BATTLE ROYALE
〜 殺戮遊戯 〜


第76話

「嘘…忍…?」
 兎丸葵(女子13番)は、呆然としていた。
 それも当然だった。目の前で親友の絵馬忍(女子3番)が同じく親友の小山田智絵(女子4番)をいとも簡単に撃ち殺したのだから。
「ごめんね…」
 忍が呟き、一旦下げたルガーを再び上げた。
 しかし、なかなか忍は撃たなかった。
「葵、瓜田さん連れて逃げて」
 まだ忍の隠し持っていたシュマイザーを握っていた阿佐田仁美(女子1番)が言った。
「え…何で?」
 葵は何故仁美がそんなことを言うのかよく分からず、聞き返した。
「忍が銃を撃とうとしてない今しか逃げるチャンスはないよ。私が説得してみるから」
「何で? 何でそんなこと言うの?」
「いいから早く行って! 私にとっては忍も葵も、智絵も、ここにいない優も、そして死んだ真弓も、大切なの! 死んで欲しくないの…、これ以上手を血で染めて欲しくもないの…!」
 仁美の目には、涙が浮かんでいた。
 仁美の決意は、もう揺るがないだろう。
 そう葵は思った。
「…瓜田さん。行こう!」
「は、はい…」
 2人は雑貨屋から出て行った。
 その2人にも、忍は銃を向けようとはしなかった。

「ねえ…忍…」
 仁美は再び黙ってしまった忍に対して語りかけた。
「何で…あんたがゲームに乗ったりなんかしたの…?」
「…」
 忍は黙ったままだ。
「ねえ、何のために? 私、あんたって本当に、本当にいい子だと思ってたんだよ? ちょっと冷めてるけど、優しい、いい子だと思ってたんだよ? 何でなの? 訳を言いなさいよ!」
「…訳は…言えない」
 忍は、ぼそっとそう、言った。
「何で? 何で言えないの? 訳なんかないとか、そういうことなの?」
「…違うわ。理由はある。でも言えない。…だから、私を嫌ってくれてもいい」
「何が言いたいの? 分かんないよ!」
 話がなかなか噛み合わず、仁美は叫んだ。
「…仁美、行かせて」
 ふいに、忍が言った。
「駄目よ」
 仁美は拒んだ。
「葵と瓜田さんを追うつもりなんでしょう? 分かるわよ」
「私には時間がないの。…行かせて」
「駄目。こうなったら…、どうあっても止める!」
 仁美はシュマイザーを忍に向けて構えた。
「殺したくはなかった…少し休憩をして…ほんの少しだけでもこのゲームが始まる前に戻ってもみたかった…。でも…もう駄目なのかな…友達も…殺さなきゃいけないのかなあ…」
 忍がそう言ってルガーを構え、引き金を引くのが仁美には見えた。
 ぱん。という音と共に仁美は近くの品物の山の陰に隠れた。
 何の用途があるのか仁美にはよく分からない品が一つ、吹っ飛んだ。
 すぐに仁美はシュマイザーを忍目掛けて乱射した。
―止める、忍を…絶対に!
 しかし、突然シュマイザーの動きが止まった。
「え? え? な、何で…」
 ぱん。
 忍のルガーから放たれた1発の鉛弾が品物の山から僅かに見えた仁美の頭部に着弾し、仁美の意識は途絶えた。
 忍は、すぐに仁美の死体に近づき、手を合わせた。
「ごめんね…仁美…私も…きっともうすぐそっちに行くから…」
 そしてシュマイザーを拾い上げ、動きが止まった原因を調べた。
 原因はすぐに分かった。
 排莢口に薬莢が引っかかっていた。
 忍は近くの棚に置いてあった品物の耳掻きで薬莢を取り出そうとした。
 暫くすると、薬莢はカン、と音をたてて床に落ちた。
 そして忍はゆっくりと雑貨屋を出て行った。
 その目から、涙が溢れていた。

 女子1番 阿佐田仁美 退場


<残り9人>


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