BATTLE ROYALE
終焉の日にあなたは何を思う


「女子十五番麦島瑞希さん出発してください」

 次々とクラスメイトの名前が呼ばれ、この劇場から消えていく中で、とうとう出発の時間が来てしまった。

 
麦島瑞希(女子十五番)はつぼみの呼びかけにビクッと身体を震わせた。
 小さい身体は子猫のように怯え、ディバックを貰うと一目散に走った。

 そうだ、わたしは悪い夢を見てるんだ。
 写る景色全ては醒めればベットへと帰れる。
 そういう思考をしてみたが一向に夢から醒めず、ほっぺを抓っていても醒めず、これは現実だと酷く痛感した。

 瑞希は不自由なく育ってきた。
 仲のいいリーダー格の
保住真樹(女子十一番)のように資産家の娘で金を持っているというわけではないが、欲しいものはたいてい我慢することもなく、これも気持ち悪いが瑞希を溺愛する父親のお陰だ。

 グループの外では大人しい女子を中心にいきがったりしていた。
 バックには瑞希たちがいる。怖いものなんてない。
 見上げるのが楽しかった。とにかく自分を大きく見せたかった。

 化粧も派手にして男子の目を惹きつけ、教師の言う事を聞く耳持たずそれも気持ちいいし、
 援助交際やお酒、煙草などやってはいけないことも大人っぽくて好きだった。
 ただ薬物はさすがに躊躇して未だやってはいないが、その気になればするだろう。

 ただ今は何がなんだか分からず、苦労を人生のなかであまりしたことのない瑞希にとっては恐怖しか見えなかった。

 支給武器を見るとスタンガンといったものだった。
 気絶させるならお手の物だが、これで拳銃相手に役にたたないだろう。
 つぼみの言葉を思い出した。これが外れ武器といったものだろう。
 改めてこの残酷なランダム要素に落胆した。

 歩いていると鉄のような匂いがそう遠くないところでツンと匂った。
 見ると思わず腰を抜かしてしまった。
 血まみれになっている土屋香澄の死体が倒れていたからだ。

 放送部から流れる彼女たちの声は気に入らなかった。
 自分たちで放送を楽しんでいるところとか、流れてくる音楽も気に入らないものばかりで飯がまずくなったこともあった。
 色々腹立たしい面はあったが、そんな放送部の香澄が本当に死んでいる。
 冗談なんてレベルじゃない。
 こんなの絶対嫌だ。わたしはこんな風になりたくない。
 香澄の死体から眼を逸らす。
 濃い目のアイラインは涙に流れていった。

 さらに歩みを進めると見通しのいい広場が見えた。
 いかにも大学らしい広場でベンチが中心には噴水がある。
 学生にとって憩いの場所であっただろう。
 うちの学校が田舎の辺鄙な場所に立地してるからか憧れが出てきたが、今はそんなこと考えてもいられない。

 すると噴水前からひょっこりと人影が見えた。
 女子生徒だ・・・と思ったら、それはいつも見慣れているリーダー格の保住真樹だった。
 金に染めた髪にそこそこ整った大人っぽいスレンダーな美人。
 童顔で十人並みな容姿の自分にとっては天と地の差がある。
 真樹は警戒しているのか挙動不審なのかわからないが、あたりをきょろきょろ見回していた。
 恐らく真樹のことだ。友人といっても肝に銘じているところがある真樹の恐ろしさだ。
 学校内では威圧は日常茶飯事だが、他校の生徒と喧嘩するときは容赦がなく、こちらも眼を逸らしたくなるような地獄絵図だ。

 真樹がこのゲームに乗るのは明らかといえば自意識過剰だがおかしい話ではないだろう。
 現に先ほどのルール説明で腕を組みながら顔色を変えなかったことから恐らくこのゲームのプランを練っていたのか、少なくとも易しく命を差し出すことはしないだろう。

 無意識にスカートのポケットからスタンガンを取り出し電源をいれた。
 微弱な振動が右手から緊張をそそる。
 真樹は武器も持たず丸腰状態だ。
 外れ武器か知らないが、奇襲でも仕掛けたらいける・・・
 躊躇したら殺されるかもしれない。相手はあの真樹だ。

 考えているうちに真樹はこちらの存在に気がついた。
 殺気を抑え、奇襲に備える。

「瑞希、何やってるの?」

「真樹・・・真樹なの」

 演技はうまいほうではないだろうが火事場の馬鹿力なのか、歓喜の表情を完璧に作り上げて見せた。
 一方真樹は小さく頷いた。

「よかった・・・。私さっき香澄が死んでるの見てから、本当に怖くて怖くて・・・。真樹がいなかったら今ごろわたし・・・」

「そう、香澄以外に死んでるクラスメイトはいた?」

「いや、わたしの知る限り、香澄だけ・・・」

 意外なことに真樹はすっかり安心をしてるように見える。
 ここでやるしかない。
 スタンガンは手汗で染みていた。

「ねえ?」

「瑞希、右手に何隠してるの?」

 涼しい顔をしながらこちらの目論見を見破られ、演技で出来た笑みは壊れ、顔にそれが出てしまった。
 不意打ちは完全に失敗に終わってしまった。

 やるしかないと思った。
 ポケットに隠してたスタンガンを真樹に目掛けて。
 しかしスタンガンは素早くはたかれ地面に落ち、アスファルトに焦げ目をつけた。

 あわてて拾おうとしたときにはもう遅かった。
 鋭い痛みが右胸を襲い、仰向けに倒れた。

「糞っ。人殺しっ。絶対あんたのこと呪ってやるっ」

 涙をためた眼で思いっきり真樹を睨んだ。
 だが、次に刺されたときに意識は飛んだ。

「馬鹿ね、あんたこそ人殺しじゃない。別にこっちにスタンガン向けなければ、わたしが手を出すことはなかったのに」

 冷たい視線を瑞希に向けると広場を抜けた。
 瑞希の亡骸は眼を鬼みたいな形相にしながら虚ろにさ迷っていた。

 女子十五番麦島瑞希死亡

残り34人+α3人


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