BATTLE ROYALE
終わりに続く階段


第6話

 今の銃声…もしかして…俊哉が危ない!
 そう考えると息は乱れ、脈は高鳴り、嫌な汗が額からたれてきた。
「とうとう始まりましたね」
 遠峯はワイルドセブンと米帝語で書かれた煙草を趣に取り出すと慣れた手つきで火をつけ煙を吸いそして大きく煙を吐き出し、口元を小さく歪めながら満足げにうなずいた。
 だが目はあまり笑っていなくどこか虚ろな表情だった。
「う、嘘だろ」
 
服部眞人(男子3番)は信じられないと顔に殴り書きしたような表情でそうつぶやいた。
 彼の自慢のしなやかなロングヘアーは何回も何回もかき回したせいか寝癖のようにぐしゃぐしゃに崩れていた。
 度の過ぎたプレイボーイで神奈川国際学園中等部、神奈川国際高等部の女子を何人も狙い続けた(中2の10月に私もターゲットにされた。無論そんな軽い男ミドルキックで撃退したが)
 そんな服部でさえも今やこの表情だ…。
「女子2番椎名未来さん」
「あ、ひゃい」
 うわぁいきなり呼ばれたとはいえ我ながらダサい返事。
 これが普段の日常でここが教室だったら皆笑っていたのかなぁ。
 俊哉がここにいたら「ははっ大丈夫かよ」って茶化していたと思う。
 桃子がここにいたら「しっかりしなよ未来」と優しく励ましてくれると思う。
 そう思うと憂いな気分になり、思わず涙が出そうになった。
 ディバックを受け取ると少し溜まった涙をこすり急いで部屋から飛び出していった。

 木造造りの渡り廊下はハイカラなランプによって淡く照らされ、どこか推理小説のオマージュ性を感じる。
 普段だったらキャーロットホームズの推理小説みたいと歓喜をもらしていたと思うが、こんな状況ではそんな呑気なことをいってもいられない。
 渡り廊下を抜けると、一見東京とは思えないくらいのどかな田園風景にコンクリートの道が縦一直線に伸び、暁の空まではまだ早く師走の真っ暗な夜空が頭上にある壮大なキャンパスに悠々と広がっていた。
「ヘ、ヘクション!」
 肌を刺すような寒風が通り過ぎるのと同時に、寒がりな未来は豪快にくしゃみをしてしまった。
「あぁ寒い」
 そうつぶやくと私物のスポーツバックから青いダウンを取り出した。
 これでもまだ寒いがとりあえずないよりは余程ましだろう。
「そういえば俊哉は…」
 ふいに一番肝心なことを思い出すと未来は360度全方位をきょろきょろと見渡した。
「えっ?」
 そして後ろを見渡すと信じられないものが目に焼きついた。
「何…これ?」
 分校の後ろ側に生えている木に黒い液体がこびりついていた。
「血…」
 そうまぎれもなくそれは血だった。

「俊哉!?」
 私は無我夢中で走った。
 たっぷりと水分を含んだ土の足場で、愛用のスニーカーが汚れるのすらためらわないほどに。
 そこを走り抜けるとグラウンドにたどり着いた。
 一見すると整備された綺麗なグラウンドだがバスケットリングの塗料はところどころ禿げ、風化が進んでいることからだいぶ時間が経過していていることが分かる。
「はぁはぁ」
 荒い息をもらしながらあたりを見渡した。
 そして…
「嘘…」
 未来が一番想像したくなかったものが、アバウト10m弱の位置に無様な姿で転がっていた。
 それは想像を現実に変えた瞬間…。
「俊哉…」

 仰向けになった柳生俊哉(男子4番)の亡骸がそこに転がっていた。
 湧き上がるのは悲愴、何かが私の中で歪み何かが崩れ落ち、それにつられると涙は雫と変わって落ち、それを拭うことすら出来ずその場で固まった。
「冗談でしょ…」
 カスタネットのようにカチカチと音を立て、凝固したような足を懸命に動かし体を俊哉に近づけた。
 鉛を引きずるような重量感が足と精神をむしばんだ。
「冗談でしょブラックジョークにもほどがあるって…小学生のころよく二人でやってたじゃん…
死体ごっこ…ねぇもうバレバレだよ…だから…」
 自分でも事実とは百も承知だ、これが死体ごっこのような簡単なフェイクではないことに
「…ねぇ俊哉…」
 血の抜けた白い亡骸を懸命に揺さぶる、心臓部を撃たれた俊哉はまるで眠っているような表情だった。
「何で」
「うわぁぁぁぁぁぁ」
 何で何で死んだというのにそんな安らかな顔が出来るの?

「椎名さん、何やってるの…」
「えっ」
 後ろを向くと潤んだ瞳の先にはどこか淀んだ何かを出している
三咲優(女子三番)がこちらを見下した形で突っ立っていた。
 肩まで伸ばした黒い髪がやわらかくふわりと揺れ、どこか今宵の満月の空にマッチしていた。
 やんわりした印象を持っている優だが、その面影らしきものはなく、あるのは殺気だけだった。
「えっこれはどういうこと…柳生君が死んでいるのは何でなの…」
「知らないよ。私が来たときにはもう手遅れで…」
「説明して。内容によっては」
 優は冷ややかな目で月明かりに怪しく光る柳刃包丁を私に向けた。
「私…椎名さんを殺さなければいけなくなる」
 柳刃包丁は心の表れかすこし震えていた。

 残り5人


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