BATTLE ROYALE
終焉の日にあなたは何を思う


 プログラム会場の東端にあるD‐5の五号館はほかの華やかな建物に比べだいぶ年季が立っており、人の気配すらしないまるで幽霊屋敷みたいな不気味さを放っていた。

 そこを誰もいないか、慎重に足早に校内を駆け巡る。
 だが敷地は思ったより広く、走っているうちに無駄に体力を消費した。

 
松浦栄斗(男子十三番)は支給されたペットボトルの水を一本飲み干すと困憊した表情でたどり着いた教室の椅子に座りぐったりとした。

 元気がいいとよくクラスでは評判になった委員長はそこにはいなく、ただ抜け殻のように疲れ果てた委員長がここにいた。

 栄斗は思い出す。
 友達が人を殺す瞬間。クラスメイトが死んでいる現実。
 正直怖いくらいに信じられない。あれが嘘だって自分に言い聞かせたい。もう何も考えていたくなかった。
 もう順平は日常から脱却してるんだ、でもここではそれが正しいのだろう。
 あのいつもヘラヘラして楽天的な性格ですらこのプログラムでは修羅へと化ける。
 誰かに会いたいという気持ちと誰にも会いたくない怖いという矛盾した気持が心の中でドロドロに混ざり合い気分が悪くなってきた。

 栄斗は支給された脇差の柄を握り締めた。
 殺傷能力も十分あるそれは窓から差し込む朝の陽ざしで鮮やかな光を帯びていた。
 でもこれで自分は人を殺せるか…。
 かつての順平が思い浮かぶ。
 あいつは何を考えて殺しをしたのか…。

 順平に限ったことではないだろう。
 このプログラムが継続する限り、誰かが誰かを殺すというのは当たり前になるんだ。
 きっと順平も悩んで悩んでこの結末にたどり着いたんだろう。

 気がつくとコツコツと革靴の音が遠くないところから聞こえた。
 考えることをやめ脇差を構える。
 来るな・・・。来るな・・・。
 震えるわが身を構うことなく、侵入者は簡単に自分がいる教室のドアを力強く開いてしまった。

「い、委員長なの」

 ふと我に返るとそこには文学少年の
江頭降平(男子二番)がいた。
 彼とはたまにだが映画の話や小説の話しなどで盛り上がったりした。
 流石文学部に所属してるだけであって物語の本質や知識量にはとても驚くものがあった。

 彼と眼があい、ふいに眼をそらしたがその有様に思わずゾッとした。
 わき腹のあたりの傷口が酷く、血まみれでフラフラだったことだ。
 彼の表情は自分よりも酷く怯えていた。

「降平、降平しっかりしろ」

「転校生にやられた・・・助けてくれよ委員長・・・」

 そういうと地面にうつ伏せに倒れた。
 降平の意識はすでになく、目の前で死んでしまった。

 そして足音が聞こえたドアが開く音が聞こえた。
 そこには例のおかっぱ頭の転校生
赤町香奈(転校生)が無表情でこちらに近づいてきた。
 彼女の持ってるナタは赤黒い血がこびりついており恐怖を煽った。
 もう怖気づいて立ち上がる力すら残っていなかった。

 転校生は屍となった降平をチラリと見てため息をついた。

「出血多量ね・・・だからあれほど抵抗しないでって言ったのに。そうすれば随分楽に逝けたんだろうにね・・・」

「嫌だ嫌だ死にたくない!」

 脇差を両手で構え、転校生の心臓をめがけて駆け込んだ。
 涙で視界が見えないがそれでも構わなかった。

 嫌な音がした。骨がものすごい勢いで折れる音。
 そしてようやく晴れた視界には

「あああ・・・!!?」

 自分の両腕だったものが乱雑に転がっていた。
 そして強烈な痛みで悶絶した。

「だからいったのに抵抗しないでって、でもこれで何も出来ないよね」

 首を横に振ろうとしたが、そのときにはナタは頭上に高く振り落とされていた。

「さようなら・・・」

 彼の意識は激しい衝撃で強制的にシャットダウンした。


 松浦栄斗(男子十三番)死亡
 江頭降平(男子二番)死亡

 残り31人+α3人


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