BATTLE
ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜
12
和帝二(男子5番)は体育館を出ると一先ず立ち止まり、辺りを見回した。コンクリートで造られているせいでやけに廊下は寒かった。
廊下は右と左に続いていたが、電気は左方向にしか点いていなかった。そちらに進めと言う事なんだろう。
けれど、オレは右の道に少しだけ進んだ。何かがあるかも知れない。すぐに突き当って道は続いていたが、安易に曲がるのは危なそうだった。先の廊下から、明かりが漏れている。どうやら、教室からの光のようだ。
オレは心臓の鼓動が回りに反響しているのではないかと思い、早くなる動きを精一杯に押さえつけて、その教室を覗き込んだ。普通の学校のコンピュータールームだろうか、何台もパソコンが並んでいた。ただ、明らかに普通じゃないのは、そのパソコンの前に一人一人座っている人間の格好だ。迷彩服、ゴーグル、肩からフックで吊り下げた銃…。
生徒の間で今、流行っているゲリラ風のファッションです…なんて事がある訳が無い。50人は居るであろう、兵士達だった。蒸気の上がっている飲み物をカップで飲む者、隣の人間と話す者、トランプをしている者…様々だった。
オレは、一通り見渡すと、その場を離れた。そいつらがオレ達をこんな目にあわせたのは事実だし、こんな政府に従っているのも事実だ。けど、若者や父親らしい兵士にも、それぞれの生活がある。
オレが立ち去ったのは、あの兵士達を襲っても勝ち目が無いのもあるが、オレにはやはり普通の人間にしか見えなかった。臆病と言われても仕方がないだろう…けど、オレには出来ない、殺すなんて…。
オレは、それ以上兵士達の事は考えずに、電灯の指す廊下を辿って外へ出た。
その瞬間に、俺は驚愕した。
「な、なんだよ…これ」
一瞬の間に目に広がった光景と血の匂いにオレは吐きそうになる。頭もくらくらしてきた。左の森に程近い場所には女子が二人(綿由と柳瀬だろうか)、それよりやや離れたこちら側には阿部、そして出てすぐの…そう、オレのすぐ目の前には青井時政(男子1番)が居た。(“あった”と言わなければならないのだろうか…)
青井はクラスの中でも勉強も出来る方だし、部活も真面目にやる、いわゆるリーダータイプだ。それにルックス、性格、印象がトントントンと揃っているから、かなりモテている。(ルックスは正直、羨ましい…。オレはお世辞にも良い、とは言い難いし…)
もちろん、差別なんてしない奴だから、信子や村田にもよく構ってやっていた。それなのに――、
「――青井!」
オレは駆け寄った。青井の整った顔に水滴が落ちる。胸は寸とも動かずにやや苦しげな顔をしていた。
――誰だよ…こんな事をしたのは!
青井は親友とも呼べる存在だった。休日にはよく、バスケやテニスをした。一昨日も試合をして青井の方がちょっとだけ強かった。
先週は綿由と手ぇ繋いで一緒に歩いてたじゃないか、なのに…この前まで笑ってたのに…。
「青井! 目ぇ覚ましてくれよ! なぁ…先に死ぬなんて、嫌だぜ! 俺…!」
ただ眠っている、ちょっと悪い夢を見ているだけのような顔をしていたが、確かに、青井は死んでいた。
――悔しい…。なんでさっき、あいつらを殺せなかったんだ!
デイパックの中から俺は支給武器であろう、リボルバー式の銃を取り出した。
そして、校舎の中の先ほど来た廊下を睨みつける。
――その前に、俺の目線はある物に留まった。
一人の女子生徒が、目の前に居たから…。
「青井…くん? …何よ、これ」
目があちこちに向いては衝撃を受け、見開かれる。
「なんで…、嫌……みんな…死ぬの?」
俺は口を開きかけたが、その女子――片月真紘に突き飛ばされて、尻餅をついた。その間に真紘は森の中に消える。
「おい、片月! 待てよ…!」
俺は青井に一度だけ、視線を投げかけて、真紘の後を追った。森の中に入ると先を行く真紘の足音がはっきりと聞こえてくる。この森の中には既に、入り口で死んでいた奴らを殺した人間がたくさん居るはず…。
「真紘! 危ない…戻って来い!」
叫ぶのは危険だとわかっていたが、止まってくれなければ見失うかもしれない。
――もう、嫌なんだよ…失うのは!