BATTLE ROYALE
〜 殺戮遊戯 〜


第74話

 絵馬忍(女子3番)が小山田智絵(女子4番)と共に雑貨屋に入る所を、平野光子(女子19番)は向かいの電器店の中からたまたま見ていた。
「ど、どうしようかな…?」
 光子は本部をスタートしてから、ずっと隠れ続けていた。
 支給された武器もただの硯だったため、誰かに会うのは危険すぎる。
 それに小さい頃から話が下手で他人と交流できなかった自分が誰かに仲間にしてもらえるとは光子は到底思えなかった。
 でも光子は一人は寂しかった。一人は嫌だった。
 そうやって光子は最初の夜を過ごした。
 朝には時田賢介(男子16番)と吉山孝太(男子21番)の呼びかけを聞いたが、すぐに2人の声はしなくなった。
 そのあとの放送で孝太の名前が呼ばれていた事から考えても、何者かに殺されてしまったのだろう、と光子は考えた(ちなみに孝太を殺したのは高円寺紀世彦(男子7番)だったが、そんな事は光子は知らない)。
 そして光子は思った。
―もう皆殺しあってるんだ!
―でも誰かに会いたい。でも誰かに殺されるかもしれない。
 そうやってどうするか迷いつづけ、今まで生きてきたのだった。
 だが、ついさっき絵馬忍が雑貨屋に入ったのを見た。
 光子は忍が武器をスポーツバッグに隠す所も見ていたのだ。
 恐らく忍はやる気になっている。
 まず間違いなく忍は一緒に中に入った小山田智絵や恐らく他にもいるであろう智絵の仲間たちを殺そうとしているはずだ。
 光子はひたすら悩んでいた。
―この事を小山田さんたちに教えるべきかな…?
―でも、そんな事しても小山田さんたちが助かるとは思えないし…。
 そんなことをひたすら考えているうちに、光子の意識は遠くなった。

 しばらくして、光子は目覚めた。
 いつの間にか眠ってしまっていたようだった。
「寝てなかったもんなあ…」
 腕時計を見ると、もう8時だった。
 ということは、もう2時間近く経っていることになる。
 向かいの雑貨屋を見ると、店先に瓜田みどり(女子2番)が立っているのが見えた。
 どうやらまだ無事のようだった。
 しかし、光子は疑問に思った。
 みどりは別に智絵達とは特に親しいわけでもないのに何故ここにいるのだろうか、ということだ。
 だがすぐに光子は気にとめるのを止めた。
―瓜田さんは小山田さんたちと出席番号も近いし…気にするほどのことでもないか。
 そんな時、光子はふと中学1年の時を思い出した。
 光子はその頃も暗く、クラスで孤立していた。
 イジメに遭うなどということはなかったが、肩身の狭い思いをしていた。
 そしてある日の音楽の縦笛のテストの時、ペアを組まなければならないのに光子は誰にもペアを組もうと声をかけることができなかった。
 周りの生徒たちはどんどんペアを作っていく。
 そんな時だった。
「平野さん…、私と、組みませんか?」
 みどりが声をかけてきたのだった(ちなみにみどりはいつも敬語を使っていた。理由は知らない)。
 みどりは体力がなくいつも体育の授業を休んでいた。
 そのせいか光子みたいに孤立するとまではいかなくても、これといった親しい友人はいなかった。
「え…私と?」
「はい…私、平野さんとは仲良くしたいんです」
「…」
 光子はその時思った。
―私は、一人じゃないんだ。
 だがその後、2年になってクラスが変わり、疎遠になってしまい、3年になってもお互い上手く話す事ができなかった。
 そして、光子はやっと決心した。
―私は、あそこにいる瓜田さんにだけでも絵馬さんが危険だって事を知らせる!
 光子は電器店を出た。
 そして、みどりの方へと向かった。
「瓜田さん」
 その声にみどりが気付いた。
「へ、平野さん、どうしたんですか?」
「ちょっと前に絵馬さんがここに来たでしょ?」
「は、はい…」
「気をつけて。彼女はやる気になってるわ」
「え!?」
 みどりは信じられないといった感じで言った。
「本当よ、私、絵馬さんがここに入る前に武器をスポーツバッグの中に隠しているのを見たの。だから早く逃げて」
「で、でも…私…、小山田さんや兎丸さんや阿佐田さんを見捨てる事は出来ません…」
「…そう、じゃあ、仕方ないわね。私はもう行くね」
「あ、あの…」
 南へ行こうとした光子は、立ち止まってみどりに言った。
「瓜田さん、1年のときは話し掛けてくれて、ありがとう」
 そして光子は踵を返して走っていった。
 みどりは呆然としていた。
 光子は走った。
―ああ、このあとはどうしようかな…誰か仲間は欲しいけど…でもあそこには絵馬さんがいたしなあ…。
 そしてEー9からFー9まで来た時だった。
 突然銃声がし、光子は頭に衝撃を受け、倒れた。
 光子の頭は、きれいに吹き飛んでいた。
 そしてその光子の死体を、ブローニングを持った佐藤康利(男子8番)が見下ろしていた。
 ブローニングの銃口からは、煙が出ていた。
 やがてその煙もすぐにより激しくなった雨に消されていった。

 女子19番 平野光子 退場


<残り11人>


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