BATTLE
ROYALE
〜 殺戮遊戯 〜
第78話
絵馬忍(女子3番)は泣きながらE−8を歩いていた。
―殺してしまった。この手で、親友たちを…。
忍は右手に持ったルガーを見つめた。
眉間をこの手で撃ち抜いた小山田智絵(女子4番)の顔と、頭部に銃弾を撃ち込んだ阿佐田仁美(女子1番)の顔が頭に浮かぶ。
必死だった。優勝したかった。だからゲームに乗った。でも…。
―苦しくて、苦しくてしかたない…。分かってたはずなのに…、人を殺すのはこんなに苦しいことだって。
―それを乗り越えてやろうと思ってた。自分が優勝したい思いは、この苦しみを乗り越える力になると、思ってた。
―でも、違った。そんなことは、なかった。
―結局、苦しい。
―どうしよう…、もう戻れない…どうしよう…?
「う…うううっ…」
忍は立ち止まり、跪いてより激しく泣いた。
そして…。
「う…ゲホゲホゲホッ!」
忍は吐血した。凄まじい量を吐いた。
―ああ…もう死ぬのかな…。
その時だった。
「…忍?」
忍がその声を聞いて顔を上げると、そこには同じ陸上部で女子陸上部部員のなかで唯一生き残っている女子、神野優(女子8番)、そしてその後ろには同じく陸上部の、高円寺紀世彦(男子7番)がいた。
「どうした、絵馬!」
紀世彦が叫んだ。
「忍、しっかりして!」
忍は、呟いた。
「2人とも…私を心配してくれているの…?」
「そうよ、こんな姿見たら誰だって心配するに決まってるでしょ?」
優が、優しく答えた。
「ありがとう…でもいいの…私がこうなるのは予想してたから…。…病気なんだ、私。それもかなり重い病気」
「そんな…」
「私…このゲームに乗った。優勝すれば、少しでも自分の存在を証明できると思ってたから…。でも、もう優勝は無理…。それに、いずれ死ぬ私のために、クラスメイトをたくさん殺してきた私は…うっ、ゲホゴホ!」
忍が更に吐血した。
「忍、喋らないで!」
「私…こうなったからには、早く天国に行きたいな…。向こうで謝りたい。和歌野君にも、旗井さんにも、高山君にも、玉田君にも、曽原君にも、智絵にも、仁美にも…謝りたいよ…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…って…」
「絵馬」
突然、紀世彦が言った。
「お前は立派だよ、俺なんかより。俺も…殺したんだ、勝手な考えで、3人」
「高円寺君が? …嘘…」
「本当だ。お前は自分のことしか考られなかったんだろ? それでも…いいんだ。そう、俺は思う」
すると、忍は少し微笑んだ。
そして、言った。
「ありがとう…、少しだけ、気持ちが軽くなった気がする…」
そして更に、忍は言った。
「最後に1つだけ確認させて。2人とも…私のこと覚えていてくれる?」
「うん…うん…」
「もちろんだ」
「良かった…」
そう言って、忍は息を引き取った。
紀世彦は思った。
さっきの自分の言葉で、忍は「少し気持ちが軽くなった」と言ったが、あれはたぶん嘘だろう、と。
きっと忍は向こうで自分が殺したクラスメイトたちに本気で謝るつもりで死んでいったのだろうな、と思った。
雨が、止みそうな気配がした。
女子3番 絵馬忍 退場
終盤戦終了―
<残り6人>