BATTLE
ROYALE
〜 The Gatekeeper 〜
第25話〜『疑問』
古嶋による放送の後、ショッピングモールのエントランスフロアには長い沈黙が続いていた。特に、本谷健太(男子17番)が憔悴しきっている。
――無理も、ないよな。
志賀崎康(男子7番)は、床に座り込んで俯く健太の背中を見ながら思った。その健太を、清川永市(男子9番)が必死に宥めている姿も見える。こういうことは、康よりも永市のほうが得意にしている。
先程の古嶋の放送は、康たちにとって衝撃だった。ここに集まるようにメモを渡した友人たちのうち、天羽峻(男子1番)、九戸真之(男子4番)の名前があったのだ。その事実は、康たちに強い衝撃を与えた。特に、健太はひどくショックを受けた様子だった。
気の良い奴だが、同時に不用意な発言も多くて少し敵を作りやすいところがあった真之。
プログラムに従姉が参加させられて死んだ過去があり、人を傷つけることを嫌う峻。
二人とも、死んでしまった。そして残る一人の蜷川悠斗(男子13番)も、未だにこのショッピングモールにやってきていない。さすがに、悠斗は放送で名前を呼ばれたりはしていないし、性格を考えてもゲームに乗る可能性は考えられないのだが……。
だが既に二人も死んでしまっていることもあって、すっかり健太が意気消沈してしまったのだ。
こうなると、どうにも立ち直るのは難しい。喜怒哀楽のはっきりしている健太は、落ち込む時はかなり深く落ち込んでしまうところがある。
――どうにか、しないと……。
しかし、康にもこの状況を打開する方法は思いつかないでいた。どうにか健太を立ち直らせ、今後について話し合える状況を作っておきたい。それが康の本音だった。
峻と真之の死は、確かに康にも重く圧し掛かっていた。それはきっと永市も同じはずだ。永市は、峻とは小学校の頃からの付き合いだという。そんな長い付き合いの友人を突然失うというショックは、計り知れないものがある。
もし自分が、健太を失ったら? そう考えると、永市が今考えているであろうことが容易に想像できる。
こんな時に健太を励ましてやれない自分の性分を、もどかしく思った。
――早く来てくれ、悠斗――。
康の心で、未だここに現れていない悠斗が現れることを願う気持ちが確実に強まっていく。
この停滞しきってしまった状態を打開するためには、残った一人である悠斗の無事を確認する必要がある。悠斗がここに姿を見せるだけで、状況は多少変わってくるはずだ。
あまりにも人任せなことを考えているようで、少し悠斗に申し訳ない思いもする。だが、この先へと進む時には悠斗もいてほしいのは事実。ならば、早く姿を見せてほしい。
その時、エントランスフロアの正面入り口で音がした。扉を叩くような、そんな音だ。康は何事かと思い、正面入り口のドアに近づく。ドアには既に、モール内の適当な物を使ってのバリケードが施されている(もちろん、モール中の出入り口を同じように封鎖してある。かなりの重労働だった)が、ドアのガラスから外の様子は多少分かる。
ドアのガラスから康はそっと外の様子を確認する。すると、ドアの向こう側に見覚えのある男子生徒が立っているのが見えた。彼は康の姿には気づかず、ドアを叩いている。学ランは何故か着ておらず、ズボンにカッターシャツ姿だ。
――悠斗。
男子生徒は、間違いなく悠斗だった。早くここに辿り着いてほしいと願っていた人物が、ようやくやってきたのだ。康は少し、安堵した。
「おい、悠斗」
康は、扉の向こう側にいる悠斗に声をかけた。遮蔽物があるせいか、悠斗は少し遅れて声に反応した。
「……康! 良かった、本当にここにいたんだな」
悠斗が声をかけてきた。その声は扉があることもあって少し小さく聴こえたが、特に問題はない。
「当たり前だろ? 今はバリケードを少し開けてやるから、そこから入ってくるんだ。永市も健太も、放送を聞いてからショックを受けてたんだ。早く無事な姿を見せてやれよ」
言いながら、康はバリケードに使われていた店内の観葉植物をどかし始める。さらに、まだ悠斗が来たことに気づいていない永市と健太に声をかける。
「永市、健太。悠斗がようやく来たぞ! バリケードを少しどかすから、手伝ってくれ」
「……えっ、悠斗が?」
健太が、俯いていた頭を上げて憔悴した顔をこちらに向ける。永市も、同時にこちらを見た。
「ああ、どうやら無事みたいだ。だから早く手伝ってくれ」
そう言うと、永市がその顔に少し笑みを見せながらこちらへとやってきて、バリケードをどかし始める。健太も少し遅れてやってきて手伝い始めた。悠斗が無事に姿を見せたことで、健太も少しショックが和らいだ様子だ。
二人の協力もあって、どうにか悠斗が通れるだけのスペースを入口に作ったところで、康はあることに気がついた。悠斗の横に、一人の女子生徒――光海冬子(女子16番)が立っていたのだ。冬子は比較的落ち着いた様子で、艶のある黒髪を外の風に靡かせている。
永市と健太も冬子の存在に気づいたらしく、驚きを隠せないでいる様子だ。
――何で、光海が?
康には、悠斗と冬子が一緒にいる理由がよく分からなかった。特別繋がりはないし、出席番号が近かったというわけではない。むしろ、冬子とは健太のほうが近いくらいだ。それに、悠斗ならば別段繋がりのない冬子よりは井本直美(女子1番)との合流を考えるように思える。
あれだけ彼女のことを気にしていた悠斗のことだ、彼女を探していたせいでここに来るのが遅れた、というのも十分にあり得そうな話だ。
――ひとまず、事情を聞いておくか。中に入れる前に、な。
そして康は、悠斗に声をかける。
「開いたぞ。ただ入る前に……横にいる光海のことについて聞きたいんだが」
「何言ってるんだよ、康。早く悠斗と光海さんを入れてあげようよ」
「そうだぜ、康。外にいつまでもいさせるのは危ないし」
声をかけてくる健太と永市を制し、康は言う。
「すぐに済む。俺は、光海が信用できるかどうかを知りたいんだ。もともと合流を予定してたのは、普段仲の良いメンバーだけだったんだからな」
そして冬子のほうに向き直って、言った。
「光海、俺は簡単に部外者であるお前を信用することはできない。やる気になったりしていないと言うなら――」
「ちょっと待てよ、康」
康が言葉を紡いでいる途中で、悠斗が割って入ってきた。悠斗は、さらに続けた。
「彼女は、信頼できる。色々あって、落ち込んでいた俺を励ましてくれたのは彼女なんだ。康の言い分は分かる。だがせめて、中に入れるだけでも許してもらえないか?」
悠斗の言葉に同調して、健太も言った。
「そうだよ、康。だいたいやる気になっているんだとしたら、とっくに悠斗は襲われてるよ。悠斗がここまで無事に来たことが、光海さんがやる気じゃないっていう何よりの証拠じゃないか」
どうやら、健太も幾分調子を取り戻してきたようだ。永市は何も言わないが、おそらくは健太と同じ考えなのだろう。
こうなっては、康が折れるしかなかった。
「――分かった。とりあえず、二人とも入ってくれば良い。ただ、これまでに何があったか聞かせてほしい、あとそれぞれの所持品検査くらいはさせてもらう。それで、良いか?」
「……まあ、それなら」
健太もどうにか納得してくれたようだ。永市も頷くことで意思表示をしている。
「よし、じゃあ二人ともひとまず中に入ってくれ」
そう言って康は、悠斗と冬子にモールの中に入るよう促した。
<残り29人>