BATTLE
ROYALE
〜 終わりに続く階段 〜
第17話
不思議な感覚だった。
あんなに狂いながら必死で勝ち組になるため生きるため会場中を駆け巡ったのが嘘のようだった。
負け組でもいいそんな気分だった楠はおじさんの一件以来一度も勉学を欠かせたことがなかった。
全ての神経を薄汚れた大学ノートと金属製のシャーペンに注ぎこんだ。
全ては勝ち組になるため。
全ては負け組にならないため。
小さな薄暗い自室では常にカリカリとシャーペンの音やうなる声が不協和音を奏でていた。
クラスでもその異常な勉学の傾けは確実に浮いていた。
性格こそは真面目で優しいが、あの勉学に対する姿勢からして取っ付きにくい印象がどうしてもクラスの輪から外れてしまう傾向になってしまったのだろう。
「…えっ」
「あぁもう殺してくれないか。もう生きたってしょうがない」
仰向けのまま薄い雲が架かった青空を見上げた。
勝ち組という牢獄に囚われたちっぽけな自分とは違い圧倒的なスケールがそこにはあった。
「…じゃあなんで何で泣いてるの」
えっ?
今まで何故気づかなかった。
自分の目頭から大粒の涙がこぼれ落ちていることを。
こぼれた涙が鼻をたどりそれが口の中へ入ってきてどこかしょっぱい味がした。
あまりの久しぶりの涙に戸惑った。
最後に泣いたのはいつかさえ覚えていない。
それくらい昔のことだ・
少なくてもおじさんの一件以来は泣いた記憶はない。
泣いたら負け組だと父親に嫌というほど教わったからだ。
「…分からないことないよ。誰にだって生きたいという気持ちは一緒なんだから」
一瞬沈黙が流れた。
重々しい窒素のような空気が流れる。
「俺がさっきいってたおじさんの話覚えているか?」
「あぁうん」
「俺は勝ち組じゃないといけないんだ。でももう俺は勝ち組ではない立派な負け組だ」
「勝ち組とか負け組とかそんなのどうでもいいんだよ。大事なのは」
「お前に何が分かる!?」
生涯最大ボリュームの怒号を挙げると先ほど撃たれた肩の傷が開き傷んだ。
声にならない痛みだったがそれすらふんばり再び怒号を上げた。
「俺は全てにおいて失敗が許されなかったんだよ。捨てられたくないんだよ。なのによ!」
沸き上がる悔しさに歯を食い縛ると、少し止んだ涙が再び止めどなく溢れだした。
勝ち組から堕ちた駄目な自分があまりにも情けなくて、脳裏からはおじさんの件が繰り返しデジャブしていた。
そのおじさんが思考の中で徐々に俺に変化して、最終的に俺に姿を変えた。
嫌だ、やめて親父、嫌だ。
弱弱しい金切り声を上げてる自分の姿。
頬に葉巻の先端を当てられ、大きく目を見開きながら、虚ろな空を見上げる自分が写った。
「嫌だぁ!」
この叫びを合図に精神が完全に崩壊した。
それと同時に肩の傷が大きく開き、激しく血が飛んだ。
すでに体がこれ以上のエゴに耐えられなかったのだろう。
激しく痙攣を起こすとコンクリートの地面に倒れ、しばらくビクビクとしていたが、やがてそれすらをやめて、それきり動かなくなり大きな塊へと化した。
七姫は修羅場に生きた者の最後の瞬間を唖然としながらただ見つめていた。
男子1番楠哲平死亡
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