BATTLE ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜


18

――何が俺を突き動かしたのだろうか…。
 園村の死体が目の前にある。
 月は隠れた。
 しかし、クリムゾンレッドの染みは、網膜に焼き付いている。地面に染み込んでいく音がするような気がした。
 銃を取り落として、俺は静かにその場で蹲った。心臓の鼓動はまだ速く、俺の心にのみで木を削っていくように嫌悪感と自分の犯した罪とを彫り込んでいく。
 その思いは深すぎたのだろうか…何か分からない感情しか心の中にはない。
 叫んだ、心の中でその感情の名前を探した。心を裏返して、内側だった外側にくっ付いている感情を必死に見返す。
――恐怖…狂気……違う、俺は…一体何をしたんだ?
「和…」
 真紘が歩み寄ってくるのを、俺は静止させて言った。
「行ってくれ…。後で行く…俺は…今は行けない…」
 森の中を指差した。
「なんで……」
 駄目だ…こんな俺が傍に居るなんていけない…。
「行ってくれ!」
 叫んでしまった。
 どうしようもなく、心のそこから涌いてくる感情だが、自分自身でも理解できないのだ。ただただ、蹲ったまま、この発作が収まるまで待つしかない…それ以外にどうすれば良いというのだ…?
 真紘の去っていく足音を聞きながら、無責任に俺は鏡夜の顔を思い浮かべた。
――もし、俺が駄目だったら、頼むぜ…駄目だ…俺は…。殺しちまったよ…。
 仰向けに転がった。
――良いだろう…? 勝手なのは生まれつきだ…何も言わずに死ぬような事になったのなら、信じはしないが、運命とやらの責任だ。
 どうやら、今すぐって訳には行かないらしいけどなぁ…(園村は8班だった)。とにかく、後はまぁ、どうにでも…。
 手を見つめた。
 両の手に月の光が当たり、園村の血が鈍く光る。
――満月は、確か今日からの3日間だった気がする。
 たまたま昨日見たカレンダーが頭に浮かんだ。
 うさぎの餅つき。女性の横顔。蟹。月の模様は色んな見方がある。色んな表情がある…。けど、月は一つ。
 当たり前の事だ。
 自分が生まれるずっと前から、生まれてからこれまで、これからもずっと、当たり前に月は地球を回り続けるだろう…。
――どうせなら、伝言役でも務めてくんない?
 俺は思った。
 ふと気付いた。ポケットの中に地図が押し込まれている。――2枚。
――追いかけなきゃ。
 月が答えた気がした。
 地図の一つは自分のもの。
 もう一つは、俺が真紘から預かっていたもの。
 頭を幾度目かの後悔が過ぎった。
 真紘は、自分の指差した方向に向かったのだろうか?

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