BATTLE ROYALE
終わりに続く階段


第3話

 1993年12月18日21時52分
 小学四年生の教科書に載っていて、大東亜共和国の人間なら誰でも知っている史上最悪の椅子取りゲーム、正式な名前は戦闘実験第六十八番プログラム。
 内容はこうだ…
 全国の中学生を無作為に50クラスを選び最後の一人になるまで殺し合わせる我が軍の戦闘シュミレーション。
 宝くじの一等賞より確実に確率が低いので選ばれることはないと思っていたけど。
「はいはい遠峯新せんせー、川上せんせーはどこなの?」
 この殺風景な場所に最も似合わない
七姫蓮(男子2番)の腑抜けた声が響いた。
 そして今の七姫はこの状況を怖がっていないむしろ楽しんでいるようにも見える。
 どこか空気の抜けた表情からは狂うほどの殺気が感じられた。
 だが質問のとおり、
川上総一郎(三年二組担任)が何故いないのか…
 刹那、給食の配膳台が運ばれるような音が遠くから聞こえてきた。
 その音は徐々にその距離を縮めていき教室へとたどりついた。
 ビニールシートで覆われた寝袋を乗せたカートが運ばれると遠峯は何かを期待しているかのような薄気味悪い笑みでこっちを見て、ゴツイ指輪が何個もはめられた手でビニールシートに手を伸ばし、
「はい、オープン!」
 この叫び声を合図にすると思いっきりそれを引っ張り出した。
 中にはかつて私達の担任だった川上総一郎だったものが入っていた。
 それと同時に悲鳴のコーラスが教室中に鳴り響き…教室は地獄絵と化した。
 横一文字に上半身下半身が裂けられていた川上の亡骸はとうてい常人には直視などできるものではなかった…
 私の近くに座っていた三咲優(女子3番)は顔を蒼くさせながら口を必死で押さえたが、やはりこの光景に耐えられずにその場で嘔吐物を机にぶちまけた。
「川上先生はあなたたちがプログラムに参加することを断固拒否しました。イコール反政府的行為速球処刑となりました。簡単な話でしょ。あぁそうそうこれから俺がルール説明してる間私語は禁止ですよ。したらこうなるので気をつけましょう」
 と川上の亡骸を指差した。
 恐怖のせいかもう誰も声をあげなかった…
「静かになったな、うんそれではルール説明をします」

 そういうと遠峯はさも機嫌がよさそうに長々とルール説明を始めた。
 あまりの長さと気味悪さに最初から最後までは聞けなかったが、要点だけまとめるとこういうことだ。
*最後の一人になるまで殺しあう。
*反則はとくになし。
*このゲームには禁止エリアというものが存在し、そこに踏み入れると今首に巻きついている首輪が爆発して死亡する。
 なお、最後の出発者が分校から出た場合30分後に分校は禁止エリアとなる。
*今私たちがいるところは東京郊外にある中宮町。
*タイムリミットは3日。
 一日以内に誰も死者が出ない場合、全員の首輪が爆発してゲーム終了になる。
*このゲームには支給武器というものが存在する。
 サブマシンガンクラスからたわしまでピンからキリだそうだ。
「あぁ、長く話しすぎましたごめんなさいね」
 わざとらしく遠峯は笑った。
 確信犯かこいつは
「では質問はありますか」
 そういうと遠峯は私たち全員の顔色を伺いながらエセ臭い笑顔を見せた。
「はいはい、せんせー」
 まるで1+1=2が分かったような小学生のように
七姫蓮(男子2番)が大きく手を上げた。
「何だい」
「もうゲームって始まってるんですよね」
「あぁ一応ね」
 七姫は大きく首を振ると口元を大きく歪ませ、近くに座っていた
五十嵐桃子(女子1番)の胸倉を掴み、右後ろポケットに何故か仕込んであったカッターナイフの先端部分で喉元を思いっきり刺しこんだ。
 桃子は首元から噴水のように血を噴出し床を赤黒い液体で汚しながら、うつ伏せに倒れこんだ。
 素人の目から見ても十分分かる即死だ。
「ごめんねとーこちゃんこれはゲームなんだ」
 今は動かない桃子の亡骸を見ながら七姫は優しく微笑んだ。
 嘘でしょ七姫のやつ人殺して喜んでいる。
 人としておかしいよ・・・・・・・
 今の七姫の存在はこの世の死神を軽く連想させた。

 女子1番五十嵐桃子死亡(残り6名)


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