BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第74話
「……もう、九時半を回ったか……」
スキー場の西の端、F−1エリア――山の中腹にある自然に空いた小さな洞穴の中。その中で赤磐利明(男子1番)はそう呟いていた。
先程から、長い間利明はこうして懐中電灯の明かりを頼りに腕時計をじっと見続けていた。その理由は、今利明がいる場所のせいだ。 六時の放送で、この洞穴があるF−1エリアは午後十一時をもって禁止エリアになってしまう。しかし利明としては、そう言われてすぐに動く気にはなれなかった。
だから、こうして脱出に要する時間をあらかじめ考えてから動こうと腕時計を見て時間をチェックし続けている。
一旦利明はそこで、傍らに置いてあるサブマシンガン――Vz61スコーピオンを見る。そしてまた、自分が浦安広志(男子2番)を殺したことを思い出す。
――もう、随分昔のことにさえ思えてくるな……。
ロッジを出発してすぐに、利明は人を殺した。友人の広志を、この手でハチの巣にしたのだ。
悪いことをしたとは思う。そう思えなければ人間ではないとさえ考えている。しかし、これだけは言える。利明だって、死にたくなどない。まだまだやりたいことはいくらでもあるのだ。
――だからといって人を殺すのは……。
そんなことを誰かが言うかもしれない。このクラスでもそんなことを言いそうなのは結構いるが。
しかし、こう言い返すことが可能だ。
――じゃあ、お前は人にいきなり本物の拳銃や刀やナイフを向けられて、殺意をむき出しにされて……それでも「人を殺すことはどんなことがあってもいけない」って、ほいほいそいつに殺されるのか?
きっと、どんな聖人君子ぶった奴でも逃げるかそいつを殺そうとするかするはずなのだ。間違いのない真理だと、利明は思う。
もちろん、その相手にだってどんな事情があるかは分からない。絶対に生きて帰らなければいけない理由を持っているかもしれない。 しかし、こっちにだって命がかかっている。それならば、自分のことが最優先。それは真実のはずだ。
――俺は間違ってはいない。
利明は改めて確認した。だからこそ、あの時自分を襲った広志を殺した。
だがやはり、人を殺すなどという非日常に利明の心も身体も耐えられる気はしなかった。だからこそ、利明はすぐに動いた。自分が死なず、出来る限り人を殺さず、生き残るために。
広志を殺した後、利明はすぐに南にある集落を目指した。人を殺さずに優勝するためには、どこか目立たない場所に籠ってしまうのが一番だった。そしてそれを行うには体力がいる。そのための食料が必要だった。
めぼしい民家や店に侵入して、食料を漁った。誰かに出会うようなことがあれば、逃げるか脅すかしようと決めた。出来る限り、殺したくはなかった。
そして必要だと思われる分だけ調達し、さらに防寒具になるもの――毛布やタオルなどを用意してから、利明は会場の西側を目指した。地図によれば、会場の西側は山になっていると描かれていた。そして山にはめぼしいものはほとんどなさそうだった。
――ここならば、隠れるのには都合がいいかもしれない。
そう思って、利明は西へと向かった。その間に誰とも出会わなかったのはラッキーだったと言える。余計なことをせずに済むのだから。
この洞穴を見つけたのは、最初の放送が始まる直前だっただろう。その洞穴は、あまり大きくはないが外から気付かれにくい位置にあり、身を隠すには好都合な場所だった。
すぐにその中に隠れて全ての準備を整え、あとはただひたすら待った。他のクラスメイト達が減っていくのを。そして出来る限りこの場所で粘るつもりでいた。そして気付けば、残りは十五人になっていた。
ここまできたからにはもう少し粘ろうとさえ思った。これなら放っておいても残り人数が一桁になるくらいまでは大丈夫だろう。
そう考えていたのに、六時の放送が無情にもF−1エリアが禁止エリアとなることを告げた。しかし、時間はまだあった。その間だけでもギリギリまで粘ろう。そう決めた。
そして今に至る――。
――そろそろ、移動しようか。
利明は思った。主な道具は大体まとめてある。もう要らないと思えるものは、この洞穴に残していけばいい。この状況で環境云々は言ってられない。
そして同時に、利明は決断した。
――もういい加減、隠れているのはやめた方がいいかもしれない。人数は順調すぎるほどに減っているみたいだし――俺も覚悟を決めて、やったほうがよさそうだ。
利明は力強くスコーピオンを握る。そしてデイパックを肩にかけて、そっと洞穴の外を伺いながら外に出る。
久しぶりの屋外は、吹雪もあったせいかまだ寒い。風も比較的強く、冷たい風が利明の頬を撫ぜる。その風が利明の頭をはっきりさせた。しかし動きが鈍くなるほどではなさそうだ。この分なら、今から動いても大丈夫だろう。
「よし……!」
一言呟くと、利明は山を下りるべく歩き出した。自分が生き残る、そのために。
<残り12人?>