BATTLE ROYALE
〜 殺戮遊戯 〜


第72話

 神野優(女子8番)は、安堵していた。
―良かった。紀世彦君、まだ元気だった!
 しかし…。
―何? これ…紀世彦君の服に付いてるの…。
 優は、紀世彦の着ているカッターシャツに、何か赤いものがべったりと付いており、それなのに紀世彦が平気でそのカッターシャツを着ているのが不可解だった。
―これって…、血!?
 優はその考えに行き着いてしまった。
―え? で、でもちょっと待って! な、何で紀世彦君の服に血が…!?
 優はひたすら考えた。
―紀世彦君が襲われてたとか? いや違う!
 これだけ大量の血が付いているのだ、怪我をしたのなら普通死ぬか瀕死になるかするだろう。
 他にもいろんな推測を立てては、その可能性を優は消していった。
 そして遂に、優は最後の推測を立てた。
―まさか、紀世彦君―!
 優は紀世彦に質問しようとした。
「人を殺したの?」と。
 しかし、思いとどまった。
―まだそうだと決まったわけじゃない! それに…何で紀世彦君がクラスメイトを殺さなきゃいけないの?
 優の知る紀世彦は、そんな人間ではない。
 心優しい、誰からも好かれる人間のはずだ。
―何で…。
―…よし。
 そして優は、先ほどから自分の脳内を廻りつづけるある考えを、紀世彦に話した。
「…紀世彦君。誰か…殺したの?」
 すると紀世彦は、あっさり答えた。
「ああ。3人な」
―そんな…、そんなそんなそんなそんなそんな! 嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ!!
 さらに紀世彦は、優に訊いてきた。
「なあ、優! 凪を殺したの誰か知ってるか?」
「えっ!?」
 優は自分が殺した幼馴染、倉田凪(女子6番)の名前を出されて、少し驚いた。
 さらに紀世彦は続けた。
「俺、神社で凪の死体を見たんだ。酷いモンだった。そして、許せなかった。凪を殺した奴をこの手で殺そうと思った! 誰がやったか分からないから全員殺してやろうって思った! だから吉山も仁村も野村も殺した! なあ、凪を殺した奴知らないか? 知ってたら教えてくれよ、なあ!」
 紀世彦の目から涙が溢れていた。
―え?
 紀世彦の言葉を聞いて、優は絶望という名の谷底ヘ落とされたような感じがした。
―私は、紀世彦君のためにやったのに…。
―そのせいで、紀世彦君が3人もクラスメイトを…?
―言おう、全てを。
 優は口を開いた。
「…私が、やったの」
「え?」
 紀世彦は、訳が分からないといった感じで聞き返してきた。
「私が凪を殺したの。紀世彦君を、優勝させるために」
「そんな…嘘だろ…?」
「本当。他にも5人…殺したの」
 紀世彦は何も言わない。
「紀世彦君、私を殺して。凪を殺したのは私。紀世彦君が心から憎んでる相手だよ!」
 紀世彦がゆっくりと日本刀を振り上げる。
 優は思った。
―きっと紀世彦君は私を殺すんだろうな。
―でも、構わない。
―これは、罰なんだろう。
―親友をこの手で殺した私への…。
 しかし、紀世彦は日本刀を振り上げたまま、動かなかった。
 そして、日本刀を取り落とし、ガクッと膝をついた。
「殺せねえよ…いくら凪を殺した奴でも…だって…だってお前は大事な俺の…」
 紀世彦は泣きながら言った。
「俺の」の先は、優には聞こえなかった。
 優も、膝をついて、紀世彦に言った。
「もう、人を殺すのはやめよう? そして…みんなへの償いのためにも…生きようよ」
「ああ…ああ…!」
 紀世彦は泣きながら、頷いた。


<残り12人>


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