早紀が寂しそうに笑う。真一郎は思う。
―御津は、本当はこんな寂しい笑顔なんてしない子だったのに…。
 真一郎の脳裏に、真一郎が早紀に恋をしたあの日の彼女の顔が思い出される。あの時の早紀の笑顔が見たかった。しかし今の状況では、そんなものは見ることができない。このプログラムが早紀の笑顔を封じ込めてしまおうとしている。
 その時真一郎は、早紀にこんな寂しげな笑顔をさせたプログラムを、政府を激しく憎んだ。
「御津…大丈夫だよ。絶対に脱出しよう。生きて帰ろう」
 真一郎は必死で早紀を励ます。
「児島君…」
 早紀がそう呟いたその時だった。真一郎の眼に、何者かの姿が見えた。セミロングに、少しメッシュの入った髪。あれは…。
 そこまで考えたとき、その何者かが、こちらに向けて何かを向けた。それは…回転式拳銃。向いているのは、銃口。その先にいるのは、まだその何者かに気付いていなかった早紀。

―御津!

「危ない!」
 咄嗟に真一郎は、早紀と銃口を結ぶ線上に飛びだした。直後に聞こえたのは、銃声。二発。一発が真一郎の左脇腹を、もう一発が右胸に撃ち込まれた。強烈な痛みと衝撃で、真一郎の身体が崩れ落ちる。目の前で起こった出来事を認識しきれていないらしい早紀が、呆然とした表情で真一郎の身体を抱きとめる。
「…児島、君?」
 早紀の声がする。真一郎は、それで初めて自分がまだ生きていることを認識した。しかし、体内から血液が失われていく感覚が自分に残された時間の短さを真一郎に教えてくる。
「どうした…! 児島!?」
 銃声を聞いてやってきたらしい龍彦が、真一郎と早紀を見て絶句する。そして、真一郎を撃った者の存在に気付くとそちらにニューナンブを向ける。
「お前が児島を…!」
 龍彦が向けた銃口の先には…手に拳銃を持った
鯉山美久(女子18番)がいた。

                           <残り18人?>


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