BATTLE
ROYALE
〜 The Gatekeeper 〜
第6話〜迷走の章・4『覚醒』
何かふわふわした感覚を、悠斗は感じていた。上下左右に何もない、奇妙な空間に落とされたような、そんな気分。その感覚を、悠斗はひどく不快に感じた。
――何だ、この感じ……?
同時に、おぼろげだった視界が開けていく。ようやくこの不快な空間から脱することができる。悠斗はそう思った。するとあまりにもあっさりと、悠斗は通常の感覚を取り戻していた。
全身にひんやりとした感触が伝わる。それを感じた悠斗はその身を反射的に動かす。どうやら、横になって倒れていたらしいことがそこで把握できた。
「何処だ? ここ……」
悠斗は上半身を起こして周囲を見渡してみる。明かりの類はないのか、非常に暗い。しかしどうにか、ある程度のことは理解できる。 自分が横になっていた床は、冷たいコンクリート。周囲には大理石の壁や、何かの店舗と思われるスペースも点在している。少し遠くには改札らしきスペースがあるのが分かる。
そこで悠斗は、自分の傍らで何かが動いたのを見た。よく見ると、そこには誰かが先程までの悠斗と同じような格好で倒れていた。
「う……ん」
その誰かが、少しその身を動かす。その顔が、悠斗にも見えた。
「――永市!」
悠斗はそう声をかけた。倒れていたのは永市に間違いがなかった。
「う……悠斗?」
どうやら目を覚ましたらしい永市が眠たげに目をこすりながら上体を起こす。永市はしばらく事態が飲み込めないといった表情で周囲を見回していたが、やがて悠斗の方を凝視し始めた。
「永市、どうかしたか?」
「お前ってさ、首にアクセサリーなんか着けてたっけ?」
永市の唐突な質問に、悠斗は一瞬言葉を失った。しかしすぐに我に返ると、永市に言う。
「そんなわけないだろ? 俺にゴテゴテしたもの着ける趣味がないことくらいお前だって……」
「だってお前の首……何か着いてるし」
そう言って永市が、悠斗の首を指さす。気になって悠斗は自らの首をそっと撫でる。すると、確かに奇妙な感触があった。身に覚えのないひんやりとした金属の感触。間違いなく、悠斗の首に何かが着いていた。
「何だよこれ……いつの間にこんなもの……」
言いかけて、悠斗は言葉を止める。そして目の前にいる永市の首をじっと見てみる。そこには、暗い中でもはっきりと銀色に光る――首輪が着けられていた。
「永市、お前の首にも着いてるぞ」
「え……!」
悠斗の言葉を聞いて、永市も自分の首を撫で始める。そして銀色の首輪に触れた瞬間硬直し、そのまま呟いた。
「本当だ――」
その時、周囲でもぼそぼそと声がし始めた。どうやら、この場所にA組の生徒たちが集められているらしい。徐々に暗闇に慣れた眼でじっと人の姿を追ってみる。
悠斗たちから少し離れた壁そばでは玉山真琴(女子8番)と度会奈保(女子18番)がお互いに何事かを話しているのが見える。おそらくは何が起きているのかを知ろうとしているのだろうが、彼女たちを見る限り答えは出ていない様子だ。
二人の向かい側の壁では、篠居幸靖(男子8番)と横野了祐(女子18番)がひそひそ話をしている。そして時折、隣に座っている浦島隆彦(男子2番)に話しかけているようだ。
隅の方には、見慣れない私服姿の少女がいる。私服姿でここに紛れているということは、修学旅行に来ていなかった矢田蛍(女子17番)だろうか。ということは、彼女も自宅からここまで連れてこられたということなのだろう。
「永市と悠斗も起きてたのか」
そこで突然、背後から声をかけられた。何事かと振り返ると、そこには康が立っていた。隣には健太の姿も見える。
「おう……。峻と、真之は?」
永市が答える。そういえば、峻と真之の姿はまだ確認できていない。悠斗はそのことをすっかり失念していた。
「ちょっと、まだどこにいるのか分からないんだ。なるべく早いところ状況を整理したいんだけどな……」
「呼んだか?」
康の言葉の途中で、割り込むようにして別の声が入ってきた。見ると、いつの間に近づいてきていたのか、峻と真之が康と健太の背後に立っていた。
「脅かすなよ、真之」
健太がふくれっ面をして言う。健太はこの状況でも相変わらずの子供っぽさを見せている。
「悪い、そんなつもりじゃなかったんだ」
真之は右手で健太に謝罪のポーズをとる。同時に、峻が悠斗に声をかけてきた。
「ところで……この状況、分かる?」
「知らねぇよ、俺に聞くなって」
悠斗はそう答える。事実、悠斗に聞かれたところでどうしようもないのだ。こちらも現在の状況がどうなっているのか全く理解できていないのだから。
しかしそこで、康が口を開いた。
「ひょっとしたら……」
「ひょっとして、何が起きてるか分かるの?」
健太が、そう康に問いかける。悠斗も、先程から心の中で康に期待していた。こういう時の康ほど頼りになる奴はいない。悠斗はそう認識していた。
「まあ、ある程度はな。俺たちの首についてるこの首輪だけど、俺はちょっとだけこの首輪のことを聞いたことがあるんだ」
「この、首輪のことを?」
峻が自分の首に手をやりながら、呟く。
「ああ。確かこの首輪は――」
康の言葉の続きが発せられる前に、突如として周囲が明るくなった。その眩しさに、思わず目がくらみそうになる。しばらくして、天井の電気が点いたのだと分かった。
「何だ何だ?」
「さっきから何なの? 怖い……」
周囲から様々な声が聞こえてくるのが、悠斗にも聞こえた。
そしてそんな声をかき消すかのように、複数の足音が響き渡る。その足音に一旦周囲は静まり返り、また騒がしくなる。女子の中には、状況の飲み込めない恐怖から泣き出す者までいた。
やがて足音と共に軍服の集団が、近くにあった階段を降りて悠斗たちの前に現れた。彼らは悠斗たちの前にやってくると慣れた動作で整列した。そして集団の中から一組の男女が現れると、集団の先頭に立った。二人の姿を見て、悠斗はその異様さに驚きを隠せなかった。
女は白いパジャマらしき服装に身を包み、どことなく挙動がおかしい。そして男は何故か引き締まった身体を見せつけるかのように、海パン一つという格好だった。
悠斗たちが唖然としている中、海パン男が言った。
「はい皆さん、よく眠れましたかー?」
あまりの出来事に、悠斗は何も言葉が出てこなかった。
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