BATTLE ROYALE
〜 殺戮遊戯 〜


フィニッシュ
Now6students remaining.

第79話

 高円寺紀世彦(男子7番)と神野優(女子8番)は、E−7で佇んでいた。
 目の前には、右こめかみを撃ち抜かれた高山洋一(男子11番)の死体があった。
 真夏の今、洋一の死体の腐敗は早く進行しており、近づくと強烈な腐臭がした。
 だがそれでも2人は洋一の死体に近づいた。
 今まで何人ものクラスメイトを殺してきたという大罪を少しでも今から償うことを誓うために。
 ついさっき死んだ絵馬忍(女子3番)の話から、前回の放送で呼ばれなかった自分たち以外の10人のうち、阿佐田仁美(女子1番)、小山田智絵(女子4番)を殺したらしいことを知った。
―これで、少なくとも今現在生き残っている生徒は、俺たちを含めて9人か…少なくなったな…。
 紀世彦は、そう考えていた(平野光子(女子19番)、瓜田みどり(女子2番)、兎丸葵(女子13番)はすでに死んでいることは、もちろん紀世彦は知らない)。
「紀世彦君…これから、どうしようか?」
 優が、聞いてきた。
「これからねえ…うーん…」
 紀世彦は、真剣に考え始めた。
―脱出する策を考えるのが一番なんだろうけど…いい考えが思いつきそうにないしな…。取り敢えず、仲間を増やす必要があるな。
―藤川圭吾(男子20番)はまず大丈夫だ。あいつのことはよく分かってるつもりだ。
―佐藤康利(男子8番)は結構いい奴だったし…でも、この状況で信用できるんだろうか…?
―瓜田は、信用できるはず。
―兎丸は…、信用できるとは思うけど…。
 紀世彦は、自分の着ている血の付いたカッターシャツを見た。
―この格好じゃ信用してくれないかもな…。
―平野は、やばいかもしれないな。正直俺にはどんな奴なのかよく分かんないし。
―あとは、時田賢介(男子16番)と野村葉月(女子16番)か…。あの2人の前で俺、野村好美(女子17番)を殺しちまったし…、時田は俺が吉山孝太(男子21番)を斬ったところを見られてるし…。
―よし。
 紀世彦は、結論を出した。
「優、取り敢えず圭吾と瓜田、兎丸を探そう。この3人なら絶対大丈夫だ!」
「…でも、時田君とかは? 時田君は信用できると思うけど…」
 優にそう言われると、紀世彦は迷った。
―優に時田たちと会ったことを話そうか…うーん…、よし、話そう!
「優…実は時田と野村には俺が人を殺すところを見られてるんだ…。だから、俺たちを信用してくれないかもしれないんだ…」
それを聞くと、優は言った。
「でも、事情を話せは、信用してくれると思うよ?」
「…そうかもな。よし、じゃあ時田と野村も探すか」
「うん」
 2人は南へと歩き始めた。

 その頃、時田賢介と野村葉月はG−4を歩いていた。
「もう…12人しか…いないんだね…時田君」
「ああ、このままじゃまずい。しかも高円寺がやる気なのは間違いないんだからな。あいつは何が何でも説得しないと、また誰か死ぬかもしれない」
「うん…」
 葉月は大方賢介の方針には賛成だった。だが正直、賢介がクラスメイトを説得した後、どうするつもりなのか分からなかった。
―仲間が集まった後、一体どうしようと時田君は考えてるんだろう…?
 だがその不安も、すぐに消えた。
「葉月さん、さっき藤川に会ったとき思ったんだけどさ…」
「え?」
 突然賢介が藤川圭吾と会ったときのことを話し始めた理由が、葉月には分からなかった。
「藤川は、パソコンを使って脱出作戦を立てたんだろ? あいつは普段からノートパソコンを持ってたし」
「それがどうしたの?」
「つまり、藤川を探してもう一度脱出するためにハッキングをしてもらうか、藤川にノートパソコンを借りてハッキングすれば脱出できるかもしれないってことだよ」
「じゃあ…」
「ああ、藤川を探すぞ!」
 そう言って賢介は歩き出し、葉月はそれについていった。
 葉月は思った。
―時田君って、凄い…。もしかしたら、脱出できるかもしれない…。

 佐藤康利はH−9を歩いていた。
 先ほど、康利はG−9で1日目の朝に国見俊和(男子6番)を見捨てて逃げ出した須藤広樹(男子9番)の死体を見つけた。
―広樹、お前は根性なしだよ。ムカつく、ハッキリ言って。
 康利は、幼馴染の湯原真弓(女子20番)がプログラムのせいで死んだと考えて、復讐のためにゲームに乗った。
 そして殺すたびに冷静になっていった。
 それは自分が目標の優勝に近づいていることがあるのだろうと、康利は思った。
 しかし今、別の考えも頭を過ぎるようになっている。
―俺はちょっとずつ、人としての心を失っているんじゃないだろうか?
 そんな考えだ。
 しかし、康利はその考えを忘れようと考えた。
―やめろ、考えるな! 俺は稚下野たちを殺して真弓の無念を晴らすんだ! その願いが叶うなら、俺の心が、人間でない他のものになってしまっても、構わない。
 そんなことを考えていた康利の前に、民家が見えた。
 自分の歩いていたルートから考えて、ここはI−9だろう。
 ひとつひとつ、康利は民家を確認していった。
 そして、一つの民家に行き当たった。
 その民家の庭に、足跡が残っていた。

 藤川圭吾はI−9の民家でしゃがみ込んでいた。
「…もう嫌だ、何もかも嫌だ…」
 圭吾はさっきから、それだけしか言葉を発さなかった。
―先輩、やっぱり俺は先輩のようにはなれない…ただの利己的で、臆病な…エゴイストだよ…。
 そんなとき、悲しいメロディと共に、御森の声が聞こえた。
「どうも…担当官代理の御森です…。早速、これまでに死んだ人を発表します…」
 圭吾はそんなことはどうでもよかった。
 ただただぶつぶつと呟いていた。
 その時だった。
 ドアが開き、佐藤康利が現れた。
「よう…また会ったな…」
 そう言って康利は、グロッグを圭吾に向けた。
 圭吾は、ようやくそれに気づいた。
「女子19番、平野光子…、女子4番、小山田智絵…女子1番、阿佐田仁美…」
 御森の放送は、まだ続いていた。


<残り6人>


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