BATTLE
ROYALE
〜 終わりに続く階段 〜
第9話
自分を除くと誰一人いない雑木林。
その木の一つ一つが俺を睨んでいるような気がする。
服部眞人(男子3番)はおぼつかない足取りでC-5にある雑木林を彷徨っていた。
考えもせず分校から走った結果がこれだ。
もっとましなところは幾多もあったはずだ。
ただでさえ怖い深夜の雑木林が、プログラムといういつだれに殺されるか分からない恐怖と混ざり合って、眞人の心理状況は恐怖の一線を越え、まるで麻薬によって起こる幻覚に似たものがまだらな視界に浮かんできた。
「うぅ・・・・・・怖いよぉ寒いよぉ」
七姫とまではいかないが男子にしては長い髪が寒風でなびく。
眞人は俗にいうプレイボーイで、女を口説く時は常に上目遣いを使い自信満々な表情を見せるが、プログラムではまったく違う表情を見せていた。
現に半泣き状態で鼻水もダラダラ止まらない。
そのあふれ出す鼻水を紺色のブレザーの裾ですすっている。
それは哀れを絵に描いたような酷く滑稽なものだった。
支給武器もこれまた酷く、ディバックを担いでみてやけに荷物が重いと思ったら鉄球5kgがずっしりと入っていた。
5kgの鉄球なんて使えるわけも無いし、重いだけだからそんなお荷物とうに捨てたが、
「もういいやとりあえず座ろう」
そうぼやくと眞人は適当な木にもたれかけ、支給品の水を流し込むように飲み、心を落ち着かせた。
「あぁ〜何でこんなことになったんだろう」
そうぼやくと近くの草むらからガサガサという音が聞こえた。
ふいに音をたどるとタタタと軽快なリズム音が鳴り響き、179cmの長身の右肩に銃弾がめり込んだ。
クッと表情を歪ませ、痛みからかユラユラとよろめいた。
周囲の木の弾跡から見て、当たり所が悪ければジ、エンド即あの世行きだろう。
遠くて回りが暗いがためによく見えないが、ズボンがうっすらと見えることから男子ということは推測できた。
そしてその男は自分との距離を徐々に縮めていった。
「はぁはぁ皆敵だ皆敵だ…殺す殺してやる」
自分に襲い掛かったやつの正体は男子委員長である楠哲平(男子1番)だった。
楠は歯をギリギリと噛み締め顔をイライラさせながら歪ませていた。
「殺してやる殺してやる殺してやる」
楠は急に叫びだした。
ちょっとちょっとそこの奥さん近所迷惑だよ。
分校内の様子を見るなり、楠はそうとう精神が狂っているだろう。
やばいやばいどうするんだ俺。
女を口説くマニュアルなら幾らでもあるが、狂った奴をどうにかするマニュアルなど存在しない。
前を見ると金属性の銃口はすでに冷たい目線でこちらを向いていた。
もう逃げるしかない!
後ろを振り向き唾を付けると、右肩を強く抑え右足にありったけの力を込めると全速力で走りぬけた。
さすが仮にも長距離エース。
元々運動音痴な楠があんな重いもの持ったら到底追いついては来ないだろう。
「フゥフゥハハハざまぁ見ろ!」
荒い息を混じらせ雑木林に服部の渾身の叫び声が木霊した。
「そうか。何があったのかぜーんぜん知らないけどよかったね」
「あぁ・・・・・・」
服部の言葉は途中で消えてしまった。
それよりは消されたという方が近いかもしれない。
至近距離から眉目を撃たれた服部は操り人形のような奇妙なダンスをすると、あるべきはずの主を失いそのままパタリと倒れた。
「ごめんね眞人…」
七姫蓮(男子2番)の顔にはさきほどの笑顔はなかった。
俺…帰らなきゃいけないから。
七姫はじっと眞人の亡骸を見ていた。
男子2番服部眞人死亡
残り4人