BATTLE ROYALE
終焉の日にあなたは何を思う


*最後の一人になるまで殺しあう。
*反則はとくになし。
*このゲームには禁止エリアというものが存在し、そこに踏み入れると今首に巻きついている首輪が爆発して死亡する。
 なお、最後の出発者が劇場から出た場合35分後に分校は禁止エリアとなる。
*今自分たちがいるところは鍬川堂大学の劇場。
*タイムリミットは3日。
 一日以内に誰も死者が出ない場合、全員の首輪が爆発してゲーム終了になる。
*このゲームには支給武器というものが存在する。

 つぼねの簡潔な説明は終わった。
 クラスメイトを見ると、目の色が変わっているものもおり、状況を考えれば気持ちもわかるが、気味が悪かった。
 出来れば、こっちも平常心保っていたいのに、これではこっちもそわそわして今後の指針すら立てられない。

 悠はじっとつぼねを見ながら左手で首輪をつまむように触っていた。
 何を考えているかわからないが、深く考えてるようで話かけにくかった。
 悠は深く考えたときに誰かに妨害や話しかけられるのをとても嫌っており、幼馴染の自分はよく知っている。

 ゆかはどちらかというとこの状況で自分以上に落ち着いていた。
 落ち着いていたというよりかはいつもどおりの表情だった。

 このクラスで落ち着いた表情を見せていたのはゆかを含め3人。
 強面でクラスの誰も近寄らない
小森信二(男子4番)。
 信二の場合落ち着いてるというよりは、その仏頂面がひとつも動かないだけで、表情が読めないだけだが。

 あと意外だったのはふんわりしている顔つきの
竹林葵(女子九番)だ。
 ただ微弱な不安の表情は見えたが、他のクラスメイトより数段落ち着いて見えた。

 最後に
保住真樹(女子十二番)、彼女は日頃の態度や性格から少し想像はついた。
 だるそうに腕を組みながらつぼみを見ている。
 真樹のことだ、このゲームに乗るのか?
 とりあえず彼女の行動には十分警戒しても悪くないだろう。

「さてこれから出発してもらうんですが、皆さんにまさか素手で殺しあうなんてエンドレスかつ野蛮なことはさせません。そこで皆さんにはこれを持ってここを出発してもらいます」

 そういうと舞台裏から兵士が二人カートを運んできた。
 カートにはよく戦争映画で見るミリタリーバッグが人数分載っていた。

「さて説明しますね。皆さんにはわたしたちのささやかなプレゼントとしてこのバッグを差し上げます。このなかには水、カンパン、地図、方位磁石、そして先ほど申し上げた支給武器が入っています。支給武器は運しだいではサブマシンガンといった立派な武器や殺し合いなんて白旗ですといった外れ武器もございます。ご注意ください」

 ランダムといったふざけたルールに歯を強く噛んだ。
 下手すれば自分が外れ武器で仮にやる気のやつがサブマシンガン持ってたら、方針とかそれ以前にお陀仏ということも頭に入れておこう。

「さて、出発順番もこちらでランダムで決めさせてもらいましたよ。男女交互で出発してもらいます。さて発表しますね。男子九番乃木順平君」

「えっ、俺っすか」

 クラスの視線が
乃木順平(男子9番)へと注がれる。
 いつものへらへら調子はあまり感じられず、精神に不安が満ちていることが見えた。

「おい、順平」

 
松浦栄斗(男子13番)は心配そうに順平に声をかけると、順平は軽く「おう」と返した。
 遅い足取りで向かう乃木を見た兵士が「早くしろ」と怒鳴ると、驚いたように陸上部の機敏な動きを見せてバッグを貰い、闇のなかへと走って消えた。

「はい、乃木君がここから出て行ったので次は女子9番の竹林さんは5分後出発です。最後に出発するのは女子8番の菅野さんになります」

 つまり自分は30分後の出発ということか。
 ゆかも悠も自分から随分離れた出発になるということだ。
 待ちたい気持ちもあるが自分の次には真樹がいる。
 急いでここから出て離れなければいけないだろう。

「はい、五分過ぎたので竹林さん出発してください」

 葵は急ぎ目に兵士からバッグを貰うと出発した。
 闇に向かう彼女の眼には迷いがなかった。

 
日比野草太(男子十番)は痛みで少し顔が歪んでいたが、笑顔でこっちを振り返り出発した。

 
土屋香澄(女子十番)が出発してその五分後船川明(男子十一番)、続いて双子の姉の船川唯(女子十一番)と続く。
 あのふたりだから合流するだろう。そして次は自分の番だ。
 悠とゆかは不安そうにこちらを見る。

「冬馬、俺とゆかは順番を考えて合流するが、よく見てくれ」

 悠は右手に握っていたくしゃくしゃの大学ノートの切れ端を広げた。
 中に書いてあったのは『ここは大学ということは校舎が幾つもあるということだ。俺らは二号館という場所へ向かうから、先に向かってて後で合流しよう』

 悠は大学ノートの紙切れをしまうとニカッと笑って見せた。
 ゆかもガッツポーズをこちらに向けた。

「では牧園君。出発の時間ですが、よろしいですか」

 とうとう出発の時間だ。冬馬は私物の鞄を持つと兵士からバッグを受け取った。

 劇場から外に出るとまだ夜が明けたばかりの朝の独特の空気がヒンヤリと伝わる。
 随分綺麗なキャンパスで、今から殺し合いなんて始まるとは思えない、争いと無縁な光景が冬馬の視界いっぱいに広がっていた。

 どうやら周辺には人がいない。
 前に出発した唯と明はもうどこか消えたのか。
 そしてもうひとつ気になることがあった。

 先ほど支給されたミリタリーバックのことだ。
 木陰に隠れ中身を確認した。
 中には水、カンパン、地図、方位磁石、そしてずっしりと重い棒みたいなものを引っ張り出した。
 棒の先端には星のような形の柄頭がついている。
 説明書にはこれをモーニングスターと呼び、かつて中世のヨーロッパ騎士はこれを使い戦争をしたと長ったらしい説明が添えられている。
 物騒なものがあたってしまったな・・・

 一瞬のことだった。 
 自分の座っている木のてっ辺に大きな矢が軌道を描き、それが刺さってザクッと木屑が降りかかった。

 ハッと我に返ると15分前に出発した土屋香澄が眼の色を変えてこちらにボウガンを構えた。
 ボウガンの矛先は自分に向けられ、姉さんと呼ばれた大森と放送部を支えたしっかり物の彼女の面影はなかった。

「おい、土屋。そのボウガンを下ろして!」

「うるさいわね、あんたのその物騒な武器なによ、それを先に下ろして」

 そういわれ、俺はおとなしくモーニングスターを地面に落とした。
 今ここでやりあう気はないし、やりあったところで勝機も明暗だ。
 一発逆転の殺し合い演じるよりもおとなしく寸前で済ませたほうが両者得だろう。
 すると香澄もボウガンを下ろして、ホッと胸を撫で下ろしていた。

「ごめんなさい、牧園君・・・ 私状況に飲まれてついカッとなって」

「いやいや、俺もこんな物騒な武器持ってたのもあるし、やる気になっていると考えるなんて当たり前だよ」

 俺はこれ以上突発的な感情に彼女を進ませないよう自虐的な話を使った。
 すると香澄もクスクス笑ってくれた。とりあえず一安心だろう。

「あっ、そうだ牧園君。ひとつおねがいがあるんだけど」

「シッ隠れて」

 俺は香澄の腕を引っ張ると、木の陰に隠れた。
 香澄は何事かと驚いたが、冬馬の真剣な顔つきと目線で理由がわかった。
 冬馬と同じ出席番号、5分後に来る人物のことだ。保住真樹のことだ。
 金髪に染めた不機嫌そうな表情は冬馬と香澄を察知することなく逆方面へと姿を消した。

「危ない危ない。保住はちょっと俺もよくわからないからさ」

「う、うんそうだよね・・・ わたしもちょっと真樹は苦手なんだよね」

「で、牧園君はゆかと東雲君と合流する予定なの?」

 香澄は先ほどより落ち着いたようで、とりあえずボウガンの矛先をこちらに向けられることは避けられたようだ。

「おう、でも二人ともまだ出発しないけど、先に目的地にいる予定なんだ」

「じゃあもう行くの? 出来たら奏と早苗見つけたらわたしが捜してたって伝えといて。わたしも二人見つけたら伝えとくよ」

「わかった。土屋も気をつけて」

 冬馬はバッグを持つと、地図を見るなり二号館へ向かった。
 
 わたしはとりあえず牧園君がやる気ではないことに安心できた。
 関わり薄いクラスメイトについてはよくわからないし、でも改めて落ち着いてから気がついた。
 自分のように怖がっているみんなもたくさんいる。
 だからこそ、わたしがみんなを助けなきゃ。

 そろそろここも禁止エリアに入るから移動しないと・・・
 移動しようとした瞬間強い衝撃が腹部に入った。
 呼吸出来ないような痛みに紺のブレザーは真っ赤に染まっていた。
 何で・・・ 何で・・・
 前には一番前に出発した乃木の姿が。
 乃木の持っていた拳銃から白い煙はモクモクとあがっていた。

「う、たすけっ・・・」

 香澄の視界は白くモヤッとし始めた、命に終わりを告げる白いシグナル。
 やばい、もう無理だわ。わたし・・・

「か、かなで、さなえっ」

 伸ばした腕はダランと地面に垂れ、眼は薄く見開いていた。
 このクラス最初の犠牲者は血のグラデーションに彩られ一足先に旅たった。

女子十番土屋香澄死亡
残り35人+3人


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