BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第61話
―一体何処までやってきただろうか。
『私』はそう思いながら、以前成羽秀美(女子10番)が持っていた探知機の電源を入れる。ここまで、探知機の電池切れに気を使って肝心要の時だけ電源を入れるようにしていた。おかげでここまで、さほど電池を減らさずに使えている。
液晶画面の『私』の反応は、B−4エリアにあった。
―そろそろ、動いた方がいいかもしれない。
幸島早苗(女子5番)を殺して、粟倉貴子(女子1番)たちのいた山荘から出て行ったのが約三時間前のこと。それからしばらく、『私』は仮面を外していた。
ずっと仮面を着け続けるのは息苦しい。それに、素顔を晒しておいたほうが好都合な場合もあった。
「さて、そろそろ着けようか」
デイパックにしまっておいた仮面を、『私』はそっと取り出してその顔に着ける。仮面を着けると、何故だか不思議な感覚に襲われる。仮面を着けていない間は、自らはただの中学生にしか感じられない。しかし仮面を付けると、自らが死神という神に守護された存在にすら感じるのだ。
―今なら、何だってできる気がする。そう、何だって…。
事実、この仮面を着けてからは以前できなかったことができるようになっていた。
水島貴(男子18番)の放った銃弾をかわしたり、雪上でも変わらず走ることができたり…。『私』の心に、万能感が現れ出した。しかし、それを『私』はどうにか抑える。ここから先は、一切の油断も許されないのだ。
生徒の残り人数も半分を切ろうかという時だ。ここから先、生き残るのは真に強い者だけとなっていくはずなのだ。
そう考えていた時、近くで物音がした。『私』は素早く木陰に隠れて様子を見る。
―あれは、上斎原雪。そして、玉島祥子!
そこには間違いなく上斎原雪(女子3番)と玉島祥子(女子8番)がいた。あの時、山荘で生かしておいた二人。二人の姿を見ると、恨みの思いが湧き上がり、思わず叫びそうになる。
「智花…」
思わず、大事な人の名を呟いていた。雪たちが奪った、天へ召されてしまった人の名。
渡場、智花。
地面に置いておいた日本刀を拾い上げ、鞘からその刀身を抜く。銀の刃が煌く。幾度となく血を吸った銀の刃が。
そしてゆっくりと雪と祥子の方へと向かい始める。しかし『私』は、そこであるものに気付いて動きを止めた。雪と祥子の傍を並んで歩いている二人の男子生徒。それは間違いなく、庄周平(男子10番)と多津美重宏(男子13番)だった。
―まずい…。
『私』は慎重にその四人を見ながら考えていた。正直、周平と重宏がいるとなると躊躇せざるを得ない。
元々、二人は自らの手で殺すつもりがなかった。智花の死の原因を作ったのは、紛れもなくこのクラスの人間。しかし周平と重宏には、『私』から見ても非などなかった。それは間違いのないことだった。
だから、願わくば他のクラスメイトの手にかかっていてほしいとさえ思っていた。しかしその二人が、雪と祥子の傍にいる。
二人は決して、『私』の方にはつかない。それだけは分かっている。クラスメイトなのだから、そのくらいは知っている。だがそうなると、雪と祥子をどうするか。それでまた迷う。
『私』はしばらく思案した結果、一つの結論を出した。
―とりあえずは様子見が必要…。
そう考えて、『私』は雪たちの後をそっと追った。
ずっと、無言状態が続いている。
庄周平は、上斎原雪と玉島祥子を交互に見ながら思う。二人と合流した後、二人にした話の内容がこの気まずい沈黙を生んでいるのだろうかと思うと、自分を責めたくもなってくる。
あの話…そう、クラスメイトの誰かがシバタチワカ―つまり、渡場智花の名を名乗って殺人を繰り返しているということ。そして、本部にいる人間も、智花…『チカ』の関係者だということ。前者はともかく、後者は単なる推測にすぎない。
しかし周平は、多津美重宏と共にその推測を二人に話してしまった。それから長い間、彼女たちは黙ったままだ。
―やはり、話すべきじゃなかったのか…。
周平は自らの浅慮をひどく後悔していた。雪と祥子も『チカ』の死で思うところがあるはずなのだ。そんな彼女たちに、また深い絶望を与えるような真似をしてしまったのではないかと、悩む。
そんな時、重宏が話しかけてきた。
「周平、お前…後悔してるのか?」
「な、何を…」
「シバタチのこと」
―重宏の奴。何もかもお見通しってことかよ。
「後悔するのは分かる。誰が聞いたってショックを受ける話だ。けど…いつかは話す必要のある話だったと思う。俺はあの話が単なる推測だとは思っちゃいない。だからこそ話しておく意味があったんだ。後から話せば話すほど、ショックはでかくなってたはずだ」
「けど…」
「もう、後悔なんて意味無いんだ。もう先に進んじまった以上、やり直しは効かない。俺たちはここからフォローをしっかりすればいい」
「重宏、お前…大人だな」
周平がそう言うと、重宏は雪と祥子を見ながら呟いた。
「ま、お前よりはな」
―やれやれ、お前には敵わないな。
周平がそう思ったその時、重宏の体が突然硬直した。雪と祥子も同時に動きを止める。
「…どうした?」
「誰かいる。少し先の所だ」
そう言われて、周平は自らの進路の先を見る。そこには、もう見慣れてしまったあの赤いウェア姿の男子生徒がいた。手には大きなショットガンを持ち、こちらをじっと見据えている。
その男子生徒―可知秀仁(男子4番)が持っているショットガンの銃口が、こちらを向いた。
<残り16人?>