BATTLE ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜


15

 戸波が体育館を出て行くと同時に兵士の一人、俺の直属の義倉が体育館に入ってきた。壁に幾つかある梯子を素早く昇り、自分の元へ来、報告をする。
「――そうか…特別参加者については分かった。青井の事は気にしなくて良い。それよりも同じ様に部屋の中を見ていて、まだ生きている和帝二、名村鏡夜の言動に気を付けろ」
 義倉はすぐに帰っていった。
 さて、義倉の言った事に対策を講じなければならないだろう。そう思い、俺は進行を金に任せた。
――特別参加者6名…ハッキングの形跡…七原との接触…。
 そもそも団体戦と言うだけで、進行がややこしい。首輪にカメラの装着は現段階で無理だから、同班を殺したのかどうかは、音声だけで判定しなければならない。
 しかも、違う班が一緒に居る場合には、やはり引き離す策が必要だ。
 その上新しく、訓練員を含めた今プログラムへの特別参加者が来るとか…。かなりの強さの奴が居るはずだ。中には事情ありの人間がいるそうだが…。政府はこっちの都合なんざ考えてないんだなぁ…分かってる事だけど。
 そして、数ヶ月前に侵入されたと見られる、政府のHP。どこを覗かれたのか見当がつかないような報告だったが、果たして…。
――全く、今回のプログラムは最悪だな。世話好きの俺で良かった…実際、他の担当官には任せられない。
 そう言えば、名村が七原と接触した可能性も出てきたんだったな…。何かを聞いていて、それを使って“脱出”と言う最悪のシナリオだけは起きてほしくはない。それはあいつらにとっても、後々の将来が危うい。逃亡生活を続けても、道は暗い。この国、大東亜は内側からしか――、

「なぁ、仁先生…聞いてますか?」

 俺の思考を中断する声がした。
「真辺、静かにしろ」
 キムが俺に話し掛けたらしい真辺黎(男子18番)に冷たい視線を向ける。
「キム、だったかな…? すみませんけど、今は仁先生に話し掛けてるんです」
 黎の目がキムを睨んだ。瞬間、キムが救いを求めるかのように俺を向く。黎の目は、宛ら銀狼。キムのように成り上がった一介の軍人が竦むのは無理ない。
「黎、お前が出る番だが?」
「それだったら、三田村を先に出してくれませんか?」
 いきなり、名前を呼ばれた三田村マリ(女子18番)がびくっと震えた。黎はどうやら、最初からその気だったらしい…。本気になった黎は決して曲がらない。だから、「駄目」といい続けても、ここが禁止アリアになる時間になっても、黎は残るだろう。時間切れになって死んでもらうのも困る。
――しょうがないか…。
「良いだろう、分かったよ……三田村マリ」
 三田村は黎を一目見、俺を一目見、デイパックをひったくる様に体育館を出て行った。
「仁先生、出来ればなんですけど、キムさんとか、他の兵士さんもさがらせて頂けますか?」
 真剣な目だった。殺そうとか言うんじゃなく、ただ純粋に話がしたい、と言う事なんだろう。まぁ良い、こっちも瞬真准将の話がある。
「キム、下がらせてくれ」
 不服な顔をしていたが、先程の黎の目を思い出したのかサッと顔を曇らせて全員に指令を出した。一人、また一人と体育館から出て行き、最後に渋々とキムが扉を閉めた。
「それで黎、話はなんだ?」
 俺は黎の首輪の電源を切りながら話した。これで盗聴はされない。
 気が付いたのか、黎は頷くと、降りて来てくれと言った。
――注文の多い何とか…かな?
 俺は階段を使わず、手っ取り早く飛び降りた。
 黎は少しだけ驚いたような表情をした。
「…時間が無いようだし、素直に質問には答えてくれ、仁先生」
「質問…? 一方的だな。まぁ良いだろう、話せ。」
 ついでだ。こちらも、色々と教えておくべき事がある…。
「じゃあ……あんたがうち(2−A)に来たのは、プログラムの為か?」
 どれから聞くか迷う様な口振りだ。
「そうだ。担当官には色々と仕事があるんでな」
 黎は少し表情を暗くする。
「仕事、か…。トトカルチョだな…?」
 すぐに黎は何も話さなくなった。壁に寄りかかって何かを考えているようだ、が…、時間を忘れてないか…?
 じっと押し黙る黎に、俺から話しかける事にした。
「黎、“creation”と言う合言葉は聞いた事は無いか?」
 creationは合言葉だ。直訳では“創造”という意味になる。
「…まずは、お前の父親の話からしなければならないか…。
真辺瞬真は現在、Aランクテログループ“紅月”のリーダーを請け負っている」
 黎が少しだけ呻いた。
「しかし、名は他にもある。元専守防衛陸軍中国大隊隊長、元専守防衛陸軍秘暗部工作員、通称“瞬身ナイト”…。瞬真には数々の功績とそれによって手に入れた名声が、段々と付いて回るようになった。
窮屈だったろうな……第一、狙われることが多くなる」
 秘暗部は極秘組織。国内に数100人しか居ないであろうスペシャリスト達が公の仕事とは別に活動している。あらゆる会社などの詮索や、反政府組織上層部の暗殺。まぁ…一介の軍人が知るわけが無い。
「つまりだ、反政府側に回ってもそうなんだよ。今頃はこっちの者が向かっているだろう…。多分瞬真はそれを見越して、お前に何も教えなかったんだろう。
“明日の創造”という、裏の補給屋は中立組織だが、自分達の存在が危ぶまれる場合には平気で背中を撃つ。その時にお前が何も知らなければ、生存率は上がる、そう考えたんだろう、トキマサは…」
――中学以来に呼んだな、この名前…。
 瞬を「とき」、真を「まさ」を読む、瞬真のあだ名だ。親友だった俺達がプライベートだけで呼んだ愛称。
「仁先生、あんた…。」
 黎の頭に? が幾つも浮かんでいる。秘暗部を俺が知っている事、明日の創造という組織の事、トキマサを知っている事…。
 とにかく、一つでも知りたいのだろう。黎は口を開きかけた。が、ゆっくりと口を噤んで俺から目線を外した。
「黎、時間になる、出ろ」
 俺は出口まで歩いてデイパックを一つ取り上げた。重さからすると、銃火器類だろう、しかし出来ればサブマシンガンのような物を渡したい。絶対に出来ない事だが…。
――せめて、これで…。
 俺はCz.M75をデイパックに忍ばせる。そうして、少しだけ重くなったデイパック、それを黎に投げた。
「1時30分だ、2分弱しかないぞ、真辺」
「…あぁ……仁先生」
 結局、謎が増えただけだったようだ…。それでも、黎はもう何も言わずに出て行った。
「さて、これで本当のスタートだな。」
 ポケットからリモコンを取り出し、静かに男子19番の首輪の電源をいれた。

【残り33人】

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