BATTLE ROYALE
〜 殺戮遊戯 〜


第80話

 目の前で佐藤康利(男子8番)が自分に拳銃を向けている。
 その状況が、藤川圭吾(男子20番)には理解できなかった。
「明け方に会ったよな…? 藤川…」
 康利が言った。
「女子2番、瓜田みどり…、女子13番、兎丸葵…女子3番、絵馬忍…、以上6名」
 御森の声が放送はようやく死者の名前を読み上げたところだった。
 そこでやっと圭吾は康利と会ったことを思い出した。
 それも、脱出作戦を行っている最中に襲われるという、最悪の出会い方をしたことに。
「…今思い出した…委員長…確か…」
「…藤川、お前俺がお前らを襲ったこと覚えてなかったのか? …まあ、いい。俺は優勝してやるんだ、だから…」
 康利の表情が険しくなった。
「死んでくれ」
 次の瞬間、圭吾は近くの窓を破って、外に飛び出した。
―くそ! 嫌だ、嫌だ! もう何もかもが嫌だ!
「…続いて、禁止エリアの発表です…、1時から、E−3。3時から、H−5。5時から、D−8。以上です…残った6人の生徒の皆さん、頑張って下さい…」
 放送は全部終わったようだ。
 圭吾は西へととにかく走った。
 後ろから康利が追いかけてくる。
 康利の持ったグロッグが火を噴いた。
 ドガドガドガ
 幸い、圭吾にその弾は当たることはなかった。
―嫌だ! もうこんなのは嫌だ!
 しかし、I−7にあった水田地帯まで来たときだった。
 康利が撃ったグロッグの銃弾が圭吾の右脇腹を貫いた。
「ぐうっ!」
 圭吾はうつ伏せに水田の中に倒れた。
―俺、死ぬのかな…、嫌だよ…。
 その時、圭吾はあることを思い出した。
 それは去年、圭吾の尊敬する先輩が死んだときだった。
 先輩の家族は政府に睨まれるのを拒み、先輩の死体を引き取ろうとしなかった。
 そして圭吾が死体の引取りを申し出て、葬式も挙げようともしない先輩の家族に代わって藤川家が圭吾の説得もあり、葬式を挙げた。
 葬式も何とか終わり、先輩の遺品を整理しようとしたときだった。
 圭吾は1枚のメモ用紙を見つけた。
 そこにはこう記してあった。
『無理だと諦めたら、何も変わらない。変えたかったら、何かをしなければならない』と。
 圭吾は思った。
―何で俺は、思い出せなかったんだ? 先輩は、今の俺にふさわしい言葉を、遺していってくれてたんじゃないか!
―そうだ…何でグダグダ悩んでんだ? 悩む暇があったら、変わる努力をしなくちゃ!
―先輩…ありがとう。やっぱり先輩は俺の目標だ!
「うおおおおおっ!」
 圭吾は泥を握り締めて立ち上がった。
「食らえ!」
 圭吾は泥を康利目掛けて投げつけた。
「ぐわっ!」
 泥は康利の目に入ったらしく、康利は目を押さえて蹲った。
「やった!」
 圭吾は康利に近づき、グロッグを奪い、康利に向けた。
―勝つ! 絶対に!
 しかし、次の瞬間だった。
 ぱん、という音と共に圭吾の胸が撃ち抜かれ、圭吾は仰向けに倒れた。
―せん、ぱい…。
 圭吾の意識は、薄れていった。
 康利は立ち上がると、支給品の水をデイバッグから出して、目を洗った。
 そして一言、呟いた。
「もう一つ銃が…あったんだよ。残念だったな」
 そう言って康利は水のボトルをデイバッグにしまい、圭吾を射殺するのに使ったブローニングハイパワーと圭吾に奪われたグロッグを再び手に取り、さらに西へと歩き出した。

 男子20番 藤川圭吾 退場


<残り5人>


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