BATTLE
ROYALE
〜 終わりに続く階段 〜
第24話
椎名未来(女子二番)は先ほどまでいた家を出てB-2の集落にいた。
その集落は先ほどいた集落よりかはそこそこ綺麗で都会生まれの自分の観点からすれば幾分か住み心地がよさそうで、近くには光を失ったコンビニやスーパーが幾つかあった。
先ほどの家で丸腰な自分は武器を調え、文化包丁二本を取り出し持ち出した。
痛む左腕の応急処置も済ませた。
相変わらず痛みは残るが、我儘はこのプログラムでは通じないようだ。
その一本は右手に強く秘めている妙な緊張感が伝わってきたからだ。
足跡が聞こえた。革靴がアスファルトを擦る音…
間違いなく自分の近くにそれはいた。
その一本を汗ばんだ手で強く握った。
握った手から緊張が逆流し顔から紅潮を微量に感じられた。
「誰!?」
多分悪い癖が働いてしまった。
つい、この状況下において叫ぶというのはタブーだとわかりながら。
「み〜ちゃん?」
声を察知したのはあの桃子をルール説明時に殺害した七姫蓮(男子二番)だった。
既に黙ればモテるともいわれたそのルックスは廃人のように生気を失い、瞼から何を感じ何を考えているかすらわからなかった。
そしてブレザーは桃子を殺害したときよりも多く血が付着して黒く乾ききっていた。
桃子以外にも手をかけたのだろうか。
まさか俊哉を七姫が殺した?
「あんた誰殺したの?」
「とっしーと眞人とてっぺーを殺した…」
俊哉は七姫に殺されていた…
悔しいが事実だった。
こんなやつが大事な幼馴染を血に染めたと思うと…
恋愛感情は特になかった。
でもそこらへんの友情よりかけがいのない存在だった。
お互いの家族とも仲良かった。
俊哉のお母さんはとても穏やかで家庭的な人で家にあがるとよくクッキーを焼いてくれた。
お父さんは俊哉そっくりだけどとても大きい人で、あのふたりにどう説明すればわからなかった。
あとひとつ疑問が浮かんだ。
優はどうなったのか。
あのとき七姫を探すと言ったきり姿を見ていない。
「優、優は!? あんたのことずっと探してたんだよ」
「ゆうちんは殺せなかった…」
「俺、家族のためにやる気になったんだ…病弱な母さんと弟を守るためこのクラスの皆殺すつもりで動いた。でもゆうちんは殺せなかった」
「じゃあ、優は?」
「殺された、てっぺーに…」
「だからゆうちんに会うため、み〜ちゃん殺して俺も自殺する」
悪寒がした。だがそれすらも許されなかった。
アサルトライフルの火花が廻りを花火のように散り、焦がした。
いつぞやぶりに見たアサルトライフルのブラックホールみたいな銃口は再び自分に向けられていた。
バンバンと鋭い炸裂音が響くと左頬を掠めた。
これが正確に中心に直撃だったらと思うとぞっとした。
左頬からゆるやかに流れる血と傷から来る熱がスパイスのように恐怖に添えられた。
「ふざけないでよ!!」
未来は緊迫の表情で怒号を上げると震えるぎこちない脚に鞭を振り七姫に接近した。
そして胴の部分を両腕で固めるとヘッドスライディングの要領で七姫の体勢を崩した。
これを柔道では俗に諸手狩りというが、未来には知る由もなかった。
「畜生、勝手なこといわないでよ。俊哉の仇め」
糸がプツンと切れたように右手に握った包丁を心臓部目掛け七姫に刺した。
包丁は軌道を描きグサリと骨を貫通した。
そして包丁を抜くとまた刺した。
今度は心臓に入ったらしく先ほどより柔らかい感触がした。
もう充分だった。
少し一安心すると、未来は蓄積された疲れからかグッタリと倒れ、七姫の隣で少し横になった。
「グ、み、み〜ちゃん」
まだ息はあったのか。
七姫はヒューヒューと息を吐きながら消えそうな声でいった。
でもその顔は非常に穏やかだった。
「俺間違えていた。多分母さんもゆうちんもこんなこと望んでなかった…多分、多分母さんは怒るだろう。ゆうちんは泣くだろう」
「じゃあ俺の存在価値ってなんなんだろう。よくわからないや」
「でもみ〜ちゃんは生きて。皆のぶんまでさ。俺が言うのもあれだけど、俺たちがいたこと、3年2組があること、それだけは心に残してね…」
血まみれになった七姫はそれ以上何も語らなかった。
七姫は血まみれこそになっているけど、まるで退屈な授業の七姫の寝顔だった。
ノイズ音が響いた…
「椎名未来さん、優勝おめでとうございます。ゆっくりでいいのでこちらに戻ってきてください」
ノイズ音がやむと、この戦いはあっけなく静かに終わりを告げた。
小鳥のさえずり、雨で濡れたアスファルト、雲からひょっこりと見える太陽。
何も変わらない光景が一人の少女を見つめてた。
[残り1人/ゲーム終了・以上神奈川国際中等部3年2組プログラム実施本部選手確認モニタより]