BATTLE ROYALE
仮面演舞


第79話

 暖房も効いていないロッジの中、灘崎陽一(男子14番)政田龍彦(男子17番)の作業を眺めていた。作っているのは、もちろん爆弾。陽一たちの最後の希望だ。
 最初は
早島光恵(女子11番)が龍彦の作業を手伝っていたのだが、放送の時間が近づいていることもあって陽一と交代して放送を聞く役に回っている。そして少し前から、龍彦が作業の詰めを行っていた。

――そう、いつの間にか放送は四回目を迎えようとしていた。つまり、陽一たちがこのゲームに参加させられてからほぼ丸一日が経ってしまった。大切な仲間も失ってしまった。

水島貴(男子18番)成羽秀美(女子10番)。そして児島真一郎(男子7番)御津早紀(女子15番)

 皆、死んでしまった。それに、陽一の目の前で死んでいった
玉島祥子(女子8番)。目の前での死。それもずっと恋焦がれた少女の死……。それは多くの仲間を失った陽一にとって、あまりにも辛すぎて――泣きそうになる。
 でも堪えていた。龍彦だって、光恵だって――きっと辛いはずなのだ。でも誰もそれを口に出さない。そんな中で、誰が弱音を吐ける? 否、吐けるはずもない。
 でも、多くの犠牲があってその上に陽一たちは立っている。それは間違いない。
 そう考えた時、陽一は決めたのだ。どんなことがあっても、仲間やクラスメイトの屍の上に立つ自分はこの希望を叶えてやるのだと。
 それが、今までだれも救ったりも出来ていない自分に出来ることだと信じていた。

『皆さん、こんばんは。担任の福浜です』
 その時、陽一の耳に聞き慣れてしまった声――福浜の声が響きわたった。どうやら、ついに放送の時間が来たらしい。
「早島、メモしておいてくれ」
 龍彦が作業をしながら、休憩中の光恵に言った。光恵はすぐに、傍らに置いていた自分のデイパックから地図とペンを出す。
『午前12時になりました。もう一日が経とうとしていますが元気にしていますか? 終わりは近いので頑張りましょう。それではまず、これまでに死んだクラスメイトの名前を呼びます。男子15番、平井誠くん。男子4番、可知秀仁くん。女子14番、益野孝世さん。女子9番、津高優美子さん。男子13番、多津美重宏くん』

――え――。

 その名前が呼ばれた瞬間、陽一の手が止まった。龍彦と光恵を見る。二人も一様に手が止まっている。
 多津美重宏。その名前が呼ばれたのはあまりにもショッキングだった。龍彦が
庄周平(男子10番)と共に作戦への協力を依頼したクラスメイトの一人。その重宏が――死んでいたのだ。頼れる人物が一人、消えてしまった。
『そして男子1番赤磐利明くん。以上6名です』
 そこまで聞いて、まだ周平は生きていることが分かった。まだ作戦のことを知っているのは周平以外にも
粟倉貴子(女子1番)上斎原雪(女子3番)といるが、果たしてどうなのだろうか? 一瞬、陽一の脳裏に不安が過った。
『次に、禁止エリアです。1時より、C−10。3時より、I−8。5時より、G−3。以上です。残りもあと9人です。あと少し、頑張ってください。それでは』
 そう言って、福浜の放送は終わった。幸いにも、このロッジから本部のあるE−5エリアまでの間に邪魔な禁止エリアはない。作戦は滞りなく行えそうだった。その時、放送中も作業の最後の仕上げを進めていた龍彦が言った。
「で、出来た……!」
「え――」
「出来たんだよ、遂に! 爆弾が、完成したんだよ!」
「本当に? 政田君」
 光恵もやってきて問いかける。龍彦はテーブルの上に置かれた箱のようなものを光恵に見せながら言った。
「ああ、これをあの本部にぶちかましてやれば本部は確実に壊滅させられる。あとはアシを手に入れて逃げればいいだけだ」
「よし……、よし……!」
 陽一は思わずガッツポーズを取る。これで脱出することができる。そう思うと、感慨もひとしおだった。
「じゃあ、それを……?」
「このロッジにもスノーモビルはあった。結構大型で三人は乗れるやつだ。それにこの爆弾を積んで林道を突っ走らせる。あとはアクセル全開のまま飛び降りて逃げる。それだけでドカン、だ」
「すぐに準備するよ、龍彦」
 陽一は慎重に、しかし同時に心弾ませながら箱のようなもの――爆弾を抱え上げた。
「頼む。俺はスノーモビルの準備をするから、早島は荷物をまとめておいてくれ」
「分かったわ、今からまとめてくる」
 そう言って光恵も、辺りに置いてあるデイパックたちの整理を始めた。陽一は龍彦と共に外に出る。ニューナンブはもちろん、龍彦が携帯している。外に出て、ロッジの隣にある倉庫に入る。その中には、確かに三人乗り出来そうな大きさのスノーモビルがある。
「さあ、全部終わらせてやろうか、陽一」


「……男子17番たちが、動きだすようです」
 本部モニタールーム。モニター係の兵士が言う。龍彦たちは知らなかったのだが、首輪には盗聴器が仕掛けられていた。その盗聴記録は当然本部に筒抜けだった。
「どうしますか、先生。首輪爆破を行いますか?」
 犬島繁晃三等陸佐が、ソファに座っている福浜幸成(岡山県岡山市立央谷東中学校3年C組プログラム担当教官)に問いかける。福浜はぴくり、と眉を動かして言った。
「……そこまでしなくても良いでしょう。まあ、狙撃班の準備はしておいた方が良いでしょうね。作東君。狙撃班に用意をさせておいてください」
「分かりました」
 そう言って、作東京平二等陸尉がモニタールームを出ていく。それを見送りつつ、福浜は言う。
「まあ、まず間違いなく途中でやる気の誰かに見つかってしまうとは思いますがね……。ただでさえ、スノーモビルの音は響くでしょうし。モニター班、男子17番のグループに一番近いのは誰だ?」
「女子12番、女子18番、男子8番が近いようですが」
 モニターを見ていた兵士の言葉に、福浜は「おお」と一言呟くと言った。
「先は厳しそうですね、これは」

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