BATTLE
ROYALE
〜 終焉の日にあなたは何を思う 〜
2
牧園冬馬(男子12番)は眠っていた自らの頭を覚醒させた。
ピントのずれた欠伸で若干潤んだ視界からは時計のカチカチという音が微弱に聴こえる。
自分がいる場所は少し古びた劇場だった。
結構奥行きや天井が広く、舞台にはスポットライトまで置かれていた。
この気持ち悪い空気で、「おぉロミオージュリエットー」なんて寸劇をすることは到底ないだろう。
この異常なまでの殺風景がそれを証明している。
時計を見ると午前6時を指していた。
少なくても18時間以上眠りについていたことになる。
そして一番気になったのが銀の首輪の存在だ…
これはクラス全員、そして自分の首にもそれが固定されていた。
「おい、悠・・・」
隣でぐっすりとまだ眠っている東雲悠と佐伯ゆかをゆすって起こした。
すると悠とゆかは意識を覚醒したようで、軽い欠伸をしていた。
ふたりの髪からはあほっ毛が数本直線状に伸びていた。
「おい冬馬、お前その首輪・・・」
悠は自分の首にも自分と同じ首輪がついていることを確認した。
何故か悠は焦った顔をしていた。
「ん、冬馬も悠も同じものつけてるの・・・ あー何これ、外れない」
ゆかはふたりの首輪を見るなり自分の首輪を手で触れた。
「おい、ゆか。やめろっ」
悠が緊迫した表情で首輪へ依存した両手を離した。
ゆかは驚いた様子でう、うんと首をふって手を離した。
あたりを見渡した。
左影にはテーブルに身を預けて、一人体を震わせている亀田洋介(男子三番)の姿が見えた。
彼は小さく「何だよこれ。何だよこれ」とつぶやいていた。
厚い丸型の眼鏡が大きくずれていた。
後ろを見るとギャルグループの少し幼い顔に派手なチェーンが似合わない麦島瑞希(女子十五番)と、女子なのによく喧嘩の噂が耐えない岸間雪(女子四番)が何か喋っているようだった。
リーダー格の保住真樹(女子十二番)はさぞ退屈そうに頬杖をたてていた。
前には男子中間派の江頭隆平(男子二番)、品川柚希(男子五番)、中野章吉(男子八番)、少し離れた位置に双子の船川亮(男子十一番)と船川唯(女子十一番)がいて、唯は泣きながら亮に少し抱きついていた。
右を見ると放送部の部長大森早苗(女子二番)を中心に土屋香澄(女子十番)、久保田奏(女子五番)が不安げにこの状況を語っていた。
特に久保田の様子はあまりよろしくなく、脚が小刻みを超えガタガタ震えてるのが見えた。
特にいやらしい意味ではないが。
「皆、落ち着いて聞いてくれ…」
混乱がクラスから包む中、男子学級委員長の松浦栄斗(男子十六番)が立ちながら皆に言い聞かせるようにいった。
いつも教室で見せる落ち着きのない姿からは想像もつかないくらい委員長の顔は青ざめていた。
「これって、もしかするとプログラムだと思うんだ」
全員の視線が舞台裏へと注がれた。
これから本当に寸劇をやるかのようなヘアーとメイク、そして高いヒールを履いた女が舞台へたった。
「松浦君、正解です」
無機質な会話というよりほぼ朗読に近い声。
女の周りからは数人の兵士が続いて舞台裏から姿を現し、ライフルと思わしき黒い筒はこちらを暴力的かつ威圧的に睨んでいた。
隣を見た。
悠はあの女を殺意をこめたような視線で見ていた。
まるで悠が見る目つきは大東亜の恨み話でよく見る目だった。
他のクラスメイトはおびえているか悠みたいにあの女を睨んでいた。
「さて松浦君が答えを言ってしまったので仕事の手間がはぶけます。今から貴方たち鴨見中学校3年C組の皆さんにはちょっと殺し合いをしてもらいます」
クラス中はざわざわと騒然となり始めた。
すると女はこちらを睨み、静かに! とヒステリックに喝をいれた。
女の声は爆音のように広い劇場を付きぬけ、驚きからか耳鳴りを起こした。
「えっと静かになりましたのでわたしの自己紹介をさせていただきます。わたしの名前はつぼみさくらと申します。もともとわたしは劇団で女優をやらせていただいてましたが、今はこちらでお仕事させていただいています。でわたしの右手にいるのは大東亜が誇る優秀な部隊でございます。あと騒ぐという行為はくれぐれもおやめください。劇の最中に騒ぐのはタブーなのはご存知で」
つぼみは一呼吸すると指をピンと鳴らした。
すると同じ年と見られる3人がつぼみの横へと向かった。
一人は学ランを着て、どこにでもいる平凡な中学生のようだが顔には恐怖は映えていなく、薄ら笑いがちらちら見えた。
一人はセーラー服を着ており、おかっぱな髪にその目からは生気を感じさせず、どこか不気味だった。
そして一人は黒いブレザーで派手なアッシュグリーンに染めた髪をポニーテールにしている。
目つきこそは鋭いがどこか自分たちのように恐怖が見えた。
「はい、この三人は皆さんの新しい仲間たちです。一人ずつ紹介しますね、まず一人は男の子です。七姫聖君です」
学ランを着たやつは七姫というらしい。珍しい苗字だなと心の中で思った。
だがそれ以上に新しい仲間という不可解なワードに耳を疑った。
「二人目ですね、はい女の子です。セーラー服を着ている子が赤町香奈さん、そして最後にブレザーを着ている子が吉川咲子さんです。以上あたらしい仲間たちの紹介でした」
「あの、家族はこのことを知っているのですか・・・ わたし家族や兄弟がとても心配で」
一番後ろから水野久枝(女子14番)が手を上げた。
そういえば彼女の家は兄弟が多いらしく、長女である久枝は兄弟の面倒で忙しく吹奏楽をやめたと聞く。
だから余計そのことが心配なのだろう。
「皆様の家族にはきちんとこのことは伝えましたよ。わたしが優秀な人物を派遣して説得をさせたので、皆さんより先に黄泉へと旅たった親御さんは幸いおりませんでした。因みに水野さんの親御さんはお父様が怪我をされましたが命に別状はありません。心配は無用です」
「ただ・・・皆さんの担任である杉森先生は唯一わたしたちにくってかかり」
「命を失いました」
つぼみは口をとめた。
杉森先生はこいつらに手を出して死んでいったのか。
杉森先生は今だから丸くなったらしいが、昔は腕の立つ不良だったと本人がそういっていた。
恐らく俺たちには出していない感情の高ぶりが最悪な方面へと脚を進ませたのか。
「何で杉森先生をとめなかったんですか!」
大声で久保田奏がそう叫んだ。
どちらかというとおとなしい彼女だがこの状況は違った。
奏に同調するように隣に座っていた短気な性格の稲尾亘(男子一番)もピリピリした様子で「おい、ふざけてるのか」と叫んだ。
彼の細い眉毛がピクピク動いてることから怒りはかなり溜まっているようだ。
一時期恐怖から静かだった劇場は、再びクラスメイトの騒ぎが一層強くなってきた。
フラストレーションが爆発したかのようにつぼみたちに抗議をする。
だが次に聞こえた音はつぼみの叫び声ではなく兵士達がこちらに放った鉛球のつんざくような不協和音だった。
鉛球は36人の怒りを瞬く間にパニックの一色に染めた。
近くからグアッと叫び声が聞こえた。
よく見ると日比野草太(男子十番)が右脚に鉛球が入り込みうずくまっていて、ズボンから赤黒いシミが煙を通って見えた。
彼の整った涼しげな顔は酷くうずくまっていた。
「日比野君!」
「草太!」
うずくまる草太へと寄せ集まるのをよそ目につぼみはとても冷たい目をしていた。
睨み殺すように来客者を下から見下していた。
「すみません、日比野君。威嚇射撃のつもりでやったのですが、何の罪もないあなたを撃ってしまいました」
草太の幼馴染で親友の園部貴之(男子七番)はずかずかと舞台へとあがるとつぼみへと食ってかかった。
「おい、てめえいい加減にしろよ・・・ ごめんなさいで済む問題じゃないんだよ」
「そうですね・・・」
緊迫する空気が包む中、隣にいた転校生の七姫は薄ら笑いを浮かべながら、
「へえ、友達のためにこんな状況でも怒ったり出来るんだ・・・ でもさやめたほうがいいよ。このまま感情に任せて殴ればわかるよね・・・ お前が蜂の巣だよ。僕はそのほうがいいんだけどね」
そういうと学ランの襟をつかみながら濃い笑みを浮かべた。
貴之はさぞ悔しそうに自分の位置へと戻った。
「さて園部君が舞台から降りたようなので、早速ルール説明を始めます」
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