BATTLE
ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜
28
赤の色は、情熱の赤だとか、暖かそうだとか、昔の友達は電池の+極を表す色の事だとか言ってた。
けれど、青に染みていくあの赤は、今まで誰も口にしなかった色だった。
赤は、血の赤だ…。
あの後、とにかく神崎を連れて海をもう一度渡って、森に入った。(佐藤は身を投げる前に、支給武器であるワルサーPPKをその場に置いていた。今はわいがそれをベルトに挟んで持っている)
あのままあそこに居れば、明るくなった今だ、格好の的になるしかない…。
とにかく、身を隠したのだ…。(その時に、わいと同じ6班やっちゅうのも確認した。この点に関してだけは、運がええとしか言いようがない)
しかし神崎は、まだ泣いている。
もう10分? それとも1時間は経ったのか?
神崎がただ泣いているだけで、時間感覚があまりなかった。(時計を見る気も、あまり起こらなかった)
神崎は泣き続けて、わいはそれをどうしようもなく見ている…。――だけじゃ、あかんやろ、やっぱり…。
「神崎……」
呼んだ。ふと泣くのが止まった。そして、まだ涙の浮いた顔で、神崎はこちらを見た。
頭の中がぽうっとして、不覚にも何を言おうと思ってたのか忘れてしまった。
――なんや、そんな顔、見たの初めてやぞ…。
「何…?」
また、神崎は顔を伏せた。
ほんの少しの間に思い出した事をまた、忘れてしまった。
「いや、だから……さぁ……」
泣くなよ、とは言えない。
親友が死んで泣かないなんて、出来るわけがない…。
けど、泣いて欲しくない…。なんて、言えば良いんだろう。さっきまで、どう言おうと思ってたんだろう…。
「神崎…」
名前を呼んで、そこでまた途切れた…。
――なんやったっけか? わい、何て言いたかったんやろか…?
柄にもなく、唇が乾いてしまった。
人間、こんな状況でも照れるんやなぁ…て、それどころやないやろ!
「野中…」
先を越された。
「な、なんや…?」
「野中は、悲しくないの?」
――…。
「香織が……死んだんだよ…?」
――…そりゃあ…
「ねぇ、香織はさぁ…いっつも一緒だったんだよ…?」
――…わいやって……!
「香織は…あんたの事…」
「――悔しいに決まってるやろ!?」
思わず出てきた。初めて怒鳴ったかも知れんけど、そんな事を気にする間もなく言葉は次々に出てきた。
「けど、ここでくよくよして何になる! 死んでしもたんや、ってそこで終わりにせぇへんかったら、いつか自分が死ぬんやで!?」
そりゃあ、悔しい。当たり前や…。
いつでも止められたハズやのに、止められへんかったんや…。悔しない方がどうかしとる…。ケド、そのままで居ったら、結局死んでしまう…。
「あいつが、俺達の死を望んでるって思てんのか?」
真意は、分からない。
が、わいはあいつがそう思うヤツやないと知っとる。――勝手な解釈やけど、そうやろ香織?
「お前が悲しむの、分かる…。けど、俺はきっちりしとかんとあかんのや…。
俺かて悔しい……。けど、俺はお前を守るて決めたんや…。ほなら、しっかりしとかな…て………」
これ以上、何を言えば良いのか…。言葉を継げなかった…。
言いたい事がない、と言うのもあったが、勢いそのままに言った“守る”と言うワードに、自分自身少し照れていたのもあった。
――まぁこのタイミングで言っても気付かんやろ…。
野中は思った。
神崎は、なぜか赤くなる野中を見て、残っている涙をふき取ると、笑った。
「そのセリフ、誰にでも言いそうね、あんたなら…」
――なんや、それ…
野中は前にバランスを崩すようにおっとっと、という感じでオーバーにリアクションをとった。
――気付いてるっちゅうのに、反応それかい…。誰にでも? いや、わいはそんなにものを安売りはせえへんのやけど…。
神崎は佐藤香織をもう一度だけ思い浮かべると、静かに胸の中にしまった。大切な記憶と共に。
少しの間彼女とは会わないだろう…。もし、生きて帰れたなら、その時には、また思い出して泣こう。そして、幼い頃のエピソードを、野中に色々と聞こう。
「あんた、どうしたわけ?」
変なリアクションに突っ込みをいれた。
「なんでもええやろ…」
――今言う必要も無いやろ…。立ち直ったばっかりなんや。いきなり好きやったなんて言われても、なぁ…。
「何それ…、意味わかんないし…」
「なんでもええやろ…」
さっきと同じ答えやんか…!
二人はまた笑った。が、表情はすぐに固まり、笑い声は喉の奥へとしまわれた。
二人の居る森を少し東に抜けたところ、湾の様に海岸線は島の内部へと向かう…。
その湾の向こう側で、銃声がしたのだ。