BATTLE
ROYALE
〜 殺戮遊戯 〜
第67話
「な…何でなんだよ…神野…」
藤川圭吾(男子20番)は、さっきまで神野優(女子8番)がいた丘のほうを見ながら呟いた。
―神野優。あいつはそんな事を…人殺しをするような奴だったか?
―…ん? 待てよ…。
圭吾は優がゲームに乗る理由で、1つだけ思い当たる事があった。
優は、彼女の幼馴染であり、圭吾や小畑智(男子3番)、橘蓮(男子12番)の友人の高円寺紀世彦(男子7番)のことが好きなようだった。
恐らく、それに気がついていないのは、紀世彦と紀世彦のもう1人の幼馴染、倉田凪(女子6番)くらいだったはずだ。
―もしそうだとすると、神野は紀世彦を生き残らせるために?
「おい、俺を忘れてないだろうな?」
圭吾ははっとして振り返った。
そこにはグロッグを構えた委員長、佐藤康利(男子8番)が立っていた。
―しまった、さっきまでいろんな事があったせいで委員長の事を忘れていた!
「…死ねよ」
康利がグロッグの引き金を引こうとしたその時、圭吾の身体は自然と動いていた。
「うらああああああっ!」
圭吾は持っていたデイパックで康利の頭を思いっきり殴った。
「ぐあっ」
デイパックの中に残っていた支給武器の鎖などのおかげで結構重くなっていたからか、その一撃は康利にはかなり聞いたようだった。
康利がうつ伏せに昏倒したのを見て、圭吾は走り出した。
―くそっ、くそっくそっ! 何で、何でなんだよ?
圭吾はもはやいつもの冷静な圭吾ではなかった。
そして圭吾はやみくもに走り続け、E?2まで来て、誰かにぶつかった。
「うわっ!」
その場に思わず尻餅をついた圭吾はやや後ずさりした。
「あれ? 藤川…」
「藤川君?」
それは、時田賢介(男子16番)と野村葉月(女子16番)だった。
「…さっきの爆発、なにかあったのか? …まさか誰かが?」
圭吾は答えた。
「ああ…、曽原と智と蓮が死んだ」
圭吾は曽原秀也(男子10番)と智、蓮の名前を出した(ちなみに玉田龍ノ介(男子13番)も死んでいるのだが、圭吾はその事は知らない)。
すると、葉月が言った。
「だ、誰に?」
「絵馬と神野だ」
「じゃ、じゃあ時田君、止めに行かなきゃ!」
賢介も頷いた。
「行くんじゃない!」
圭吾は怒鳴った。
「行ったらお前らも死ぬぞ。あいつらはもう駄目だ、だから行くな!」
すると賢介も言い返した。
「そんなのやってみなきゃ分かんないだろ?」
「無理なんだよ、絶対に! お前らは何故そんな事が言えるんだよ! 説得も、脱出も、もう何もかも無理なんだよ!」
「何で諦めてんだよ! いつもお前は冷静で、でも決して諦めない奴だったじゃないか!」
「…お前は俺のことを知らないからそんな事が言えるんだよ! これが本来の俺、藤川圭吾なんだよ!」
その言葉に、賢介は黙ってしまった。
そして、言った。
「どういうことだよ?」
圭吾は、言った。
「俺、尊敬する先輩がいたんだ。パソコン部の人でさ、その技術は半端なもんじゃなかった。俺のパソコン技術は、その先輩から習ったんだ。俺は先輩に憧れるあまり、先輩のような極めて冷静な頼られる人間としての仮面をかぶって生きてきたんだ。でも去年、17歳にしてアメリカのスパイになっていた先輩は政府の中枢にハッキングで侵入してデータを盗もうとして失敗して捕まり、処刑されたんだ」
「そんなことが…あったなんて…」
葉月が呟いた。
圭吾は続けた。
「このゲームに巻き込まれたとき、俺は慌てた。ここで本性の今の姿を出したら、今までは水の泡だ。そう思った。だから必死で冷静な人間の『仮面』をかぶり、先輩に習った技術と先輩から聞かされた知識で脱出作戦を立てた。…脱出作戦なんか、所詮俺が望んだ姿でありたいがための利己的な行動に過ぎなかった。所詮俺は自分の事しか考えてないエゴイストなんだよ!」
「何言ってんだよ、おい藤川!」
「うるさい、うるさい! もう何も言うな、言わないでくれ! もう、もう何も聞きたくない!」
そう言って圭吾は走っていった。
賢介と葉月は何も言えず、ただ走り去る圭吾の後姿をじっと見ていた。
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