BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第9話
「次、男子1番、赤磐利明くん」
福浜に呼ばれて、赤磐利明(男子1番)が、デイパックを受け取って部屋を出て行った。
それを見ていた粟倉貴子(女子1番)は、じっと考えていた。
さっき、玉島祥子(女子8番)が出発する前に、貴子は同じテーブルの、上斎原雪(女子3番)、幸島早苗(女子5番)、祥子、益野孝世(女子14番)、吉井萌(女子17番)に向かって言った。
―さっきのホワイトボードの地図、その中のC−1エリアに山荘があるって描いてあったの。そこに皆で集まりましょう?
貴子は殺し合いなどする気はない。とにかくこのゲームでは仲間を集めるべきだと思っていた。
仲間が多ければ、それだけこの状況を打破するのに適した、良いアイデアが浮かぶはずだと、貴子は考えていた。そのためにもまず、いつも一緒の雪たちは仲間にする必要があった。
そう言うと、その案に皆納得してくれた。
問題はラストに出発する恋人、西大寺陣(男子8番)だった。
彼も待つべきなのか、それが問題なのだ。出発の間隔は空きすぎているし、そもそも雪たちが陣との合流を受け入れてくれるかどうか分からない。
貴子と陣の交際を皆は見守ってくれているが、この状況で彼女たちが、貴子と違ってそれほど親しくしていない陣との合流に難色を示すことだってありうるのだ。
―とにかく、出来る限り陣と合流して、二人で山荘を目指すのがベストかしら? でも、庄君と多津美君が陣を待ってるかも…。
そう、庄周平(男子10番)と多津美重宏(男子13番)が陣を外で待っている可能性だってありうる。
―どうすれば…。
「女子1番、粟倉貴子さん」
気がつくと、福浜が自分の名前を呼んでいた。
「貴子…」
雪に促されて、貴子は前へと出て行き、デイパックを受け取ると、ドアの外へと出て行った。
「何…? 凄い雪…寒いよ…」
外はいつの間にか、大雪、いや猛吹雪になっていた。ほんの少し先もよく見えない。
まず貴子は、デイパックの中身を探った。武器とやらが何なのかを、知っておく必要はある。
そして出てきたのは、一本の柳刃包丁だった。刃渡りは長いから武器としては使えるだろうが、銃なんかが支給されてたりしたら役には立たない。
その柳刃包丁を持つと、貴子は一歩一歩先へと歩き出す。
しかし、すぐに貴子は足を止めた。目の前に、ぼんやりと人影が見える。
―誰だろう…?
貴子は、そっと人影に近寄った。そして、声をかけた。
「あなた、誰? 私は粟倉だけど…」
すると人影は、少し置いて振り向くと、言った。
「粟倉…?」
そこに立っていたのは、ついさっき貴子のすぐ前に出て行ったばかりの赤磐利明だった。その手には、小さめのサブマシンガンが握られている。
「それは?」
「これか? 俺に支給された武器で、Vz61スコーピオン…ってやつらしい」
そう言って、利明は手に持ったスコーピオンをかざした。
「粟倉は、その包丁か?」
「うん…、ところで、どうしたの?」
すると利明は、足元を見て呟いた。
「見てみろよ、これ」
貴子は言われるがままに利明の足元を覗き込み、そして息を呑んだ。そこには、うつ伏せに倒れ、背中にはこの吹雪で大量に雪が積もっている人間の身体があった。その横顔が、少し見えた。
それは、芳泉千佳(女子13番)の横顔に相違なかった。
「死んで、るの?」
「ああ、確認したけどな。デイパックがなくなってるから、殺されたみたいだ。言っとくが、俺じゃないぞ? 銃声なんかしなかっただろ?
「ええ…」
貴子は確信した。もう、ゲームは始まっている。千佳を殺した、このゲームに乗った者がいるのだ、と。
「じゃあ、俺は行くよ」
利明はそう言うと、踵を返して歩きだそうとした。それを慌てて貴子は呼び止めた。
「待って! 私と一緒に行かない? 私、友達と合流する予定なの。赤磐君なら、きっと皆信用するわ!」
そう、元生徒会長で学校内でも信望の厚い利明なら信用できる。そう貴子は思っていた。
だが、利明は言った。
「悪いが、俺は一人で行くよ。俺は…優勝したいからさ」
「えっ…?」
「俺は人は殺したくない。けど、死にたくもない。だから優勝を狙うんだ。だから、誰か他人を信用するなんて無理な相談だ」
「で、でも…」
貴子はなおも食い下がったが、利明は更に言う。
「いいか、もうゲームは始まってる。やる気の奴はいるんだ、間違いなく。優勝を狙う以上、俺もやる気みたいなもんだ。そんな俺に合流を持ちかけるのは、筋違いってもんじゃないか?」
「……!」
貴子は、何も言い返せなかった。
「じゃあな」
利明は再び歩き始め、その姿は吹雪に呑まれて、やがて見えなくなった。貴子はそれをただ、見送っていた。
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