BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
序盤戦
Now35students remaining.
第7話
「次、男子9番、柵原泰幸くん」
福浜に呼ばれて立ち上がった柵原泰幸(男子9番)が、デイパックを作東から受け取ると、ドアの向こうへと消えていった。
そんな泰幸の姿を、庄周平(男子10番)は黙って見ていた。
この次の津高優美子(女子9番)が出発すれば、その次が周平の出発の時だ。
周平は、同じテーブルについている親友の西大寺陣(男子8番)と多津美重宏(男子13番)の方を見て、考えてみた。
周平はこのゲームに乗る―つまり、殺して優勝を狙おうとは一つも考えていなかった。出来れば皆で生きて帰りたい。だがしかし、どうやったら皆で生きて帰れるかの方策は、周平には思いつかないのだ。
そこで考えたのは、とにかく人数を集めて、脱出の方法を皆で考えることだった。
皆生きて帰りたいはずだから、この案に乗ってくるはず…とまで考えたが、すぐにこの方法は無理だと周平は気が付いた。
正直、周平にもこのクラスで信用の出来ない人物はいる。
まず、旭東亮二(男子5番)をはじめとした不良グループだ。
普段の亮二の性格を考えると、まず間違いなくこのゲームに乗る。桑田健介(男子6番)と泰幸は分からないが、信用できるわけでもない。
それから鯉山美久(女子18番)と湯原利子(女子16番)だ。
美久の性格は、いつも美久がクラスで大人しくしているのでよく分からないが、伝え聞いた話を信用するならば、彼女もゲームに乗る可能性は高いはずだ。
利子もかなり腹黒い感じで、到底信用できるはずがない。
また、大元茂(男子3番)もクラス内で孤立していて、気性も荒い。ちょっとしたきっかけでキレて全てをぶち壊しにする危険がありそうで、合流など出来ない。
可知秀仁(男子4番)も、今までの所業を考えると危険といえるかもしれない。
そう考えると、やはり仲間にすべきなのは陣と重宏が妥当なところとなる。
ただ、そこで問題となるのが、出発の際周平と重宏の間には成羽秀美(女子10番)、妹尾純太(男子11番)、早島光恵(女子11番)、美星優(女子12番)が間に入る程度で済む(太伯高之(男子12番)は既に死んでいるので除外した)が、陣の出発順はシバタチワカ(転校生)を抜けばラスト、だということだ。
正直、あのシバタチとかいう仮面の女が『どう』なのか、などは周平には分からない。
しかし、普通に考えれば普通の人間ではないと考えるはずだ。そうなると陣は、シバタチと出くわす前にこのロッジを離れようとするはず。
そうなると、周平と陣の合流はかなり苦しくなるだろう。
「次は、女子9番津高優美子さん」
周平が考えている間にも、泰幸の次の津高優美子(女子9番)が出発していった。
―…とにかく、重宏と合流しよう。陣とも、出来れば合流したいけど…大丈夫だろうか?
周平は、はっきりと決めた。
「…次、男子10番、庄周平くん」
そして遂に、周平の番が来た。周平は席を立つ。
「周平…」
周平を見据えている重宏が呟く。周平は重宏に向かって呟いた。
「…外で合流しよう。陣も一緒に」
重宏は周平の言葉を聞くと、右手の親指を立てて、笑った。それを確認してから、周平はデイパックを受け取って部屋を出ていった。
部屋の外にあったのはロッジのロビーらしき部屋だった。中央にいくつかの椅子とテーブルがあって、そこに兵士たちが何人か腰掛けている。
兵士たちはこちらを見たが、どいつもこいつもどこか、死んだ魚を思わせる眼をしていて、周平をぞっとさせた。
そしてそのロビーを出て、周平はロッジの外に出た。
外の景色は、ナイター照明がついていない以外は完全に真夜中のスキー場だった。雪は降り止んでいるようだが、足元はついさっきまで降っていたと思しき新雪が表面を覆っている。
まず、周平は身を隠す場所を探した。重宏との間に出て行く人間がゲームに乗っていない、という保証は何処にもないのだ。
とにかく周平は、出口の壁際に寄りかかった。ここならば、よほどのことが無い限りは見つかる心配はないと言えるだろう。
―そう言えば、武器があるって言ってたな。
周平は福浜の言っていたことを思い出すと、支給されたデイパックを開けて、中を確認し始め、中の地図とコンパスは着ていたウェアのポケットにしまった。
そしてデイパックの底から出てきたのは、一丁の自動拳銃と予備の弾丸の入った箱だった。
「拳銃…?」
他に見つけた取扱説明書によると、この拳銃はベレッタM92Fというものらしい(周平は銃の類に関してあまり知識がなかった)。
そして一通り説明書を読み終えた頃、成羽秀美が出口から出てきた。秀美はきょろきょろと周囲を見渡すと、周平のいる方とは逆の方へと歩いていった。
周平の腕時計は、AM1:55を指していた。
そしてきっかり2分後、今度は妹尾純太が現われた。純太はせわしなく、狼狽した様子で周囲を見渡したかと思うと、脱兎の如く駆け出して行った。どうも、普通の精神状態ではなさそうだった。
その2分後に今度は早島光恵が現われたかと思うと、光恵は南の方向へと走り去っていった。
―あとは、美星だけだ。
そして2分後、美星優が出てきた。優は、少し前に秀美が歩いていった方向へと向かっていった。
―重宏が出てくる…。
そして2分後、重宏が姿を現した。周平はすぐに出口の前へと出た。
「重宏!」
「周平…、やっぱり、ちゃんと待ってくれたのか」
重宏が言った。
「当たり前だろ? 待ってない可能性も考えてたのかよ?」
「いや…間の誰かに襲われたり、待ち伏せされたらアウトじゃないか」
「あ…」
正直、周平は待ち伏せされて攻撃される可能性を考えていなかった。だが、重宏はその可能性を考慮していたのだ。こういう時にも重宏はいつも通りだ。
「まあ、陣が出てくるラストまで待つとしようか」
周平は、さっきまで自分がいたところに重宏とともに移動しながら、言った。
「けど、陣の後はあの転校生だぞ? 大丈夫なのか?」
やっぱり、重宏はそこまで考えていたようだ。周平は言う。
「大丈夫、陣からシバタチまでは5分も空くんだ。その間にここから出て行けばいい」
「そうだな」
「そういえば、重宏の武器は何なんだ? 俺はこの拳銃だけど」
周平はベレッタを見せながら、言った。重宏は言われて、デイパックを開けて中を探り始め、やがて、一つの皮製の鞭を取り出した。
「この、鞭みたいだ」
「それ…明らかにハズレだよな?」
「…だな」
重宏がそう言って苦笑した、その瞬間だった。重宏の背後に、誰かがいた。
「おい、重宏! 誰かいるぞ!」
すると重宏はいきなり、背後の影に向かって鞭を振るった。その影は鞭を辛うじてかわしていた。
「重宏、いきなりはないだろ?」
「殺気を感じたんだ。やる気なんだろ? 芳泉」
重宏がそう言うと、その影―芳泉千佳(女子13番)は、その手に握った刃物(それは千佳に支給された武器で、レイピアだった)を構えて、周平と重宏に向かってきた。
「くそっ」
周平は、その手に持ったベレッタを一発、撃った。銃弾は大きな銃声と共に千佳の足元の雪に突き刺さった。一瞬、千佳の動きが止まる。
それを見逃さず、重宏は鞭を振るった。その鞭は千佳の背中を捉えた。
「うっ」千佳が呻くと、千佳は雪の上に倒れこんだ。
「芳泉?」
千佳は動かない。しかし、気を失ってしまったようだ。
「…やる気の奴は、もう、いるんだな、周平」
「ああ…残念だけど、な」
二人がそう呟いた時だった。
「動かないで!」
大きな、よく通った声が響いた。
周平と重宏が声のした方に振り返ると、そこにはさっき出て行ったばかりの美星優がいた。自信家で知られる、優の美しい顔は恐怖で引きつっている。
その手には、拳銃が握られている。そして優が、叫んだ。
「あなたたち、やる気なのね!? だったら、容赦しないわよ! 撃つわよ!」
「いや、俺たちは…」
周平は弁解したが、どう考えても、状況は二人に不利だった。
優には、千佳が二人に襲い掛かったところは見えてはいなかったのかもしれないし、何よりさっき、周平は発砲してしまった。
「…周平、ここは退こう」
「でも、陣は…! それに、芳泉は!」
「仕方ないだろ、ここでこれ以上やってたら、本気で美星に撃たれちまう。芳泉はやる気みたいだしな。それに…」
重宏は一息置いた。
「陣は、そう簡単に死ぬような奴じゃないよ」
「そう、だよな」
「走るぞ、周平!」
重宏が叫ぶ。周平も、重宏とともに走り出す。あとには、気を失った千佳と、優が残された。
<残り35+1人>