BATTLE
ROYALE
〜 終わりに続く階段 〜
第18話
「ん・・・何だろう」
薄くもやがかかった視界で三咲優(女子三番)はパッチリと目を見開いた。
そこはあの忌々しいプログラム会場ではなく、3年2組すなわち私たちの教室で間違いなかった。
机の位置や日当たりのいい窓側にポツリと置かれているグリーンハーブがそれを象徴させる。
「夢…?」
本当に夢なの?
そうだとしたらさめないでいて欲しい。
いや、これが現実でプログラムが夢なの?
そうだとしたらなんてタチの悪い夢だろう。
全く分からない。
頭の中が整理出来ずにショートしていた。
「ゆうちん、何ボーッとしているんだよ」
急に後頭部を小突かれ、ふいに後ろを見た。
後ろを向くと七姫蓮(男子二番)が学校のバックを肩にかけながらこちらを見てはにかんでいた。
そうか、もう授業終わったのか…
「今日テニス部コーチが風邪で休みだから練習ないってさ」
鬼畜コーチとして中等部、高等部のテニス部に広く認識されている伊東先生が風邪を引いたおかげで、部活休めたことがさぞかしうれしいのだろう。
七姫君の顔を見るとそれがよく見て取れる。
「で、あのさぁ今日の放課後空いてるか?」
少し照れた様子で七姫は笑いながらそういった。
「ちょ、ちょっと待って」
徐々に自分の頬が熱を帯びてきたのを肌で感じてきた。
間違いない告白だ…
自意識過剰かもしれないけどこのシチュエーションで、それ以外に思いつくのは何もない。
「えっと、じゃあ、屋上で待ってるからな」
少し急ぎ足で七姫は教室を出て行った。
一瞬ドア越しから見えた顔は屈託のない笑顔だったが悲しみを帯びた表情にも見えた。
「えっ、優どうするの」
話を聞きつけたのか椎名未来(女子二番)がこちらに駆け寄った。
「ごめんね優。ちょっと聞いちゃったけど、でもまさかな展開ね」
それを追うように五十嵐桃子(女子一番)も中に入ってきた。
色沙汰には人一倍敏感な二人のことだから、声を聞きつけ来るとは思っていた。
思えば修学旅行の就寝時間に、ずっと恋話を語っていたのを鮮明に覚えている。
「だけどさぁ、あの変人だからね。大丈夫なの」
少し心配そうな顔で桃子が言い聞かせた。
「大丈夫だよ、それに七姫君は変人じゃないから。確かに変なところもあるけどとても優しいし、なんというのかなぁ一緒にいてホッとするんだよ」
「そっか」
桃子は少し苦笑交じりのため息を吐いた。
「じゃあ私こと椎名未来は優と七姫を全力で応援するから思いっきり頑張りなよ」
「ということで私たちも頑張らなきゃね、ねっ桃子」
「うっ、それは…うちはいいんだよハハハ」
「じゃあ、優。張り切っていきなさいよ」
嬉しかった。
正直涙が出そうだった。
皆が私たちのことを応援してくれている。
幸せ極まりなく心臓の鼓動が更に高まった。
「じゃあいってくるね」
「いってらっしゃい」
はしゃぐ子供のように手を振る未来と桃子がどんどんと視界から離れるにつれ、抑えていた涙がとめどなくあふれ出てきた。
優はまだ知らない。
これは3年2組が拉致されたはずの明日。
12月19日の平和な日常。
プログラムがない明日。
残り3人