BATTLE ROYALE
終焉の日にあなたは何を思う


 はあはあと白い息が漏れる。
 拳銃からもれた白い煙を吸い込んでしまい咳込む。
 心臓が破裂しそうな緊張感が
乃木順平(男子九番)を満たしていた。

 アスファルトの上には
土屋香澄(女子10番)の亡骸が血に染められていて、それは黒くなっていき、想像以上にグロテスクだった。
 ゲームでよくゾンビなどを殺すとかB級スプリッターとか見て慣れるものかと思ったが、耐えられるものではなかった、
 鉄のような匂いがよりリアリティーに演出させる。
 思わず吐きそうにもなったがそれを未然に防いだ。
 冬なのに汗がとまらない。

 拳銃を持った腕は未知の何かで震えがとまらなく腰もひけてきた。
 まさか人を、クラスメイトを殺すのが、こんなに怖いなんて思わなかった。

 香澄は仲のいい
稲尾亘(男子1番)の彼女だったこともあり、亘と香澄が付き合っていたときはちょくちょく会話をしたこともある。
 別れてふたりが気まずい状態になったときから自然に話すことは減ったが、それでもクラスの女子では仲いいほうだったかもしれない。
 これを見た亘はさすがに悲しむだろう。

 そんな香澄を殺した。そして人としてのタブーを犯した。
 だが、そんな悠長な思考を持っては生きられないんだ。

 悪魔が俺にささやくように、天使なんて自分を殺す考えしか出来ない。
 偽善で無抵抗をしても、何がある。
 後に誰かの鉛球を喰らって死ぬか、ルール通り時間切れになって全員死ぬか。
 それだったら自分が生き残るしかない。
 一人殺しただけで、ブツブツ考えて嘆いていても救われはしない、まだやることはある。

「おい、順平」

 チッと軽く舌打ちをした。興奮のあまり忘れてた。
 こっちを見るなり今劇場を抜けたばかりの松浦栄斗(男子十三番)が走って向かってきた。

「順平、俺のこと待ってて・・・」

 栄斗の顔は次の言葉が出る前に固まった。
 視線は香澄の亡骸に注がれていた。

「お、おい土屋さんのこと。お前まさか」

「そうだよ、俺は死にたくないんだ。これはそういうゲームなんだ。誰にも文句なんていわせない。同情したら死ぬ・・・ お前だってそうだろ。生きたいだろ。偽善なんて必要ないぞ」

「何いってるんだ、順平! お前、だからといって殺していいわけないだろ。政府の言いなりになってどうするんだよ」

 感情的に説得する栄斗など知らず、拳銃を取り出すと引き金を引き・・・ 再び銃を撃った。
 火薬が弾けとび、栄斗の額を紅に貫くはずが大きく的をはずした。
 その一瞬の隙で栄斗はサッカー部で鍛えた脚で逃げ出した。
 走ろうとしたが、到底追いつけそうにもない。
 折角の兎を逃してしまい、後悔のみが自分に残る。

 ただひとつ自分に残った感触、それは快感。
 震えた支給武器トカレフT33、よく暴力団の話で出てくる銃だ。
 銀色のボディは艶やかで綺麗だ。
 最初香澄を撃った時に罪悪感しか湧かなかったが、それを捨てると意外と楽しいものだ。
 いっそ悪魔の罠に乗るってのもありかもしれない。

 さっき牧園冬馬が走って向こう側にいったのを覚えてる。
 殺気がしたのか、何なんのかわからないが運がよかったようだ。
 少なくとも冬馬と香澄の会話を聞く限りやる気ではないようだ。 
 意外と頭の回転はよさそうで、自分の結論にたどり着いていないことから、やっぱり遅刻魔の馬鹿のようだ。
 あと気をつけなければいけないのは転校生のことだ。
 あいつらの眼、何考えているか分からず、この状況に飲み込まれることなく、何でこの時期に転校してきたのかという疑問が出てくる。
 恐らく政府が用意したんだろう。ということは自分より遥か先からタブーという修羅場に入っている人間かもしれない。

 香澄からボウガンを引き剥がすと、ずっしりと重かったので、無理と判断すると地面に置いた。
 持っていたほうがよかった気がするが、めんどくさい荷物になりそうなので・・・
 トカレフだけで充分だろう。
 これさえあれば、優勝狙えるかもしれない。

 笑いが止まらなかった。
 笑い声は木霊のように響き、順平は悪魔に執りつかれたように西側へ向かった。

残り35人+3人


   次のページ  前のページ  表紙        名簿