BATTLE ROYALE
終わりに続く階段


第5話

 時は少し遡る。
 最初の出発者である
柳生俊哉(男子4番)はスタートしてからすぐに分校の裏側へと回り、臙脂色のグラウンドの奥で体を休めると、凝り気味の肩を軽くほぐした。
 未来・・・・・・未来・・・・・・
 3年間片思いしていた女子の名を心の中で連呼する。
 未来とプログラムでどうしても合流したい。
 そこで今までの思いを打ち明けよう。
 そして未来を守ってあげたい・・・・・・。
 ボンヤリと空を見上げると、満点の星空を見渡せた。
 ランダムに散りばめられた星達は、それはまるで一つ一つが宝石のように輝いていた。
 あぁ綺麗だなぁと悠長なことを考えていた。
「ひゃゃひゃ」
 刹那分校付近から
楠哲平(男子1番)の下品な笑いが飛んできて、柳生の脳内を強制的に悠長な世界からリアルな世界へと引き返させた。
 だが俺の存在に気付かずに東側へと足早に消えていった。
 とりあえず一安心だろう。
「そういえば武器を見てなかったな」
 そう呟くと横に置いといたディバックをごそごそとあさってみた。
 中には説明されたとおり、食料、飲料水、地図、懐中電灯、携帯カイロ、コンパス、時計、そして重々しい鉄の塊が入っていた。
 声も出せずこの場で固まってしまった。
 まぎれもなくそれは拳銃だった
 

「な…なんだよこれ」
 ディバックの中からは銀色に光る大きな拳銃そして説明書らしきものが入っていて、その説明書を噛り付くように読んだ。
 説明書のとおりだと、この銀色の鉄の塊の名前はデザートイーグルといい、通称ハンドキャノンとも呼ばれている。
 そう呼ばれているだけのことはあり反動は半端なものではなく下手すれば肩の骨が折れるほどらしい。
 まるで諸刃の剣のような物騒なものだが、それでも保健として安全装置は外しておいた
 これで未来は守れるのか。
 そう思うと不安が渦を巻きデザートイーグルを強く握った。
 そう思った刹那、パンと乾いた銃声が鳴り響いた。
 だがそれは辛うじて右側にそれ白い壁に直撃し、自分に当たることは無かった。
「な〜んだ、結構当てるのって難しいんだね…うんうんもっとさぁかっこ良く出来ないかなぁ。映画みたいにかっこよくパキューンパタリって」
「七姫…何故ここを」
 七姫はそれを聞くとくつくつと笑い出した。
「いやぁとっし〜女の勘は凄いというけど男の勘もすごいね。何か裏側に誰かいそうだなぁと思って来てみたけど予想的中予想的中お前がいたんだよ」
 随分と最悪な勘だ…
 一歩後ろへとたじろぐと、デザートイーグルの銃口を七姫へと向けた。
「へぇ…やるねぇ。でも当たるかなぁ」
「う、うるさい」
「ほらほら来いよ」
 七姫は左人差し指を立てた、一種の挑発行為だろう。
 その挑発に激動した柳生は、
「くそぉぉぉ」
 我を忘れ激昂し、その重々しい引き金を引いた。
 派手な爆発音を静かなグラウンドへと響かせ、その銃撃音に驚いたせいかカラスの群れは漆黒の空へと飛び立っていった。
 銃弾は七姫の左頬をかろうじてかすり、七姫は少し驚いた顔をしていたが当然致命傷ではなく、そこにあるのは軽いかすり傷だけだった。
「ぐぁぁぁぁぁ」
 だが柳生の肩は折れるにはいたらなかったが、15年生きてきたが今まで感じたことすらない激痛に襲われ、ゆっくりとうつ伏せに倒れこみ、一筋の涙が臙脂色の地面にシミを作った。
 畜生予想以上じゃないか…
「ひゅ〜危ないよぉ。それでも予想通りだったなぁ。あんな大きい銃で撃とうとしたら自分だってタダじゃすまないもん」
 そうか、そうだよな普通そう思うよ。
 そして潤んだ目で上を見上げると、銃口を向けた七姫とそれをバックにした星達が見えた。
「じゃあね、とっし〜」
 覚悟か絶望かふいに重々しい瞼を閉じた。
 ごめんな野球部の皆。
 ごめんな父ちゃん母ちゃん。
 ごめんな…未来。
 パン
 この音が敏哉の聞いた最後の聴覚となった。
「…」
 少し沈黙すると七姫は深い闇へ同化するように混じって消えた。
 あの表情は同情なのかそれとも…

 男子四番柳生敏哉死亡(残り5名)


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