BATTLE
ROYALE
〜 The Gatekeeper 〜
第26話〜『検査』
康は悠斗と冬子を連れて、もともといたエントランスフロアに戻った。永市と健太も、後ろからついてくる。
――ひとまず、所持品検査をしておかないとな。
そう考えた康は、吹き抜けのあるエリアまでやってくると言った。
「まあ、疲れてることだろうしとりあえずは座ってくれ。それと……早速だが悠斗と光海の所持品検査をさせてもらいたい」
すると、悠斗と冬子の後ろに立っていた永市が言った。
「それは別に俺も反対はしないし、二人も文句はないみたいだし良いと思うぜ。ただ、光海の私物のバッグも調べる気か?」
永市の言葉を聞いた康は、少し顔をしかめる。おそらく誰かが、この話はするだろうと考えていたのだ。すなわち、女子生徒の私物を男が確認するというのはどうなのか、ということだ。状況が状況だけに、ある程度はやむを得ないと、康は考えていた。ただ、他のメンバーがどう思うかはちょっと分からない。
悠斗あたりはあまり良い顔をしなさそうな気がするし、健太も同様だ。永市ならばひょっとしたら、と康は考えていたのだが……どうやらこの様子だと、永市もあまり気乗りはしないようだ。
多少強硬に検査をしてしまっても良いのだが、そうして今後のメンバー間の関係がおかしくなるのは避けたいところでもある。それに、別に今のところ冬子は敵意を見せてはいない。この状況で康が強硬な意見を言っても、他のメンバーは納得しない可能性が高い。
ならば、無理な行動は控えたほうが良いはずだ。
「……言いたいことは分かった。とりあえずは、彼女の私物の検査はしないでおこう。ただ、今後次第ではあり得る。それで良いだろう?」
康は、ひとまずの妥協案を出してみた。すると、それで永市も納得はしたらしい。
「ああ、俺はそれで良いと思う。光海は、どうだ?」
「ええ。私も正直私物を見られるのはちょっと、と思ってたし、それで良いけど」
冬子もそう答える。これで、検査するものは決まった。彼女に支給された、デイパックだ。あとは制服の上着くらいか。さすがにブラウスやスカートまでは調べることはできない。
「それじゃあ、調べさせてもらうぞ。永市たちも、念のためにチェックしておいてくれ」
そう言うと、同時に冬子が肩に提げていたデイパックを床に下ろす。冬子のデイパックのジッパーを、康はそっと開けた。
中から出てくるのは、飲みかけの水のペットボトル、パン、地図とコンパス、懐中電灯、そして程良い大きさのフライパンがあった。
「光海、このフライパンは……」
「ええ、それが私に支給された武器よ。ないよりはましだと思ってたんだけど、使い勝手が悪い気がしてしまってたのよ」
その言葉を聞いて、康は少し気になることができた。冬子は、フライパンを使ったことがあるのだろうか? 今の言葉は、いかにもフライパンを武器として使った人間の台詞に思えた。
「このフライパン、使ったのか? 武器として」
「放送の前に、鞘原さんに襲われて……その時に、身を守るのに使ったの。その時に、使いづらく思ったのよ」
冬子は特に動揺を見せることはなかったが、後ろにいた悠斗が少し身を震わせた。
「だが、鞘原はさっきの放送で名前が呼ばれていた。その時に鞘原に何かしたわけじゃないだろうな?」
康の質問に、永市と健太がぎょっとした顔を見せる。少し突っ込みすぎたかとも思ったが、やむを得ないだろう。
「そ、それは――」
悠斗が何かを言いかけたが、それを制するかのように冬子が言う。
「鞘原さんは、蜷川君がやってくると逃げちゃって……その後どうなったかは、分からないわ」
「……なるほど」
康は、そう呟くと質問を終えた。とりあえず、冬子のデイパックからは特に怪しいものは見つからなかった。現状、彼女に敵意ありとみなすことはできない。多少気になることはあるのだが、変に詮索しても永市たちの反発を受けてしまう。
「すまなかったな、光海。じゃあ次、悠斗だ」
その後悠斗のデイパックも調べたが、共通の支給品以外は特に何も入ってはいなかった。武器もその手に持っていたブッシュナイフのようだし、特に問題はなかった。
全ての検査を終えた後で、一つ気になることがあったので、冬子に聞いてみることにした。
冬子は、鞘原澄香(女子6番)に襲われていたたところに現れた悠斗と共にここまで来た、と言っていた。ということは、それまで彼女は単独行動をしていたということになる。
――夏野は、何で一緒じゃないんだ?
夏野ちはる(女子11番)。冬子の友人であり、おそらくはこの状況下で彼女が最も信頼しそうな人物だ。康自身はちはるとの接点はなかったが、社交的で温和なタイプの女子だ。プログラムというこのふざけたゲームに乗ってしまう可能性は、かなり低いように思う。
「なあ、光海。夏野はどうしたんだ? 夏野は、そんなに信用ならなかったか?」
「そういうわけじゃ、ないのよ。ちはるは、私より先に出発したんだけど……少し私との間が開いてたから、一人で行ってしまったみたい。でも、仕方のないことよ。こういう状況なんだし……」
そう言うと、冬子は少し俯いた。口ではそう言いつつ、内心ではちはるに待っていてほしかったのだろうか。それ以上の質問は、しないでおくことにした。
――光海のほうは、体力的に精神的にも問題なさそうだ。こんなに強いとは、思ってなかったけどな。
考えながら、康は視線を悠斗へと移す。
――問題は、悠斗のほうだ。
どうも先程から、悠斗の状態が良くない。怪我とかはしていないのだが、やけに憔悴しきっている。冬子に話を聞いている間にも、どこかびくびくしている様子も見せていた。
一体、彼に何があったのだろうか。康は、悠斗へと近づいた。
「悠斗」
悠斗に声をかける。悠斗は、やや緩慢な動きで俯き気味にこちらを見た。
「ああ……康。どうかしたか?」
「どうも気になってるんだが――お前、ここに来るまでに何かあったのか?」
そう言うと、悠斗はまた少し驚いたような表情をする。そして言ってくる。
「な、何かって?」
「お前がここまで疲労困憊してる理由だよ。そりゃあ俺たちよりも外にいた時間は長かったんだ、俺たちの基準でものは測れない。それでもずいぶん疲れてる。肉体的なものだけじゃない、きっと精神的にもお前は参ってるんじゃないか?」
康はそう言ってから、少し矢継ぎ早に言いすぎたか、とも思った。だが、悠斗は特に気にした風はなく、言った。
「言いたいことは、分かったよ。ただ、俺が疲れてるのは分かってくれたんだろう? なら、少し休ませてくれないか。話すことがあったら、また時間を見て話すさ」
悠斗はそれっきり、口を開かなかった。別に機嫌を悪くしたわけではなく、本当に疲れているようだ。よほど、気の休まらない状況が続いていたのだろうか? それとも……。
――やっぱり、気になるな。
康は、当分気を抜けないであろうことを感じた。そして、自分のそんな性分を少し疎ましく思った。
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