BATTLE ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜


14

 和が鏡夜を探すことを決意した頃に丁度、名村鏡夜(男子11番)は体育館を出ていた。しかし、今はまだ、そこで立ち止まれない。まずは、この後の混乱の元を…。

 鏡夜くんが出る直前、仁志くんの手に何かを握らせたのをあたしは見た。
 続いてどんどん人が出て行った。佐野広美、仁志雷也、瀬野真由…千瀬紫織、野中秀勝…。
――そして、あたしの番…
「じゃあ、女子15番、戸波夏美」
 呼ばれて、隣の野村冬香(女子16番)と手を離した。
「待ってる…外にいるから…」
 冬香に言って、あたしは鮎川千秋(女子2番)に言われた事を思い出す。
――真っ直ぐ西に進んだ、突き当りで…。
 それはつまり、大体の地図は上が北だから、地図で見て左のエリアの端で待っている、という意味なんだろう。

 体育館を出る前にあたしは一度だけ振り返って全員を見つめた。全員の目はこれからの運命に絶望しているかのようで、もの凄く寂しい。さらにほとんどの生徒が出てしまっていたから、余計に寂しさが募る。もう、これはドッキリなんかではないのだ…。
 あたしは立ち止まっていた足を動かして、廊下を歩き出した。途中で兵士らしき大人とすれ違った。その人が持っていた銃を見て、あたしはさっきの銃声を思い出した、けど…
「こんな…――」
――まさかこんなことになっているなんて…。
 そう思うと言葉が出てこなかった。出口に幾つも転がっている死体。いつも一緒に生活していた級友達が皆、何も言わずに横たわっているのだから…。“別れは突然”そんな言葉を小説で見たことがあった。けど、やっぱりあまり身近なものだとは思えなかった。だって、いつだって、四季の4人で通っていたあたしの周りは、ちーちゃん(千秋)やとうちゃん(冬香)、春菜が居た。男の子の友達も一杯居た。
 それに…みんな、元気だった………。
「ぁ…ああー、なんでこうなるの? なんで? うぅ…。嫌だよぉ…!」
 しゃがみ込んでしまった。もう立ち上がれないと思った。このまま冬香がきたら先に行ってもらって、あたしはこの首輪が爆発するまで残ろうとも思った。だけど――、
「――戸波さん? 大丈夫…?」
 それはあたしの次の杯谷春芳(男子16番)だった。いつも引っ込み思案な性格のせいで、置いて行かれているタイプだった。いつも飛騨弘(男子17番)にリードしてもらって、それでも自分の意見をキチンと言えない男…。
――杯谷なんかに心配されてたら…ダメよね。
 あたしは勇気を出して立ち上がった。
「大丈夫よ…。杯谷こそ、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫…」
 すぐに返事をした。大分無理をしている様で、顔が青い。そうよ、杯谷がこんなに頑張ってるんだもの、あたしだって…。
「飛騨を待つの?」
「うん…。戸波さんは、野村さんを…?」
「えぇ…」
 短い会話だった。そうして、あたしも杯谷も外に目を向けないようにしながら、立っていると冬香はすぐに来た。
「行くよ、冬香」
 そう言って冬香の手を引き寄せてから、あたしは一言だけ杯谷に言った。
「また、会おうね…」
「うん、また…」
 一瞬目があったが、杯谷はすぐに逸らして、そのまま下を向いた。さよなら、とは言いたくなかったけど、自分がまた杯谷に会える気もしない…だからあたしは、もう何も言わずに懐中電灯を点けると走り出した。
 冬香がハッと息を呑む音を聞いたけど、分校の光が届かない所まで走ると、もう何も見えなくなったようで、一生懸命に走り始めた。

 その後、森が終わるまであたし達は止まらなかった。
 と、行きたかったけど、あたし達は途中で止まった。決してスタミナ切れと言う訳ではない。目の前に誰かが出てきたから…。
 そこは丁度、森が開けた場所だった。
「誰…?!」
 そう言ってあたしが懐中電灯を向けると同時にその人も誰? と言って光で照らす。
「もしかして…」
 あたしは声を聞いて、思い当たる人が居る。あたしが思っている通りなら信用できる。そう思って懐中電灯を下げた。そうすれば、相手はあたしの顔が見えるはず。
 だったのに…目の前の人も懐中電灯を下げた。これじゃ、真っ暗…。と、思い懐中電灯で照らすと、相手も…。
 これの繰り返しで30秒くらい沈黙していたけど、冬香がやっと声を上げた。
「ちーちゃん…?!」
 その声に、相手もやっと声を出した。
「やっぱり、冬香…!? と、夏美ね!?」
 大人びた声、身長も170cm超…。あたしと冬香と一緒に四季と呼ばれていて、あたし達のリーダー的存在――、
「――、千秋…」
 あたし達の探していた、鮎川千秋だった。だけど、どうしてここに?
「ねぇ、待ち合わせって、海岸じゃなかったっけ?」
「べ、別に…。心配に、なっただけよ…」
 語尾が小さくなるちーちゃん。照れてるのかな? かわいいんだから…。ふとあたしは笑った。その瞬間に二つの懐中電灯が地面に落ちた。でも、拾おうともせず、静かに千秋に抱きついた。すぐ後に冬香も抱きついてきて、これでやっと3人一緒。
 2−Aに春菜も居たらここで会えたかもしれないけど、このゲームに巻き込むのは嫌だな…。そう、春菜だけでも生きてるのよ、確実に。多分あたし達には秀才の千秋が居ても、勝算は限りなく低い。チーム対決と言う面では男子に任せるのもありだと思うけど…。
 とにかく、あたし達の班は一緒らしい。

――今は、それだけで良い。

 と、思ったんだけど…もし、こんな事を思わなかったら、あたし達はどうなっていたんだろう…。
 そんな事を思う間も無く、何かが自分達の足元に飛んできて、爆発した。
 それはピカッと光った。後はもう、覚えていない。その瞬間にあたしは今までに体験したことの無い痛みを覚えた。
 あぁ、いつだって、急なのね…。結局、何も言えなかった。今まで、本当に楽しかった事も伝えられなかったし、さよならの一言さえも言えない。いつも、こう…。

――みんな、ごめんね…。あたし…いつだって……、役に立てなくて…。

 最後に暗闇の中にタバコの火が見えた。

【残り33人】

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