BATTLE
ROYALE
〜過去から現在(いま)へ〜
30
「金です。昼十二時、2回目の放送を始めます。準備はよろしいですか…?
まずは、午前6時からこれまでの死亡者を男子から順に発表します。
――それでは男子、3番江住大輔、9番立川耕作、14番根室昇、21番村田怜二。
女子、5番宇野小波、7番金本麗奈、10番佐藤香織、13番玉川香奈枝。
男子4人、女子4人の合計8人で、残りは23人です。
それでは、禁止エリアです。
13時から5−G、15時から6−I、17時から9−Fです。天気はこの後も快晴です。それでは頑張って下さい」
ブツッという音と共に、放送は終わった。それから数秒は、まだ灯台(10−B)の中には反響音が残ってはいたが…。
まず、飛騨弘(男子17番:7班)が、地図と名簿をデイパックの中へ、鉛筆は制服のポケットへと片付けた。それをみると、杯谷春芳(男子16番:7班)も慌ててそれに習い、道具をしまった。
「お前、オレの真似ばっかすんなって、いっつも言ってるだろ…」
はぁと溜息をつきながらオレは言った。
「い、ぁあの……マネって、いうか、その…ぇと……。ひ、ヒロが僕の、やる事…先に、やっちゃう、だけ……」
きょろきょろと辺りを見ながらハルは言った。言葉が終わりに近づくに連れて小さくなっている。
「周り見たって、オレ以外誰も居ねえっての…」
オレの言葉に、ハルはえへ、と笑った。
ハルはクラスでも身長の高い方に部類される。その割には、クラスでも1,2を争うほど体重は軽く、学年内でもここまで身長に見合った体重をもっていないのは他に居ないんじゃないか…?
そして、その見かけ通り(こう言ったら同じような体格の人には失礼かもしれないけど、オレはどうも第一印象が占める割合が大きいもんで…ごめん)ハルは気が弱く、周りに流されやすい。
強制されれば何でもやるが、強制されなければ何も出来ない…。いい加減直してほしいものだ。
「ハル、お腹……空いた、あ! ぃゃ……空き、まし…」
机をドンと叩いて、笑いながら――いや、とは言っても、脅しをちょっと込めているけど――言った。
「――いい加減どもるの止めようぜ? なぁ、いっつも言ってるだろ?」
オレの笑顔の意味が分かるハルはひぃと言いながら机に潜る。
「冗談…。いや、冗談じゃないけど、怒っちゃいないから…」
最初の方は笑っていった。しかし、ハルが顔を出したらへんで、笑みは消えていった。
机の上には、一冊のノート(日記帳だそうだ。表に流暢な字で書いてあった。胸糞悪く捨てたいところだが、まぁしょうがなく持っている。物は大事にと言われて育ってきた弊害だ)と、一つの銃があったから。
さっき、オレが机を叩いた時も、チャッという音を立てていたこの銃は、マイクロウージーと言うらしい。
黒い塗装で、持ち手に近い場所にはFとSの表示とコックがある。(Fはフルオート、Sはセミオートらしい。今はフルオート状態にしてある)
そして、一番の特徴は後ろにある、銃本体と同じくらいの長さの折りたたみ出来る銃床だ。確か、銃の反動を抑えたりするんじゃなかっただろうか…?
とにかく、これはオレとハルの見る初めての銃だった。アニメやゲームなどでよく銃は見るが、本物を見れる事になるとは思っても見なかった。まぁこう言う形で見るのなら、全然嬉しくも何ともないけど…。
てか、日記帳とかふざけてんのか? 何が支給武器だっての……。日記の角で頭でも叩いて撲殺しろとでも言うのか? そんなんで気絶だってしたヤツすら居ないっての…!
武器じゃねぇもんを武器として配るな…! ホント…――、
「ねぇ、ヒロ…」
オレがさらに愚痴ろうとした時、ハルはいきなり口を開いた。
「ん、なに…?」
「僕ら、まだ生きてるんだよね…?」
「へぁ?」
思わず変な声が出た。
「生きてるじゃないか、今こうして!」
当たり前だろう? と、言うように俺は表情を作り、そう言うリアクションをとった。が、ハルは首を振った。
「違う……僕ら、今、生きてるって言えるの?
こうやって、楽しくも無い場所で誰かに殺されるのを待ちながら…、そして、いつか死ぬのを……生ているって言うのか、って、意味…」
オレ達は生きている…。だが、生きていない…?
残念だが、オレはこう言う哲学みたいなのが大の苦手だ。しかも、意味が正反対なのに同じ事を指すなんてのは、さっぱりわけが分からない…。
ただ、今回ばかりは、自分もなんとなくハルの言っている事が分かった。確かに、生きていると言う実感はない。ついこの前――まぁ言ってしまえば昨日――まで自分達は教室でいつも通りの時間を過ごしながら、一緒に笑っていたのだ。
それが、今では殺しあいに引っ張り出され、慣れぬ武器を持たされて、さぁ殺しあえと言われたのだ…。既に、昨日のあの時間などは、銀河系の彼方に飛び去ってしまった…。決して戻れることは無い。
しかも、事実、クラスメート達は段々と人数を減らしていっている。既に半数に近い人間が、友達が死んでいると言う事は、もうこれは間違いなく、このくそゲームのルールに則って動いているヤツが居るのだ…。(まさか全員自殺だなんて、ありえないだろう? ハルだってそうは言わないさ…)
昨日と言う遠い昔は、確かに俺達は生きていたのだ。不満や窮屈さはあったが、確かに…。
しかし、今ではどうだ…。不満を言えば容赦なく射殺され――そう、須来安珠(男子7番)や今村信子(女子4番)のように――そして、首輪までつけさせ、禁止エリアなどの数々のルールで俺達を縛る…。
「こんなん、確かに死んでんのと変わんねえ……」
じっと、オレは膝の上で組んだ自分の手を見るだけだった。
そして、それはハルも同じで、時間は過ぎていった。そして、どれくらいたったのか、オレがとにかく場を仕切りなおそうとした矢先、灯台のドアがドンドンとなった。
心臓が跳ね上がった。
分校を出てから今まで、自分達は一人の人間とも会っていなかったからだ…。
「ぉ、おい、とにかく、上に上がろうぜ、ハル……」
この灯台のドアは、分厚いから声を全くと言って良いほど通さない。しかも、内側から閂を掛けてドアを閉めるような構造だから、無闇に空けるわけにもいかないのだ…。
つまり、上に行かなければ、会話が出来ない。
ハルは先に上っていった。
オレもすぐに立ち上がり、階段を上がった。が、やや考えると、机まで戻ってマイクロウージーを肩に掛けると、今度こそ立ち止まる事無く、螺旋階段を登りきった。
オレは、登りきると、何回も回る階段のせいでやや気分が悪くなった。(最初に登った時もそうだったから、オレの三半規管は相当弱いらしい…)オレは両手を広げて地上6mの風を思い切り吸い込んだ。
「ねぇ、誰なの?」
女子の声がした。
聞き覚えのある声だった。
「大丈夫だよ、杯谷と、ヒ…じゃない、飛騨だよ…」
オレは、後ろから、そっとヒロに忍び寄った。
「そう、良かった…。で、あの、一人だから、出来れば中に入れて欲しいんだけど…」
二度目に聞いた声ではっきりとオレには誰か分かった。
後ろからハルを羽交い絞めにして、下から狙われないようしゃがませる。その一瞬で下に居る女子の顔を確認した。
「静かに…」
悲鳴をあげかけたハルに小声で言う。すぐにオレだと気付いて、ハルは訊いてきた。
「何…?」
「班はしゃべってねぇな!?」
他の事はさて置いて、オレは用件だけを先に告げた。あまり長く時間を掛けたくはない。
ハルはうんと頷いた。オレはそれを確認すると、下に顔を出した。やはり、居たのは菱倉理沙(女子17番)だった。
「飛騨だ。お前の班を教えてくれ。その返答によっては、入れてやる事は出来ない。こちらから攻撃はしないが、ここからは立ち去ってもらう…」
オレはマイクロウージーを下から見えるよう、少し持ち上げた。
「班? あたしは――」
案外素直に、菱倉は答えた。オレは驚いた…。
オレは正直、菱倉はルールに則って人を殺しているようなタイプだと思っていたから、さっきもハルを急いで引っ込ませたし、他人にも自分の班を教えるようなマネはしないと思っていたのだ…。
「――7班よ…」
飛騨はちょっと気が抜けたような感じがした。
用心する意味は全くなかったのだから…。菱倉の様子もあまり人を殺しているような態度ではなかったし、第一班が一緒なのだから…。
――なんだ、取り越し苦労って言うのはこう言う事か。
「オーケーだ。俺達も7班だぜ! 今、下のドアを開けに行くから、ちょっと待っててくれよ!」
振り返って、ハルに言った。
「下の閂をさっさと外してこようぜ」
今度は、オレの方が先に階段を降りた。なぜか目はあまり回らなかった。
階段を下って、走って調度7歩でドアの前に着いた。(7だ。7班だし、ラッキー7だ。スッゴイ)
閂は錆が付いているから、手が茶色くなった。しかも、重い…。
追いついたハルは、オレが落とし掛けた閂を下で受け止めた。
「ナイス…」
閂は脇の方に立てかけておいた。
すると、オレもハルも触っていないが、静かに鉄の扉は開いた。
――そう言えば入って来た時もそうだったかもしれない。立地条件か? それとも風?
オレはそれをハルに訊こうとしたが、ドアが開いていくギィという音がするにつれ、後ろに向けていた顔を前に戻していった。
オレはなんとなく嫌な予感がしたのだ、その時は……。そして、それは――
「ひ、菱倉さん……? ぇ、ぅ後ろ……。は、は班……ぅ嘘…?」
オレは言葉を出せなかった。変わりにハルが全てを言った。まず、菱倉は一人じゃなかった。後ろには、もう一人居たのだ。そして、班も違った。
オレにもハルにも、はっきりと液晶の6が見えていた。
オレは何を考える間もなく、ウージーを構えかけ――次の瞬間には、ぱららっと言う音と共に崩れ落ちた。
体中を何かが突き抜けた感じがした。じきに、90度傾いた視界に、赤い色が混じりだした。
「ハ、ル……」
痛む体を無理やりに捻って、オレはハルをみた。体中に今まで感じた事のない痛みが走り抜けた。が、オレは何とかハルの手を握ろうと、手を伸ばした。
伝えたい事は山ほどあるのだ。
ハルと一緒に居た今までの時間を伝えたかった。もしかしたら、ハルには好きなヤツでも居たのか…? 訊きたい事も山ほどあった。
が、次の瞬間には、オレは頭に強い衝撃を受け、目の前のハルも、その手の失われつつある温かみも感じる事が出来なくなった。
その数秒後には、飛騨弘の後を、杯谷春芳も追った。
「赤桐、コレ凄いよ。あいつら、この表示通り、7班だったし」
菱倉理沙(女子17番:6班)は赤桐凌(男子2番:6班)に言った。
その探知機は、わずかに200m四方――つまり、大体エリア1つ分――しか探知能力は無かったが重要なのはそこではなかった。
首輪から出る電波で、近くに居る人間の位置と、班を教えるのだ。
灯台らしきものがある場所には、2人の反応があり、そして、7と言う数字が2人の傍にあった。
「コレ、最初からあったら良かったのにね」
赤桐は、それを聞いているのか、聞いていないのか、飛騨の体からウージーを奪い取り、机の上のノートをぱらぱらとめくった後に、捨てた。
――聞いてるの? 全く…。
菱倉は呆れ顔で思った。が、こう思うのは何度目だろう、と思い、赤桐を見るのは止めた。
外を見た。日はまだまだ高い。
――日焼け止め、持って来ていれば良かった。
潮の匂いもした。岸壁に打ちつける波の音も微かに聞こえる…。静かに、静かに…。何か、あたしに思い起こさせようとでもさせようとしているのだろうか…?
「そんな事をしても、あたしはもう人じゃないのよ…」
無意識に呟いた。