BATTLE ROYALE
〜 殺戮遊戯 〜


第81話

「け、圭吾…そんな…」
 高円寺紀世彦(男子7番)はI−7で、胸を撃ち抜かれて少し前に死んだばかりの藤川圭吾(男子20番)の亡骸を前にして呟いていた。
 ついさっきあった放送で、瓜田みどり(女子2番)と兎丸葵(女子13番)の死が伝えられ、親友が死んで落ち込む神野優(女子8番)を励ましながら、同時に捜索のターゲットを圭吾に絞ってすぐのことだった。
 以前から何度か聞いている連続した銃声、そして間をおいて放たれた1発の銃声がしたのは。
 すぐに紀世彦と優は銃声のした方向へ向かった。
―まさか…、圭吾が?
―そんなはずない、圭吾はそう簡単に死なないはず…。
 紀世彦はそう思っていた。
 しかし、辿り着いたI−7には、圭吾の亡骸が横たわっているだけだった(佐藤康利(男子8番)はもう既にその場を立ち去っていた)。
「圭吾…何で…」
「ねえ紀世彦君…誰か来る」
 優のその言葉に、紀世彦は我に返って振り向いた。
「! …高円寺…お前…!」
 そこにいたのは、時田賢介(男子16番)と野村葉月(女子16番)だった。
「…よくも、孝太や好美さんを…」
 賢介はすぐに紀世彦に持っていた拳銃、スミスアンドウエッソンM19を向けた。
 賢介が自分を殺してやりたいと思っていることが、紀世彦にはすぐに分かった。
 無理もない、賢介の親友の吉山孝太(男子21番)や葉月の双子の姉の野村好美(女子17番)を殺したのは自分なのだから。
 しかし、銃を構えた賢介の手は、殺人に対する禁忌があるのだろう、ガタガタ震えていた。
 だが、このままだと賢介が紀世彦を撃つのは間違いないだろう。
―年貢の、納め時ってヤツか?
 紀世彦は、自分の死を覚悟した。その時だった。
「時田君、お願いだからやめて!」
 優が、紀世彦と賢介の間に割って入った。
「私も紀世彦君も、ゲームに乗っていた。でも、お互い自分の過ちに気付いたの。そして今は、脱出する方法を考えている。それでも高円寺君が許せない、殺したいっていうなら、私も一緒に今すぐここでその銃で殺してしまっても構わない!」
 さらに葉月が続けて言った。
「それに時田君、みんなを説得して脱出するんだって言ってたじゃない! ならここで高円寺君を殺しちゃ駄目だよ!」
「…神野さん、葉月さん…」
 やがて賢介は銃を下ろした。
「…高円寺、悪かった。俺はお前と神野さんを信用するよ」
「…いや、俺も悪かったんだ。本当に、済まなかった」
 紀世彦はそう言って右手を差し出し、賢介がその手を握った。
「だが高円寺、脱出する方法って…どうやって見つけるんだ? あー、藤川が死んでさえいなけりゃ脱出の方法はすぐに見つかったのにな…」
 2人が手を離すと、すぐに賢介が言った。
「どういうこと?」
 優が言った。
 賢介が答えた。
「俺たち、藤川と今日の5時前ぐらいに1度会ったんだ。あいつは脱出する作戦を立てて失敗した、と言ってたんだ。それで藤川にもう一度脱出作戦を行ってもらえばいいんじゃないかって」
 それでようやく紀世彦は圭吾だけが生き残り、小畑智(男子3番)と橘蓮(男子12番)だけが死んでいた理由が分かった。
 3人はおそらく一緒に脱出作戦を行おうとしていたのだろう。そこを誰かに襲撃され、圭吾だけが生き残った。
 紀世彦は呟いた。
「なあ…この中で誰か、パソコンを使える奴いるか?」
「え?」
 葉月が問い返してきた。
「圭吾はハッキングが出来た。多分その技術を使って脱出しようとしたんだ。あいつはいつもノートパソコンを持っていたからな。だから誰かこの中にパソコンを少しでも使える奴がいればひょっとしたら、と思ったんだが…」
「俺、一応使えるけど」
 賢介が言った。
「え? でも時田君、パソコン使えるなんて言って…」
 葉月の言葉を遮り、賢介は続けた。
「親父がハッカーなんだ、俺んち。だから一応親父から教わってはいる。ただ、俺より3歳下の裕司って名前の弟のほうが上手いんだけどな」
「いい、いい! ハッカーに習ったんなら信用できそうだ! 頼む時田! やってくれ!」
「…分かった」
「よし…」
 そう呟いて紀世彦は傍らの圭吾の私物だったスポーツバッグからノートパソコンと携帯電話を取り出した。
「取り敢えず、落ち着けるところへ行きましょう? ここじゃいつ襲われるか分からないから」
 優の提案もあり、4人は移動を開始した。
 紀世彦は、ほんの少しだけ希望の光が見えてきた気がした。


<残り5人>


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